第124回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その54~ ECM改革を推進するコツとは~ECMへのチャレンジとその考え方~

DXというトレンドに背中を押され「自発的」にECM改革へのチャレンジを行ったものの、考え方、進め方に行き詰まり、相談を受ける事例が増えています。ECM改革を推進するにあたってのコツや、その考え方を述べたいと思います。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その54~ ECM改革を推進するコツとは~ECMへのチャレンジとその考え方~

オミクロン株感染はピークを越えたとはいうものの、高止まりの状態です。ワクチン3回目接種の進捗(しんちょく)も先進国最下位で、接種に対する拒否割合が少ない日本の接種率が上がらないという皮肉な状況です。一方、スギ花粉と共に三冷ホッピーの季節がやってきます。

現状のままBOM構築をすればECMは可能という勘違い

DXというトレンドをきっかけに「もうかる製造業ニッポン」を考えて、ECM(Engineering Chain Management)の必要性に気づき、自ら改革にチャレンジする中堅製造業が特に増えています。そのこと自体は望ましい動向です。しかし、その考え方や初動に迷いや誤りがあって「やぶの中」に入り込んでしまい、方向性を見失って、相談を受けるケースが増えているのです。

おおむねこのような展開です。
中堅製造業ともなれば経営層の意識も自社の状況を認識して、会社継続への危機感の共有はある程度できていると考えます。従って、具体的な施策としてDXトレンドも視野に置きつつ、ECMへのチャレンジを試みます。さらに共通項として、ECMの具体的手段はBOM構築を前提とした流用化・標準化設計を選択する志向です。

当然、前さばきへの諮問(しもん)機関的なグループやPJ(プロジェクト)を設立して「どうやってやるのか?」という考え方や日程、そして重要なリソースを策定させることになります。明らかにトップダウン先行型です。それ自体は経営層の意識が明確なわけですから悪いことではありません。しかし、この業務を指示、命令されたスタッフはまさに「青天の霹靂(へきれき)」状態です。

「おいおい、ECMって何だ?」「BOM構築って具体的にはどうするの?」「流用化・標準化設計って本当にできるのか?」などなど、スタッフ同士で右往左往することになります。

それでも、いろいろな資料、参考文献を読みあさって何とか「このような感じでしょうか? しかし、この内容で方向性や求める結果としての正しいのか否か、さらに、これを設計部門に理解させて、具体的に進捗させる自信がありません」という結果になります。この行き詰まり感もあって私への相談が増えているのです。

しかし、この結果には経営層の不作為も感じます。「ECMを実行するぞ。基本的な到達目標や方針、具体的方法論はよきに計らえ」的な感触です。

最も大切な「最初のボタン」を掛け違えることなかれ

最も大切な「最初のボタン」とは何でしょう? ここを掛け違えれば、いくら努力しても掛け違えたままの結果となります。これは経営層にも社員層にも不幸な結果をもたらします。

「最初のボタン」、それはECMを実行するにあたっての「未来目標」です。つまり、ECMを行うことによって得たい未来、グランドデザインということです。「我が社の未来はこうありたい!」という到達目標です。

ほとんどの場合、諮問を受けたPJから見せられるケーススタディーの結果は「現状の延長線上のBOM構築」になっています。
「今は下流側にこのような設計成果物を出力していて、それをBOM(のような物?)構築(焼き直し)することを考えています」という感じなのです。

ここが最初のボタンの掛け違いの始まりです。

経営層から「将来、このような設計部門にしたい。このような下流側のモノつくりをしたい」という「未来グランドデザイン」が提示されない限り、PJメンバーは現状の延長線から視線を振ることはできないと考えます。

経営層は不作為や、よきに計らえ的丸投げ、ではなく「最初のボタンとボタンホールはここにある!」と提示する必要があるのです。

そこには全社員が納得する経営的必然性が存在し、会社という職場を守るという意思を明確に提示すべきです。これらは、これから負荷を背負って改革を進める設計部門全スタッフに向けての大切な「モチベーションプランニング」でもあるのです。ぜひこの重要性に気付いてほしいと思います。

中・長期経営計画と同期しているか?

経営層からのトップダウンの場合、会社としての真剣度を推し量る「リトマス試験紙」があります。それは、このECMへの改革が中・長期経営計画として策定されているのか否かなのです。

威勢のよい「ECMへの挑戦!」などというスローガンを掲げる経営層に「ところでこの改革に対する中・長期経営計画にのっとったリソース配分やマイルストーンの検討はされましたか?」という質問を投げかけます。
すると「……」という悲しい回答が多いのです。

これでは先ほどのスローガンは単なる見掛け倒しか、そもそも本気ではないという証しとなってしまいます。ECM改革としての流用化・標準化設計の実現には「経営的な覚悟」は必須なのです。つまり、リソース(人・モノ・特にお金)の出どころを確保しない改革などあり得ないということです。

ECM改革へのコツをまとめてみると

  1. 経営層と改革を担うPJメンバーとの間に「未来グランドデザイン」が共有されている
  2. 経営層が「最初のボタンとボタンホール」をPJメンバーに認識させ、全社員に対するモチベーションプランニングとして会社の「本気度」を知らしめることができている
  3. ECM改革と中・長期経営計画とは同期が図られ、会社としての最重要施策として扱われている

この三つのポイントがしっかり押さえられている場合、もう一つの重要なコツが備わっています。
それは……、

4.PJリーダーは「改革の旗手」としての素養を備え、次期経営層候補者がその任を担っている

ということです。
端的にいえば、PJリーダーと会話の機会を持てば、ECM改革成就の可否が想像できてしまうということです。それ程大切な「改革の旗手」たるPJリーダーなのです。

1、2、3項がかなうことはもちろん重要ですが、4項は人材確保として安易なテーマではありません。ふさわしい人材をリクルートするのか? 自社で育成するのか? ここにこそ経営層の未来グランドデザインの有無が問われるのです。

以上

次回は4月8日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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