第66回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その4~ 「今日の糧か? 明日の糧か?」

改革プロジェクト(PJ)運営におけるメンバーの悩みで最大かつ、定常的な物……それは今を生きる現業(今日の糧)か? 将来への改革行動であるPJ(明日の糧)か? という業務としての軋轢です。全ての改革現場に存在する、このテーマを改めて、正面から捉えてみましょう。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その4~ 「今日の糧か? 明日の糧か?」

風薫る季節です。嬉しい季節です。後もう少しでネクタイから解放されます! ホッピーのベターハーフである「金宮」も常温から冷蔵へ衣替えです。

今日の糧も明日の糧も大切なのです。比較すべきものでは無いのです。

お預かりする設計部門は中小中堅製造業が圧倒的に多く、したがって設計者(設計工数)に余裕のある場合など皆無です。もっとも、この危機的状況を改革するための改革PJでもあり、設計工数逼迫解消と改革PJの進捗はまさに鶏と卵の関係の典型でもあります。鶏か? 卵か? どっちが先か? の軋轢や葛藤がもたらす例外なき問題です。

業務状況的に見ると間違いなく、PJメンバーには今までの仕事(現業)にPJとしての業務が加わることになります。
現業はどこも多忙であり、当初は何とか遣り繰りしていても、現業が少し好調と成れば、あっという間にPJメンバーは崖淵まで追い込まれ「いったい現業とPJとどちらを優先すればいいのですか?!」という会社幹部とのやり取りとなります。

この時、会社社長や幹部つまり経営陣からは「谷口さん、一体どちらを優先すべきなのでしょうか?」という質問を多く受けます。

皆さんであればどのように答えますか? この「どちらを優先すべきか?」という思考には現業とPJとの重要性や経営的価値として「比較する」という意志が存在しています。しかし、経営陣がこの比較により結論を出した途端、PJメンバーは、その比較判断を既成事実化してしまいます。つまり経営陣の「弱気」や「PJへの本気度」を察してしまうのです。

これは将来に向けてのPJ運営に大きな問題を残すことになります。
したがいまして、私は必ず「両方とも!」と答えるようにしています。

特に経営陣には「ここは強気で行きましょう!」と背中を押します。少なくとも「明日の糧のために今日の糧を諦める訳にはいかない」つまり、「今があっての将来、PJを中断させよう」などという愚かな経営判断だけはしない様にアドバイスします。
そのアドバイスの根拠は何かと問われれば、それはPJメンバーの「伸び代」を感じている、期待しているからです。

PJメンバーの伸び代を引き出す判断とは……

PJメンバーは選抜されたスタッフでしょうから決して作業効率が低かったり、ましてや8時間でできる仕事を10時間にして残業代を稼いでいたりするようなことは無いと思います。が、しかし……
本当にそう言い切れるでしょうか?

残業代稼ぎは無いとしても、8時間の仕事を6時間に短縮できる「効率改善」のチャレンジの体験はあるのでしょうか? リーマンは誰もが「自分は一生懸命やっています。これ以上無理です」というでしょう。「そうか、では無理しないで行こう」という経営陣では改革の進捗は望めません。このPJ運営は改革を完成させるという命題ではありますが、裏に隠れた期待役割として、「次世代経営陣」の育成という大切なテーマが存在することを忘れないでください。
「伸び代」を「伸び=成長」にするための「試練・訓練の場」がこのPJなのです。

あるPJメンバーから「谷口さん、本当に厳しかったですが気が付いたら設計という仕事ばかりでなく、あらゆる仕事の処理能力が上がったと自分自身で感じられるようになりました」と言われました。この言葉はコンサル冥利につきますが、もっと大切なことがあります、そうです、次期経営陣候補の完成です!

PJメンバーにどこまで過負荷を掛けるべきか……? 経営陣としての試行錯誤もあるでしょうし、私が設計をやっていた頃の無茶もメンタルヘルスとやらの抑制要因からできなくなりました。したがって、「両方とも!」と言いつつも過負荷のレベルの高低調整はあって良いと思います。例えば、PJの開催回数を時限的に減らしたり、一時的な派遣技術者を雇用したりすること等も「精神的な緩和」としては有効でしょう。

経営陣の「今日の糧も! 明日の糧も! 両方とも!」という一見矛盾した判断を揺るぎ無く突き通す姿勢をPJメンバーに見せることは、何より今回の改革の本気度を知らしめることにもなります。
今日の糧、明日の糧問題はPJメンバーより経営陣につきつけられる課題として、どの会社も例外なく遭遇し、解決を迫られます。
それ程、普遍性のある課題です。しかし、その割には思いのほか経営陣に傾向と対策がなされていない課題でもあります。
自社の現状を眺めて常々考えていただきたい課題であると思います。特に経営陣の方々には。

次回は6月2日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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