第65回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その3~ 「改革の旗手を失うな!」

設計部門改革という厳しい課題と戦う人材、ましてやリーダーとしての大役を買って出る改革の旗手を失うことは、改革の失敗と直結します。実際にあった事例を基に失敗の研究をしてみましょう。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その3~ 「改革の旗手を失うな!」

東京には全国に一歩先んじて桜の開花宣言が出されました。このコラムがアップされる頃には絶対「ホッピー花見」です。
通勤電車で見かける新社会人も初々しく、開花も重なり新たな「スタート=開始」を感じさせる季節です。

前回では、中途入社スタッフの比較文化論を大切にすることと、「設計部門改革の旗手」として重要な存在になっていく可能性が大であるということを述べました。ボトムアップとしての牽引を担う存在です。

他の設計スタッフにおよぼす影響も多大であり、その存在感はプロジェクト(PJ)が進捗するにつれ大きくなっていきます。それ故、万が一にでも彼らを失うことになればPJはあっという間に空中分解してしてしまうことにもなりかねません。私も今まで多くの会社をお預かりしていますが、すべて順風満帆にことが進むケースばかりではありません。

今回は失敗の研究という切り口で、この「改革の旗手A君」を失ってしまった実際のケースを皆さんと考えてみたいと思います。

尖った存在であるべきだが、尖り過ぎることへのコントロールは誰がすべきか?

改革の旗手である以上、現状否定はできているのですが、問題は現状から過去へその矛先がおよび、過去否定にまでおよんでしまうことです。兎にも角にも現在会社が存在していることは過去を紡いできた人々の働きの成果であり、その事実は尊重しなければなりません。会社の規模や製造業としての成長に伴い、設計部門の将来のあるべき姿として、この現状否定はあるべきです。しかし、過去否定の行き過ぎは「今まで会社を支えてきた」という社歴の長い設計者の自負心への否定という雰囲気を醸し出し、彼らがその考えについていけなくなり、いわゆる改革への抵抗勢力と変化してしまえばPJ全体の運営に大きな支障をきたしてしまいます。

さらに、過去否定にはおよばないまでも、尖り過ぎて「一人旅の改革の旗手A君」となってしまい、後ろをふり返ったら誰も付いて来ていなかったという状態にも注意をしていく必要があります。現状が常識となってしまっているPJメンバーには、A君の一挙手一投足が新たな常識なのです。やっとのことでその意味を理解し青息吐息でA君の背中を追っかけているという現実は理解しなければなりません。

したがって、問題は、この尖りレベルのコントロールというかマネジメントはA君本人にはなかなかできそうでできないということです。

もちろん、私のコンサルとしての大切なテーマではあるのですが、月に数回のPJ会議だけでは状態は把握できてもマネジメントまではおよばないのが現実です。では、誰のミッションなのか?

明らかに設計部長もしくは設計担当取締役の仕事です。つまり、A君と経営者の間に位置する役職者です。クッション役としての気づきです。

トップダウンが既に存在し、トップたる経営者にA君が良く見えていて、直接のコミュニケーションが存在する場合は理想的なスキームとして尖り過ぎる事への心配は後退しますが、トップダウンが未だ存在しない、もしくはこれからボトムアップを通してのトップダウンの形成を目論んでいる場合、尖り過ぎているA君を上手く「プロテクト」する必要があります。

このような会社に限ってトップから以下の様な発言が出ます。

「何か中途入社のAは設計部門を混乱させているのではないか?!」「先代から仕える設計者Xがそう言っているぞ」

この発言に設計部長、設計担当取締役はクッション役としてどのように回答すべきでしょうか……?

保身の設計部長、設計担当取締役が改革の旗手を亡き者にしてしまう

「社長、分かりました。Aを少し控えさせます」的なトップへの回答をして、A君に対しては「社長がもう少し控えろと言っているぞ」と伝えた瞬間、A君の失望は極まり、結果、改革の火は消え去ります。そして遅かれ早かれA君はこの会社からいなくなってしまうのです。事実、A君は退社してしまいました。

保身の設計部長、設計担当取締役の下では結局、設計部門改革は成就しないということです。今の設計部門の状況を招いた自己責任をしっかり認識して、自分には無い経験値を持つA君に改革代行を委ね、その代わりA君とトップの間を上手く取り持ち、A君をリーダーとするPJの改革への源泉である現状否定という原動力に対し常にパワーを注ぎ続けることが必要なのです。

そうです、その覚悟の深さが結局は設計部門の改革の成否を握ることになります。
リーマンである以上、「保身を考えない」ということは難しいでしょうし、まさに言うは易しです。

しかし、いつもトップの方を見て上を向いてしまっている設計部長や設計担当取締役の基で設計部門改革は成就できないことだけは断言できます。その意味で、コンサルティングをお受けし、会社をお預かりすることへの判断として設計部長、設計担当取締役との面接は私にとって、とても大切な判断材料源と言えます。

改革の旗手がいかに有能であっても、設計部長、設計担当取締役のクッション役としての覚悟の真贋は見極めるようにしています。

次回は5月12日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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