第167回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その95~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(2/3)

今更「E-BOMとは」「M-BOMとは」と述べるつもりはありませんが、コンサルティングの現場では「いまだしっかり理解が及んでいないな」と感じる場面が少なくありません。あらためて一つのE-BOMから複数のM-BOMが生み出されることの理由を深掘りして理解を促進しましょう。3回に分けたコラムの2回目です。ぜひ1回目から通して読んでください。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その95~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(2/3)

スマドリ派に転身する前、なじみの飲み屋の「のれん」をくぐると開口一番「取りあえず生(ナマ)!」でした。ホッピーの前座として登場させていた生ビールです。世界に誇るニホンのビールメーカーがランサムウェア(Ransomware)攻撃を受けて感染し、大きなダメージを被りました。当社も人ごとではなく、疑似攻撃訓練などの対応を行っていますが、完全検疫を実現するのは難しいというのが現実です。

ましてや製造業の生産管理システムにダメージを受けるとモノつくりそのものが機能不全に陥り、製造業の体を維持することができなくなります。当然、復旧にも多大な労力と時間(=利益損失)を要することになります。報道では「工場側は手作業で対応を開始……」とのことでした。その現場は、想像を絶する混とんとした状況であろうと思います。既にビール業界全体の流通にも影響が出ているようですが、早期の復旧とウイルス検疫ノウハウの蓄積を望むところです。本件は、まさに「他山の石」とすべきでしょう。

モノつくり環境が異なる場合のM-BOM

モノつくり環境が異なる
=工程、外注先、ベンダー、支給部品の有無 などが異なる
=購買、外注、生産工程、在庫、原価 などの管理が異なる
⇒M-BOMも異なる

前回コラム「第166回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その94~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(1/3)」の図(一つのE-BOMからモノつくり環境に応じた複数のM-BOM)を参照しながら述べていきたいと思います。前回コラムの肝である上記が理解できていることを前提として、深掘りしていきましょう。

第166回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その94~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(1/3)

M-BOMを端的に表現すれば、「M-BOMとはE-BOMに『モノつくり情報』を付加したBOM」ということになりますが、「モノつくり情報って何だ?」というところから疑問が始まり、次は「どうやってその情報を付加していくのか?」と続きます。
深掘りする事例として、購買環境とモノつくり環境が変化した場合を考えてみましょう。それらの環境や条件の変化によってM-BOMをどのような考え方で(再)構成していくべきなのか? ということです。

1. モノつくりの前の購買環境の相違に対応する

モノつくりの前にはもちろん部品の収集、つまり在庫部品の引き当ても含めた部品の取りそろえが必須です。この部品取りそろえとしての職務分掌を担っているのが購買(資材)部門です。生産工場が異なる、例えば国内のJ1、J2おのおのの工場の購買部門が管理する外注や部品購入先のベンダーが、地理的条件の相違などを理由に異なることは理解できると思います。

「いやいや、わが社では『集中購買方式』によってJ1がJ2で必要な部品も取りそろえている」という場合もあるでしょうが、その場合においても、J1ではJ2に対する部品購買管理、さらにJ2に対する支給管理(在庫管理)、それらの有償、無償支給管理に伴う帳票の発行・受け入れ等々、そして、J2側はJ1より支給される支給部品の受け入れ管理(在庫管理)や同様に帳票類の受け入れ処理など、結果、J1とJ2の購買環境は大きく異なり、従ってJ1とJ2のM-BOMが一致することはありません。

さらにJ1の購買部門であっても、常に同一のM-BOMで運用できるとは限りません。例えば、部品X(特殊金属板をプレスして下地メッキ後粉体塗装という工程)に対して……
「外注Aは特殊金属調達から一括して全てのプロセスを処理できる(一括処理可能)」のであれば話は簡単です。しかし、外注Aが繁忙で転注を余儀なくされる場合を想定しましょう。まずは素材から考える必要があります。発注先ごとにその役割や必要な購買業務の概要を記します。

ベンダーBに特殊金属板を発注(P/O発行)
→ベンダーBから特殊金属板の受け入れ・(仕掛)在庫管理

外注Cに対してプレスのみを外注(金属板無償支給・管理、P/O発行)
→外注Cからプレス済み地金を受け入れ・仕掛在庫管理

外注Dに対して下地メッキを外注(プレス済み仕掛在庫無償支給・管理、P/O発行)
→外注Dから下地メッキ済みX部品の受け入れ・仕掛在庫管理

外注Eに対して粉体塗装を外注(下地メッキ済み仕掛在庫無償支給・管理、P/O発行)
→外注Eから部品X完成品の受け入れ、在庫管理

もちろん、外注Aの代替転注先として一括処理可能な外注先が存在すれば良いのですが(複数社購買機能などで対応可)、世の中、そのように甘くはありません。外注Aが繁忙な時は同様な外注も繁忙を極めているというのが世の常です。

つまり、上記のような「外注渡り」を駆使して何とか部品Xを調達する必要があるのです。「どこまで詳細に管理するのか?」、つまり「管理粒度の決定」という課題はありますが(次回で述べます)、少なくともJ1においても一つのM-BOMで、全てのモノつくり環境の変化に対応することの難しさは理解してもらえたと思います。一括外注から渡り外注に変更するだけでもP/Oの発行枚数やその受け入れ(納品処理)、有償・無償支給管理・仕掛在庫管理等々、その変化と煩雑さが理解できると思います。

従って、J1、J1′、J1′′などの派生M-BOMが購買環境の変化に備えて必要となるでしょう。では、「今まではどうしていたのだろう?」という疑問に対しては、「購買部門の勘と経験でしのいでいたのです」という回答になるでしょう。
しかしながら、勘と経験ですので「ハズレる」こともあるわけです。その場合は残念ながら「欠品や納期遅れ」となり、結果、「不足部品表」というモノつくりの「諸悪の根源リスト」の一部になって登場してしまうのです。それでも、リストに載ればまだ良い方です。勘と経験を支えるのは人の記憶ですから、「部品Xは忘却のかなた」となってしまうことも現実です。

2. モノつくり工程の変化に対応する

前項の購買部門の部品調達と同様、モノつくり工程で一番代表的、かつドラスチックな環境(条件)変化は「外注一括から内製化に変更」という事象でしょう。ユニットXを一括外注していた場合は、支給部品さえしっかり生産管理システムで管理すれば、M-BOM上では1レベルの表記で済むかもしれません。しかし、何らかの理由で内製する必要がある場合、M-BOMは激変します。

例えば……
素材が鋳物や成形部品の場合、素材の存在を示すM-BOM上の素材品目コードや、ひも付く金型の品目コードも新規に必要かもしれません。ましてや自社鋳造とか自社成形という内製化になると、M-BOMの階層はますます深くなっていくのです。想像できますでしょうか?

工程的にはザックリと素材調達⇒素材粗加工(基準面だしなど)工程⇒組立工程⇒塗装(表面処理)工程などが、まず浮かんできます。対象となるユニットの構造や複雑度によって工程はどんどん増えていきます。それに伴って中間仕掛ユニット(仕掛在庫)としてM-BOM上に新規中間ユニット品目コードを取得して登録する必要が出てくるでしょう。

もう一つ重要なのは、内製の場合、外部業者に対するP/Oに代わる自社内製工程への「作業指示書」発行の扱いです。工程ごとの作業指示や「着・完(着手・完了)」は工数(原価)管理や日程管理とも直結しますから、重要なテーマなのです。この辺りも先述した「管理粒度」次第ですが、勘と経験に依存しないモノつくりを望むのであればM-BOMにしっかり付加・構成していく必要があります。しかし、それらの情報を無条件に付加していけばM-BOMの階層は深く、複雑になっていきます。結果、E-BOMとはますます乖離(かいり)していくことになります。

文字だけの説明では伝わりにくいと思いますので、図版も掲載してある『第17回 「シングルE-BOM・マルチM-BOM」の具体例』が考え方や理解の助けになると思います。国内対国外工場の例ですが、「モノつくり環境の変化に対応するためのM-BOMの考え方」として、共通項は多いと考えます。ぜひ、参照してください。

第17回 「シングルE-BOM・マルチM-BOM」の具体例

E-BOM+「モノつくり情報」=M-BOM

以上の事例から、先述した「モノつくり情報」の核を成すものは「蓄積されたモノつくりに対する勘と経験値」であることは理解できると思います。
「外注一括から内製に変更になってもAさんに任せれば何とかなる」というモノつくりとは、いわゆる属人化した情報に依存した薄氷を踏みながらのモノつくりなのです。つまり属人化ゆえの誤り、ムリ、ムダ等々が存在し、目指す生産効率向上とは真逆の行為といえます。「勘と経験」というブラックボックス化したモノつくり情報をどのようにして共有できるようにするのか? を考えなければなりません。同時にこのモノつくり情報は、「製造業としての大切なノウハウそのものである」との気づきも大変重要です。

従って、この「勘と経験」をしっかり情報化(数値・データ化)して、「共有できるモノつくり情報」としてE-BOMに付加していくことがM-BOM構築の1丁目1番地なのです。属人化した情報は人と共に消滅してしまいます。よってM-BOMという情報の形にしてDXに管理させれば、モノつくりとしての大切なノウハウを誰もが長く共有することができるのです。

2回目としてはモノ(部品・工程)に焦点を当ててマルチM-BOMを解説しましたが、モノ以外の情報(工程管理、原価、在庫管理等々、可視化が難しい情報)もモノつくりには必須です。しかし、どこまで細かくM-BOMとして管理するのか? ここに「管理粒度の選択」という難題が出現します。さらにマルチM-BOMから生み出されるE-BOMが同一の製品やAssy群に対する管理をどのように考えるべきなのか?

次回に続けたいと思います。

以上

次回は12月5日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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