第153回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その82~ソフトウェアのE-BOM管理の考え方 問題提起編

実は設計部門で一番のブラックボックスはソフトウェアです。メカ系・エレキ系の情報共有が進んでも、相変わらずソフトウェアだけは「蛸壺(たこつぼ)設計」から脱却できません。「どうしたら良いでしょう?」という質問が増えています。このテーマは2回に分けて述べたいと思います。今回は「問題提起編」として述べましょう。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その82~ソフトウェアのE-BOM管理の考え方 問題提起編

猛暑日が続きます。8月は「酒にまつわる体調不良」で、入院の憂き目を見ました。コラムもお休みを頂く結果となりました。おかげさまで予定より早く退院できましたことは良しとしましょう。
しかし、来月からキンミヤ・ホッピーネタで巻頭を飾れないのが気がかりです。その前に「本当に酒が止められるのか?」を自問自答している毎日です。悪魔のささやきにあらがうのは難しいものです……

ソフトウェア系の問題点

生産用自動機製品、つまりメカ系・エレキ系・ソフトウェア系(主にPLC)のシステムで製品が成り立っている場合、ソフトウェア系は大別して以下のような現象が設計部門・生産部門を悩ませます。

  • この製品の最新Ver.は何? ちょっとタイミング修正したいけれど、どのパラメーターを直せば良いの?
    設計担当A氏に聞かないと分からない
  • この製品のソフトウェア(オブジェクト・ファイル)はどこにあるの?
    設計担当者A氏のPCの中?
  • この製品のソフトウェアの開発を外注依頼したけれど、バグが出て緊急対応が必要だ
    外注を行った担当者B氏、他案件で出張中、従って緊急対応は無理。「対応が可能となったら連絡する」と、まあ主客転倒状態

外注に丸投げしている場合は、構造的に変革しないと問題解決はできません(Ex. 社内設計に持ち込む。外注を使用しても良いが基本的なソフトウェア設計は自社で行う。=モジュール・サブルーチン設計は外注に委託する 等々)。

これらの問題点は最近のテーマではなく、リレー制御盤からPLCというCPUに進化し、結果、それらを制御するソフトウェアの必要性が始まって以来、継続しているのです。
「何とかしなくては……」と設計部長も含めソフトウェアに関わる設計者も長年考えていましたが、「先送り」されてきた課題です。制御系の複雑化、IoT、外部通信、AIとの連携等々、ソフトウェアの構造が複雑化して、とうとう身動きが取れない状態になってきてしまいました。

ソフトウェア系に対する基本的な考え方

今回は詳細なE-BOM構築ではなく、あくまで問題提起の共有としましょう。

理由は、PLCなどの旧態の制御から最近は組み込み型の非常に自由度の高い分散制御系に移行しつつあるためです。
これはIoT、AI、これらをつなぐコミュニケーション能力が求められて、さらに高価なPLCをそれらの要求に合わせて拡張し続けることは、原価(コスト)競争の側面から将来性に対する見通しが難しい状態なのです。「PLCは高価なモノ」という既成概念から脱却して、いかに「コスパの良い制御系を設計するか」が問われています。

従って、これらの具体的な解決のための詳細を説明する前に、先述した問題が解決できてからの話となるわけです。

まず、必須とするシステムとして流用化・標準化設計プラットフォームの存在があります。
理由は、ソフトウェア系エンジニアの蛸壺設計からの脱却が必要だからです。この辺りの説明は、省いても、このコラムの読者は理解してもらえるでしょう。

最も可視化や共有が難しいソフトウェア

次のような会話を何度も耳にします。設計部長とソフトウェア開発担当者とのやり取り……
部長「A君、今開発中のソフトウェアは何パーセントぐらいまで行ったの?」
担当者「85%程度です!」
部長「もう少しで完成だな!」

しかし、いつまでたってもこの85%が続き……
部長「本当にいつ完成するの???」
となります。

メカ系は図面
エレキ系は回路図
によって進捗(しんちょく)度は想定できます。

しかし、ソフトウェアは蛸壺設計を行っているソフトウェア設計者の頭の中にありますから、進捗や完成度はうかがい知れない「やぶの中」なのです。
さらに困難を極めるのが、不具合(=BUG)の量です。設計を行う以上、完璧な設計成果物は望めませんが、先述した可視化の可否によって、設計部長としてはBUG量の想定は難しい判断となります(A氏、B氏、C氏……と過去の実績から想定する?)。

納期は迫り、顧客が立ち合いに来て、設計部長が対応することになります。
顧客「メカもエレキも完成しているように見えるけれど……」
部長「実はソフトウェアがまだ完成していないのです」
顧客「あとどのくらいで完成するの?」
部長「85%~90%完成と担当者は言っています」
顧客も愚かではありませんから「それでは実機を当社工場に設置してください。それからソフトウェア設計者も一緒に派遣してもらい、当社現場で稼働させてくれませんか?」
この言葉には設計部長はあらがえません。「分かりました……」

悲しいかなソフトウェア設計者のA氏は、実機と共に顧客の現場に「出荷」されてしまうのです。
日本だけとは限りません。東南アジア、欧州等々、とにかくBUG取り(=DEBUG)が終了して、稼働率立ち合いに合格するまで帰社はかないません。行ったきり1年近く帰社できない「捕虜生活」を強いられる実例も見たことがあります。

他のソフトウェア設計者を代替派遣しても、A氏の頭の中にあるパッチ+スパゲティ状態のソフトウェアに手も足も出せません。
さらに心配なのがA氏の行く末です。1年も「捕虜生活」を強いられて、思うことは「この会社は私を守ってくれなかった」という会社に対する忠誠心や信頼の消失です。
A氏の退社は時間の問題となってしまうのです。

どこにこの問題の核があるかは理解してもらえると思います。
ソフトウェアという最も可視化が難しい設計成果物のマネジメント手法に対する熟考の欠損です。

そのマネジメントの重要施策(視点)とは……

  • ソフトウェア系台帳管理を行う
    どの製品のソフトウェアなのか、最新Ver.のオブジェクトファイル指定
  • 品目コード管理を行う
    台帳登録時に当然品目コードは附番されますが、類似製品やパッチを当てたソフトウェアの選別等々、誰にでも分かる(共有できる)ルールの策定
  • おのおののソフトウェアに対し、そのルーティン(どうやって動作するか)をファイル管理する。仕様やI/Oマップなどの基本ドキュメントのひも付け管理
    例えば、フローチャートをしっかり残せば設計担当のA氏が不在でも、他者の設計者が修正管理できる(バグ修正など、可視化の初めの一歩)
  • E-BOM上でソフトウェアをどのような形で構成するのか?
    上流側・下流側・保守など、部門に関わらず誰が見ても必要なソフトウェアが見いだせる

少なくとも、この四つの視点をどのように流用化・標準化設計プラットフォーム上でルール化していくのか?
この検討が大変重要だと考えています。

まずは現状の問題提起としての切り口を共有してください。この問題を乗り越えられることがソフトウェアの可視化、共有化の必要十分条件ですし、「蛸壺設計」からの脱却です。

以上

次回は10月4日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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