第131回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その61~設計部門改革! しかしトップダウンとボトムアップとがかみ合わない!!~改革の指示はあるが具体施策が決まらないという悩み~

設計部門改革を重視する中小・中堅製造業は確実に増えています。経営的視点からのトップダウンとそれを受けて具体的施策を考えてボトムアップ形成を試みるスタッフ側との溝が埋まりません。「遅い!」と不満のトップダウン側と「どうやれば?」と悩むボトムアップ側。その齟齬(そご)の原因を探ります。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その61~ 設計部門改革! しかしトップダウンとボトムアップとがかみ合わない!!~改革の指示はあるが具体施策が決まらないという悩み~

台風一過とはいかずシャリ金にするか? 金宮にするか? 迷う日々ですが、確実に秋は深まっている感じです。つまみがおいしくなる季節ですが、あのサンマは1匹500円と庶民の手が届かない高級魚のままです。そういえば近所からサンマを焼くにおいがしなくなって久しいと感じています。サンマは高いし、円は安いし……。

トップダウンとボトムアップとがかみ合わない理由とは?

コロナ禍やそれに伴う部品の異常納期、さらに追い打ちを掛ける円安環境は製造業ニッポン特に中小中堅製造業の足元をぐらつかせています。したがって、その危機を感じ取る経営者はDXというトレンドにも後押しされて改革を図ろうとしています。

しかし、それに伴う社命、いわゆるトップダウンにはいろいろな形があります。

  • 「改革が必要だ!」という漠然としたもの。
  • 「設計部門の効率改善から改革しろ!」という対象部門が指示されているもの。
  • 「流用化・標準化設計を実現させて、設計効率から全社効率を高めろ!」とかなり具体的に改革内容と手順まで踏み込んだもの。

一方、ボトムアップもいろいろな形で存在します。

  • 「旧態然とした非効率な設計を今どきのICTを使って少しでも改善すべきだ。正直、もっと楽になりたい!」という現場からの悲痛な叫び。
  • 「残業や休日出勤規制によって、設計環境は逆に悪くなるばかりで、根本的な改革が必要だ!」という矛盾に満ちた設計環境の悪化に業を煮やすもの。
  • 「仕事に忙殺されて設計者としての技量を高める機会がない!」という設計者としての存在を根元から揺るがす状態への危機感。

いずれにしても、それらを受け止め、実行する幹部層には詳細かつ具体的な行動が委ねられることになります。しかし、トップ層とボトム層とに挟まれる幹部層はいずれの場合もサンドイッチのハムのごとく挟まれ苦悩することになります。

「社長(社員)は早く実行に移せというし、社員(社長)には全くその気配はないし、どう進めたらいいのだろうか?」という景色です。そのような例を何度となく見てきましたが、なぜそのような状況になってしまうのか? 私なりに考察してみました。

ボトムアップ側の反省

基本的な発想として、どこまで行ってもサラリーマン根性が見え隠れすることになります。

  • PDMというICTを導入すれば解決します
  • このような測定機システムを導入すれば技量が上がります
  • 仕事を楽にするために派遣技術者を雇ってほしい

いずれにしても、自分の財布からお金を出すわけではありませんので、自身の改革の前に周囲や環境の改革を望むことに偏りがちです。「お金で成就する改革」と考えているボトム層では、いつまでたっても改革は進みません。

やはり、改革の主体は「意識」であって、それを支える「仕組み」との協調で成就させるものだと考えています。「われわれの意識をこのように変革させるので、それを支える仕組みを導入させてほしい」というボトムアップ形成がとても大切で、そして近道だと考えています。

ただし、ここまで成熟したボトムアップ形成は安易なことではなく、お預かりする会社で行うコンサルタントの多くが、このようなボトムアップ形成を達成することを目的としていることも事実なのです。

トップダウン側の反省

まず、前提となる条件として中小中堅製造業の多くの経営トップはオーナー系と呼ばれる同族(家族)経営であるということです。現在の会社を0(ゼロ)からたたき上げた自負もあり、その言動は「鶴の一声」として社内に波及していきます。

組織的な特徴は「鍋ぶた構造」で、フラットな鍋ぶた(ボトム層)の中央に丸い取手(トップ層)という形です。したがって、トップ層の直下に仕える幹部層の苦労は理解できますが、残念ながら幹部たちは「YESマン」と化してボトムアップを抑圧してしまうケースも散見されます。

(C)Jun Taniguchi

特徴的な事例では

  • 多くのオーナーは孤独な経営体験が底辺に存在し、一人で全てを判断する習慣がいろいろな視点を生んでしまう結果、朝令暮改が繰り返され、ボトムアップもそれに振られて右往左往してしまう。結局あるべき姿が絞れないという状態に陥る。
  • 先代が会長、子息が社長という事業承継の最中に起こる、会長と社長のあつれきによってトップダウンが異なってしまうという状態。会長は社長に任せきれず、社長は会長に意地を張って、結果トップダウンの趣旨や方向性が異なってしまう。
  • 数年前に大金をはたいて導入したPDMは未稼働。もうボトムアップは信用できない。改革の方針決定や具体的な行動を先に行え!
  • 立派な中・長期経営計画は存在するが、それを達成させるための具体的な施策の決定が放置され、必要な社内改革が実行されない。

等々、枚挙にいとまがありませんが、リソースを握る経営層の積極的な経営判断が最も大切です。しかし、そのリソースを有効活用するためのボトムアップはあまり信用されていない場合が多いのです。

トップダウンとボトムアップとが上手にかみ合うことは容易なことではないことを理解してもらえたと思いますが、改革を進める主体はボトム層(社員)であることは間違いがないわけです。トップ層がどのように頑張っても改革は成就しません。したがって、ボトムアップ:トップダウンの力関係としての比率は7:3ぐらいでちょうど良いと考えています。それゆえ、「ボトムアップをしっかり構築することを全社として注力して、トップダウンはそれを信じてリソースを迷わず投下する」というプロセスが大切だと考えています。

私がもっぱら行っている「地ならしコンサルティング」と呼ばれる行為は、改革に値するボトムアップ構築してボトム層の意識のベクトルを合わせていく(=やる気の醸成)ことを目的としています。

以上

次回は11月4日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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