第2回 銀座のチンゲン菜

謹賀新年!
多くの問題を抱えたまま新年を迎えた製造業ですが、製造業ニッポンの復活と新たな躍進を願う本年です。

さて、第一回では製造業ニッポンの三重苦をヘレン・ケラー症候群と揶揄して、その特効薬は「少数精鋭化」と提起しました。
もちろん、賢明な読者はいきなりリストラ鉈(なた)を振り回し、社員を半分にして「少数精鋭化」などと呼べないことは承知していると思います。
実際、少数精鋭化への道のりはそれほど安易ではありません。
人間としての「性(さが)」、例えば現状維持と言う心地よさや過去の成功体験の呪縛などと戦っていかなければならない局面が多いからです。

「愉しいことでは無いが最悪の事態を回避して生き残れた。その喜びが結果として存在する」という、経営的モチベーションの確立と少数精鋭化実現するまで止めない、という不退転の覚悟無しには始めてはならないと思います。
その意味で経営層マターであり、あくまでトップダウンで発想・実行されるべきだと考えます。

話題を進めるにあたって、まず大きく2つの場合分けをします。

 1:設計・組立製造業
 2:外注型請負製造業

この場合分けの主体要件は、設計部門(開発設計も含む)の有無です。御社はどちらに分類されるでしょうか?
まずは1の設計・組立製造業の場合から始めてみたいと思います。そして現状認識から・・・

と、その前に、年初の拡大版でもありますので、私が最近考えさせられた設計部門に関わるエピソードを皆さんと共有したいと思います。

それは「銀座のチンゲン菜」という話です。
チンゲン菜??そうです、あの中華料理定番のチンゲン菜です!中国、上海近郊でEMS事業を営む中国人の友人とPanasonic、日立を始めとする日本企業のテレビ事業撤退の話をしていた時に、その友人曰く「最近の日本の製造業の設計部門は“銀座でチンゲン菜”を育てている様なものだ。」と言い始め、私のけげんそうな顔を見て続けました。

「一平米1,000万円を超えるような地価のところを耕して一束一元(約¥12)のチンゲン菜を育てているのと同じだ」と言うのです。
「タダ同然の地価で働く中国の設計者の年収は、日本のそれと比べて約1/8。そして液晶TV等の半導体デバイス支配が大きな産品は中国の設計者で問題なく設計できる。高価な日本の設計部門が設計すべきではない(=勝ち目がない)。液晶パネル、太陽電池事業も同じ。」との言い分です。

私は思わず唸ってしまいました。

「大手は別として製造業ニッポンを支える中小中堅の製造業は設計部門にチンゲン菜を作らせていないか・・・?」
「気づかない間にチンゲン菜になってはいないか・・・?」

つまりは設計成果物の付加価値の問題なのですが、御社の実態はいかがでしょうか?
友人は続けました。

「日本の設計部門が競争力を持っている分野はたくさんある。特に、生産設備に代表されるメカトロニクスと言われるメカ・電気・ソフト・通信をグローバルにシステム化して設計・製造を短納期で実現するチームワーク力はすばらしいし、それらを支える長年の積み重ねによる設計資産は大きな強み!当分中国は追い着けない。」との弁でした。

育成ノウハウも含めた一個1万円のマスクメロンとか完熟マンゴーだったら銀座でも?という単純な話では無いのかもしれませんが、設計部門からアウトプットされる設計成果物の付加価値が生き残りの決め手であり、これも少数精鋭化に通ずることだと再認識させられた会話でした。

では、本題に戻しましょう。
自社の設計部門と言う自社ブランド展開も含めた自由度は確かに「宝物」です。
しかし、その自由度に足をからめ捕られている製造業がいかに多いか。
「自由度」がいつの間にかに「好き勝手」に成ってしまっていることに気づかない製造業が多いのです。
「ちょっと待ってください。我が社はお客様の個別仕様で自由度など有りません」とおっしゃる方も居るのでは?それでも、お客様仕様と言う「隠れ蓑」の後ろで「好き勝手」に設計している設計担当を多く見受けます。

しかし、これは設計者の責任でしょうか?私はそうは思いません。
私自身の設計者体験ですが、設計業務と言う因果応報に理不尽さを感じたものです。
「納期に追いまくられながら自分で問題作って、自分で解決する・・・何だかな~」という世界でした。
もちろん、設計者としての存在価値は「知っていること」「できること」と信じていましたから、この因果応報から得られるノウハウはとても大切なものでしたし、喜びも存在していました。

ただ、今思うと、ここに落とし穴があった様に思います。いつの間にか自己完結型の戦いが定常化して、自分の世界に固執した設計業務に成っていました。
そりゃそうですよね、頼れるには自分自身しかいないのですから・・・。そしてそれをとがめる上司、同僚も居ませんでした。
上司からは「谷口に任せた、よろしく頼む。立会日だけは厳守な!」と言われるだけでした。
結局、頼れるのは自分だけという世界で孤軍奮闘するわけです。

生産現場で不具合多発、揚げ句の果てに「こんな設計するな!」と生産部長に怒られる。
そして、わがままなお客様の仕様変更にも応えなくてはならない。
だから必死で孤軍奮闘!ここには設計部門内の情報共有と言う発想は生まれません。ですから私が徹夜でヘロヘロに成っていても同僚は同情してくれるものの設計プロセスを共有していないので手が出せない状態でした。
今思えば流用化・標準化設計とは対極の形です。

今、私はこれを「蛸壺設計」と呼んでいます。
設計者一人一人が蛸壺に入って一生懸命唯我独尊の設計業務をこなしている。
似て非なる設計と言ってしまえば、それまでですが現場に氾濫する類似部品や類似ユニットの根源です。
この様な会社の社長はそれを見て嘆き、怒ります。

「なぜうちにはこんなに似た部品ばかりなんだ?」
「この部品と、この部品がなぜ共用出来ないんだ?」
「お客様の求める保守部品はいったいどれなんだ?」

という素朴な質問に誰も答えられないからです。
設計者はうつむくばかりです。
責任の所在は嘆き、怒る社長にあることは自明なのですが、それでは会社全体が沈没してしまいますし、蛸壺でもそれなりの努力をしている設計スタッフは浮かばれません。

では、この蛸壺設計の壺を割り脱蛸壺を図るにはどの様にしたら良いのでしょうか?この答え、つまりソリューションは少数精鋭化に直結するとても大切なテーマです。読者も是非一緒に考えていただきたいと思います。

次回で具体的なソリューションを考え、展開して行きましょう。

次回は2月3日更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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