第3回 設計部門のメタボリック症候群

前回は「銀座のチンゲン菜」というエピソードを紹介して、中小・中堅組立型製造業の設計部門が置かれている設計成果物の付加価値や、「蛸壺設計」という個人プレーの弊害を問題提起しました。そして、その根本的な解決手段は「少数精鋭化」と提案しました。

今回はその提案を掘り下げて行きましょう。
今までコンサルティング業務でお預かりした各社の設計部門の実態を冷静に観察してみると、その多くがメタボリック症候群、つまり、”メタボ状態”に陥っていました。早速お腹をつまんで、「ウーム、このブヨブヨかー」と思わず顔をしかめる読者もいらっしゃるのでは?しかし、事はもっと深刻です。

特に、中国人も認める日本のお家芸と、前回紹介した設備設計製造業の設計部門は顕著で、蛸壺設計の結果、生産が終了しても、設計担当者はやれやれと息つく暇なく、現地設置や稼働検収、保守、さらに追い打ちを掛けるトラブル対応等、すべて蛸壺で必死に頑張った担当者が「個人」で対応することになります。正確な表現をすれば「対応せざるを得ない」のです。

結果、設計部門の空洞化、つまり、受注すればするほど設計部門の人数が減っていく、というパラドックスに陥ります。特に海外の受注案件が多い現況では、「行ったきり半年帰ってこない」と言う設計者も居て、これでは会社に対するロイヤリティーという大切な意識財産も磨滅して行きます。

そして空洞化に陥った設計部長は何を考え始めるかと言えば・・・
溜まる設計アイテムの処理を迫られ、何とか設計工数を確保しようと、派遣技術者や外注設計への丸投げを始めます。多いところでは、半数が派遣技術者と言う実際を見たことが有ります。つまり、これは「他人」のノウハウに頼る設計と同意です。

蛸壺設計+他人ノウハウ設計=此処にはもう設計マネジメントは存在できませんし、自社設計というアイデンティティーさえ、希薄になって行きます。さらに、他人に設計を依頼するための仕様書ばかり書いていた設計者は「手配師」と化し、自ら設計能力を失って行くという笑えない現実も存在します。

この様に、設計マネジメント不能なブヨブヨになった組織状態を、私は「設計部門のメタボリック症候群」と呼んでいるのです。直近ではタイ洪水も重なり、保守・修理依頼の殺到で正社員設計者不在という製造業も出てきましたし、金型設計等の日本定着型の設計部門も、ニーズの海外進出で空洞化が進んでいます。

では、どの様な対応策を取るべきでしょうか・・・
人のメタボは生活習慣病と言われますが、設計部門のメタボは設計習慣病です。蛸壺設計+他人ノウハウ設計という習慣の繰り返しが、この結果を生みます。

では、どの様に改善して行くべきかという論点になりますが、私は「流用化・標準化設計」という設計習慣への生活?改善が必須と提案しています。

まず、対症療法として・・・
一刻も早い流用化設計を可能にする設計環境の確立です。これは蛸壺の壺を割って行くことと同意です。設計者同志で、社に存在する長年の設計資産の共有を図ることです。大変効果のある設計部門の「5S」(最初は設計資産の2Sから)を定着させて、BOMを構築し、似て非なる類似図面や設計を徹底して排除し、絞り込み検索を駆使して設計資産を遣い回す仕組みと、その重要性の意識を以て流用化設計を実現させる努力をします。

これは大変効果が有り、設計効率を最も阻害する「探す・見つける」と言う「設計していない時間」をほぼ無くすことができます。これだけでも、三割は確実に効率が改善します。コスト実績があり、アク抜きができた部品を再利用することで、トータルコストにも大きく寄与します。これでメタボなお腹もかなりシェイプアップできることになります。

流用化設計が定着したならば、いよいよ根本療法です・・・腹筋復活で割れたお腹を目指します。それは標準化設計の実現です。私は以前から、この設計進捗イメージとしてレゴブロック設計と呼んでいました。「レゴブロックつまり自社の設計資産をいかに組み合わせて設計仕様を満足させるか」と言う視点からです。奇しくも昨年末にVW(フォルクスワーゲン)の会長が「これからのVW(+Audi)の新車設計はレゴブロック設計にする」とスピーチして以来この表現が定着しつつある様に感じています。

それでも、「標準化設計」と言うと返ってくる反応は同じで「それは理想論です。我が社は一点受注で顧客別仕様に個別対応しなければなりません。とにかく特殊なんです!」
それに対する私からの質問は、これまたいつも同じで「個別対応して特殊なのに、なぜこんなに利益が少ないの?儲からないの?」と言うものです。

発注側の顧客から見れば一般化した仕様なのに、受注側が「これは特殊です」と言っている限り標準化設計には至りませんし、利益確保ができませんから、何より生き残れません。
一般化された仕様に対しては流用化・標準化で対応すると言う発想の転換の重要性に気づきを持っていただきたいのです。そして「流用化設計を経て標準化設計に至ることが、どれ程設計効率を劇的に改善させるか」という発想とそれを実現する為のチャレンジを願うのです。

そしてメタボ解消で終わり?ではありません。私が求める最終目標は標準化設計では無いのです。それは、求める最終目標への一過程、一手段に過ぎません。まずは設計部門の少数精鋭化実現のために設計効率を高め、設計部門人材の「流動化」を可能にする為の流用化・標準化設計の実現なのです。わかりやすく言えば「設計部門にフリーな人材を確保する」と言うことです。「フリー?そんな余剰はあり得ない」とおっしゃるかもしれませんが、決して余剰な人材ではありません。御社の将来を握る人材かもしれません。

この設計部門の人材流動性を高める努力の裏にある戦略とは・・・
次回から展開して行きたいと思います。

次回は3月2日更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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