第12回 グローバル化と下流側の生き残り策 ~その2~

前回に引き続き、その2として始めたいと思います。
「グローバル化の進捗によって生ずる国内生産部門の将来・行く末という難題にどのように対応するか」というテーマでした。
前回はそのキーワードとして「全方位受注」と「別法人化」を掲げ、特に「全方位受注」というキーワードに対して以下のように解説しました。

『イメージ的には外注型の製造業としての存在です。しかし、いわゆる手間賃仕事の製造業では生き残れません。国内生産ならではの付加価値をつけて、しっかり稼げる仕組みが必要です。そこで、
1)あらゆる設計成果物を受け入れられる製造業(代替品提案や設計変更対応も含めて)
2)海外生産にまねできない超短納期(1Day、2Dayサービス)
この二点に集中した付加価値構造で差別化し、生き残りを図ります』

これを読まれて2)の超短納期に関しては理解と同意を頂けると思います。
これからの製造業ニッポンの変化として開発・試作型製造業への転換が図られると予想しています。
よって、製造業のDNAや核と成る製品を手掛けることに成り、この製造スタイルは超短納期の試作部品を要求します。
コストは無視、とは言いませんが直面する技術的難関を越えるための試作部品は「いま、欲しい」というニーズです。
例えば「多層基板」の1Day、2Dayサービスです。
データを受けとってから1日もしくは2日で試作基盤を完成させるというサービスです。このサービスに対し、量産時の数十倍の付加価値が付く実例を私は知っています。

さらに、1Day、2Dayサービスとして、生命に関わる重要な「保安部品」製造も、「作り込み」という得意技を生かせる製造業ニッポンの存在価値になっていくと予想しています。

いずれにせよ、先行投資的な意味合いを含め、「そうか!ハイリスク・ハイリターンだな!」と言われるかもしれませんが、現実それほど甘くは無くて「ハイリスク・ミドルリターン」で手を打つことに成るでしょう。しかし、ミドルでもリターンという付加価値が存在する以上、生き残りへの検討には外せない項目です。

前後しましたが、1)の説明に移りたいと思います。

これまでのコラムの中で、何度もBOMの重要性についてお話させていただきましたが、BOMには、主に以下の二つがあります。

E(Engineering)-BOM
設計者の視点から製品設計仕様を満足させるための部品(品目)構成情報

M(Manufacturing)-BOM
E-BOMにものつくり情報を付加したBOM=BOMの最終形

設計部門(上流側)での流用化・標準化設計の骨組みとして関わるのはE-BOMですが今回着目していただきたいのはM-BOMの方です。

「M-BOMが外注型製造業の全方位受注にどのような関係があるの?」という質問が聞こえてきそうですが、肝はここにあるのです!

答えは「これまで受注先から図面などの設計成果物をもらって、それをもとに製造していた外注型製造業に、自社でのM-BOM作成・管理能力を待たせ、あらゆる会社の設計成果物もすべて自社管理M-BOMに置き換えて生産する」という考え方です。

つまり、このM-BOMというモノつくりに必要な最終情報の作成・管理能力を付加価値として所持している外注型製造業のスキームです。
各社各様の設計成果物を外国語に例えると、それらをすべて日本語に翻訳し直して生産するイメージです。
つまり、あらゆる設計成果物に対してマルチ・リンガルの能力を持つことです。

今までの外注型製造業はその売り上げの過半数を固定顧客に委ね、固定顧客の設計成果物にのみ習熟を重ねてきました。「いざとなれば全方位(どの様な設計成果物でも)モノつくりはできる」と豪語していても、固定顧客は今どき、いつ海外に出てしまうのか全く読めません。気が付いた時は売り上げの多くを失って、突然死・・・などということにならないような仕組みが必要なのです。そのための構築であり「生き残り策」という危機管理としての具体的な手段として欠かせない仕組みだと考えています。

さらなる付加価値としての側面は、サプライチェーン寸断や部品ショートに強い代替品提案(自社在庫品の代替品情報管理)、それに伴う正確で早い見積提示(M-BOMに紐ついた原価情報)、顧客の設計変更に正確に応じられる機能(設計変更を請け負うことも可能)です。

本コラムを愛読していただいている皆さんであれば既にお気づきと思いますが、自社M-BOMを構築するということは、顧客の設計成果物をあたかも自社の設計成果物とみなしてモノつくりを実行することと同義です。従って生産側の構えもA社対応、B社対応などと峻別することなく、フラットにモノつくりに励むことができます。何より「品質の安定」という最も大切な付加価値を支える原動力と成り得るわけです。

私が以前いた会社では、上流側改善でBOM構築のノウハウは十分に持っていましたから、M-BOM構築へのノウハウには事欠くことなく、かつ、人材は3Wジョブローテーションで鍛えたスタッフを社長、営業部長に据え、別法人化(子会社化)することができました。もちろん、全方位受注に対応していましたから、たとえコンペティターの仕事であっても分け隔てなく獲得することを許していました。

さて、先述したように、かつて外注型製造業を手間賃仕事と呼んでいました。つまり労働集約型の最たる形です。
労働集約型の業態では、今となっては圧倒的な海外低賃金と戦う術もなく、多くの中小外注型製造業が消えていきました。

しかし、考えてみてください。「作り込む力」「超短納期」という製造業ニッポンの存在のよりどころはいまだ健在です。
そのよりどころを十分に活性化させられるであろう仕組みとしてM-BOM構築というテーマを外注型製造業に持ち込んだのです。

既にお気づきでしょうが、この仕組みにおいても設計部門改善と同様、付加価値の生成は上流側にあることです。
製造業ニッポンの強みを活かす上流側志向はこれからますます重要な考え方と成るでしょう。
すべては生き残るために!・・・です。

今回はグローバル化の進捗によって生ずる現象、生産部門の生き残り策の話をしました。
次回はM-BOM構築や生産管理システムとの関わり等の実際をもう少し掘り下げてみたいと思います。
(12月7日(金)の更新予定です。)

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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