第147回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その76~小規模製造業の下流側の実態 ~下流側の相談内容から実態を探る~

小規模製造業において、システムが導入されていても上流側と下流側との意思疎通がうまく図れず、システムが宝の持ち腐れになりかねない状況を見ます。下流側からの質問リストを基に問題の実態を知り原因を探ってみましょう。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その76~小規模製造業の下流側の実態 ~下流側の相談内容から実態を探る~

正月早々大きな災害が起きて、あまり本気で酔えません。被災された方々の苦難は想像を超えるものでしょうが、いずれは私の足元にも大きな地震が起きると考えます。「明日はわが身」ということでしょうか。
ホッピーもキンミヤも流れてくるニュースの前で少しうな垂れているように見えます。

小規模製造業における設計変更ワークフローの実態

新年号で、今年は小規模製造業に少し重きを置いていきたい旨を述べました。そもそも小規模製造業というサイズ感をすり合わせると、上流側の設計部門10人以内、下流側の生産部門(購買部門含め)20人程度というところでしょうか。
設計部門も実態は10人に届かず7~8人というのが現実でしょうか。重ねて設計者の三無い(設計者が来ない、育てられない、育たない)の典型がそこにはあります。結果、設計工数逼迫(ひっぱく)は常態化しています。

これから紹介する製造業の会社は生産設備設計生産で、数年前に設計プラットフォームや生産管理というシステム投資・導入は積極的に行っています。それでも目に見える全社効率改善がなかなか見えない状況が続き、立て直しの依頼があった例です。

ヒアリングを重ねていき、特筆すべき問題点はECR(設計変更要求)・ECN(設計変更通知)を基本とする設計変更ワークフローが機能していないことでした。このワークフローは製造業としてのPDCAの原点作業であり、このプロセスなしにQCDの改善・向上は見込めないことに皆さんも異論はないと思います。

それでも下流側からの設計不具合も含めた問題提起は存在するわけで、それらは同社では「改善提案」というカタチで設計部門に届けられていました。「提案」ですから、どこまで行っても「お願いベース」です。採用・不採用やいつまでにというDUEは設計部門に委ねられ、結果PDCAとしての循環は切断されてしまいます。

この辺りの問題は「生産部門は設計部門の従属部門」という古き慣習から由来して、生産部門が設計部門に対して「物申す」ことに対する遠慮がありそうです。まして、この改善提案にはゲートがあって、「社長承認」が取れないとボツになってしまう様です。忙しい設計部門に対し、できるだけ余計な仕事をさせたくないという配慮かもしれませんが、社長自らQCD改善・向上への抵抗勢力になってしまっているわけです。

そのような状況の中、「個別の設計不具合を除いて普段の仕事で設計部門に対処してほしい事柄。そして常々考えていることをリスト化してほしい」と下流側(生産側)に依頼しました。
そのリストの抜粋としてディスコン(生産中止)部品対応の事例ではありますが、下記に検討することにしたいと思います。そして皆さんの会社でも「あるある」というのであれば、ぜひ解決の糸口としてください。

購入品が生産中止となった場合の対応方法

「購入品のディスコンの対応方法について、ケースに応じたE-BOMの対応方法を教えてください」という質問です。

購入部品(半導体、エレキ系、精密機構部品など)の技術動向の進歩に対してどんどん進化してしまい、あっという間に現行部品は生産中止となってしまいます。昨年は購入できたが今年はできない、注文書を出した後、ベンダーからの情報でディスコンを知り、慌てるという事象です。

1. 既にディスコンが分かっている場合

1. 互換性を維持する部品が紹介されている(メーカーコードは異なる)場合

下流側からECRを発行して、設計部門はBOMの逆展開から本当に互換性を維持できるのか確認し、問題なければ新たな品目コードを取得して新たなメーカーコードが正しく生産管理側に流れるようにして、ECNとして共有する。
生産管理システムの機能をうまく使って、切り替え時期を設定しておけば、自動的に切り替えが行われ、人間が見張っている必要もなくなります。

2. 互換性を失う場合(仕様は満足するが形状が異なるなど)

半導体関連では日常茶飯事です。例えばメモリーの場合、記憶容量は変わらないがパッケージが変わってしまう(小さくなってしまう)。このような部品が出現した場合、理想的にはマザーPCB(プリント基板)を再度設計して対応することですが、マザーPCBの再設計には数十万~数百万円がコストとして掛かります。おいそれと新規マザーPCBにしましょうとは言えません。さらにBOMの逆展開を実行したら、多くの自社製品に使用さていたということが判明した場合、保守部品としての視点で考える必要もあります。

そこでレトロフィットキットAssyという手法を考える必要があります。半導体系の場合、新規小型化が通常です。従って現行のICサイズ・ピンアサインに合わせた小さなPCBを作成して、そのうえに新たな半導体を乗せて互換性を維持する手法です。Piggy Backとも呼ばれる手法ですが、慌ててマザーPCBの更新を行わなくても何とか切り抜けられそうです。生産量による判断にもよりますが、生産設備など、生産量の少ない場合の対応策として考えてください。

メカ系の部品、例えば空圧部品も小型化が進み、オリフィスが同一でもマニホールドサイズも含めて小型化されて、現行サイズには取りつかないということも起きます。この場合も、同様にレトロフィットAssyを考えて、現行品に適合する取り付けアダプターや配管部品を合わせて適合させることになります。

E-BOMとしては新たなレトロフィットAssyを加えるわけですから、その置換は当然です。
しかし、その一つ上の親品目コードはどうすべきか? 互換性を保てるわけだから変えない。原価、工程も変わるからREVを上げて認識する、など各社のルールに従って判断されることになります。

2. 代替品管理の重要性

エレキ系・メカ系の購入部品には汎用(はんよう)性を持ったものが多く存在します。逆に「世の中にこの部品以外存在しない」という部品を使用する場合は、当然それなりのリスクが存在していることを理解して、供給契約や在庫という何らかのヘッジは不可欠です。

汎用性を持つ購入部品がディスコンになった場合、代替部品として使用できる部品が多く存在するはずです。

メカ系であれば、ベアリングやOリングなど、メーカーが異なるだけで置換可能という部品群です(JIS規格に準拠している部品群)。

エレキ系であれば、チップ抵抗やコンデンサー、標準ロジック半導体、アナログOPアンプなども同様です。
ただし困ったことに多くの場合、メーカーごとにカタログ品目コードが異なり、購買からすれば購入先(ベンダー)も異なるということになります。

特にエレキ系の場合、高仕様(精度、温度特性など)の代替部品がたくさん存在します。上位互換部品と呼び、これを使わない手はありません。ただし、注意が必要なのは、高仕様品は高価ですので、そのまま漫然と使用を続けることは原価という側面でできません。しかし、いつ納入されるか不明な汎用品を待つより、この高仕様品に代替して生産性を上げる方が製品の完成に直結し、良いわけです。そのためには購買が正しくP/O(カタログ品目コード、ベンダー、価格、L/Tなど)を発行して、代替品を正しく購入できる仕組みが必要です。

その仕組みを「代替品管理機能」と呼びます。
流用化・標準化設計プラットフォームと生産管理システムとの連携能力が問われる機能です。まさにICTの力量の見せ所です。

代替品指定は設計責任ですから、設計プラットフォームから生産管理に対し代替品情報を連携します。
その情報から購買部門は早く、できれば安く購入できる部品を選択すれば、正しいP/Oを生産管理システムが自動的にアウトプットしてくれます。

Excelで作った代替品リストで購買部門のスタッフが首っ引きでP/Oを手修正しながら……などという状態ではうまく行きません。

購入品のライフサイクルが短くなっているという現実の中、その実情を全社で理解して、「だったら、どのように対応するのか?」という取り組みが必須です。ECR・ECNもうまく回せない、まして生産部門が設計部門に対して「お願いベース」のECRでは全社効率の向上、つまりQCDの改善向上は見込めないと思っています。

御社のDXとして小規模製造業であってもICTの力を得られるシステム構築は、最終的に御社が「少数精鋭」を目指すことになると信じています。

以上

次回は3月1日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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