第18回 流用化・標準化設計は営業の敵か?

前回までは少しテクニカルな話に偏りましたので、今回は少し趣を変えて掲題の話題を、愛読していただいている皆さんと共に考えてみたいと思います。

なぜ「流用化・標準化設計は営業の敵か?」というテーマを持ち込んだかといいますと、流用化・標準化設計をコンサルティングとして提案すると営業部門から「商品ラインアップ減からCS(顧客満足)低下を招くのでは?」という意見が多く聞かれるからです。

なるほど営業はそういう発想をするのか・・・と気づかされる反面、「それは発想の貧困であり、流用化・標準化設計導入時には営業の発想も同時に変えていく必要があるな」と最近強く思っている事柄です。

まず、「なぜCSの低下につながると考えるのか?」と質問すると・・・
言い分はこうです。「お客様の希望する要求(個別仕様)にあまねく対応することがCSの原点。従って、特に標準化となれば、その要求に応えきれなくなってしまう」というのが骨子です。

この言い分を聞いて皆さんはどのように考えますか?
私の考えからすると、CSそのものの捉え方から誤っていると思うのです。もちろん、CSは大切な要件です。
ではなぜCSは大切なのか?
それは大変シンプルで「お金を頂くため」だからです。
つまり、CSを満足させることによって対価(お金)を頂き、その結果としてMS(私はこれをManufacturer’s Satisfaction製造者満足と呼んでいます)を得ることなのです。

多くの受注型営業が犯している誤りは、「顧客を満足させることが最終使命=お客様の言うとおり」で思考が停止し、このMSの存在を忘れていることです。
このような営業スタイルを私は「御用聞き営業」と揶揄(やゆ)しています。
私が常々申し上げているのは、「CSでは無く、このMSを得ることを最終使命と思ってほしい」ということです。
さらに、顧客の要求に見合ったお金(利益)を自社にもたらすことが最終使命だと申し上げています。
つまり、CSを徹底追及してもよいが、それに見合う付加価値への対価を顧客から頂戴してほしいということなのです。

顧客から「君は本当に良く言うことを聞いてくれる営業だ。感謝している」と言われると、そこで活動を終えてしまう営業が多いのです。間を入れずに「ではその分の対価を頂きたい!」と言って付加価値(利益)を持ち帰ってくれないと困るのです。
MSを得るためにCSは必要十分条件であることは言うまでもありませんが、残念ながら「御用聞き営業」には「顧客の感謝を対価に変える」というとても大切な営業活動の重要性になかなか気づいてもらえないのが現実です。

さらに「御用聞き営業」は、天下の宝刀(?)“顧客仕様”というものを設計部門に持ち込んで、似て非なる設計を強います。
「お客様がそう言っているから何とかしてくれ。これを満足しないと売れない!」というやつです。
これは、流用化・標準化設計とは相反する行為であることは理解して頂けると思います。
もちろん、御用聞き営業だけを悪者にしているのではなく、このような営業活動を漫然と続けさせている経営層に責任があることは言うまでもありません。

もう一つの意見は「カタログのラインアップ(製品種類)が減って売りづらい」というものです。

本当にそうでしょうか?私は自分が講演するセミナーにおいても下記の実例をよく引き合いに出します。
独国の自動車会社VW、AUDIが7割共通化設計を標榜(ひょうぼう)し、実現していますが、たしかにボディーやエンジンの種類は明らかに激減しました。
当然、車種カタログラインアップも徹底的に集約され、POLOかA1か?という様に、ブランド間の距離も縮まったと思います。
その意味で、顧客側から見た選択の幅は狭くなったことは事実です。
では、同社の業績はいかがなものかと目を向けると、絶好調です。

「顧客のニーズにきめ細かく対応することこそ付加価値だ。わずかな差別化を実現するから、顧客は当社を選んでくれる」というコンセプトをかつての日本の自動車会社の設計部門で聞いたことがあります。
しかし、車のように今や成熟期から衰退期に向かおうとしている産業製品において、VW、AUDIではニーズの最大公約数を的確にとらえて共通化・標準化で品揃えは減ったが、CSのポイントを性能とコストに誘導したことで素晴らしいMSを得ていると考えています。
中小・中堅製造業が同じことができるとは考えていませんが流用化・標準化設計がCSを低減するという意見を払拭できる好事例と考えています。

一方、積極的な営業活動の方針転換として流用化・標準化設計の実現に併せて「標準機種のススメ」を推進している実例を紹介します。
それは、「お客様の仕様にドンピシャではありませんが標準機種から選択していただくと3割安価に3割早くお届けします」というもの。
当初はそれでも個別仕様は変わらないだろうと想定していたところ、約7割の顧客が標準機種を選択したという実例がありました。
これは、お客様にも背に腹は代えられないという実態があって、仕様が満足させられないことへの代替提案(3割安く3割早く)がしっかりしていれば、顧客はバランス感覚の及ぶ範囲でそれを受け入れるということだと理解しています。
「お客様の言うとおり」という営業スタイルを漫然と繰り返すのではなく、設計部門の改革に合わせて営業部門の意識改革も同時に進める価値がここにあると思います。

以上から、流用化・標準化設計は営業の敵ではないことは自明ですが、MSの獲得を目指す営業活動の意識改革も流用化・標準化設計の実現と歩調を合わせて実現させていくことの必要性とその効果を強く感じて頂けたのではないでしょうか?
少なくとも、流用化・標準化設計の実現に対し、営業部門を蚊帳の外にしてはいけないと思っています。

次回は6月7日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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