第59回 流用化・標準化設計は設計者からチャレンジを奪うのか? その5

台風の連続上陸で新幹線を多用している小生にも少なからず影響がでています。一方、季節歩みは着実に進み、ホッピーも本来の氷無しがベストとなってきました。

前回までは設計部門の二階部分からアウトプットされる例外出図と言われる設計成果物の下流側へのIT連携を述べました。
今回はその設計成果物の後始末の話です。そして、この後始末が本当に重要であるという認識の共有こそが今回の小生が期待するところの結果です。

買い物リストにせよ五月雨出図にせよ時間的制約や新規開発要素、新テクノロジー導入要素等、設計者にとっては試行錯誤などという冷静な言葉では表せられない、七転八倒、てんやわんや、の設計業務であったろうと想像できます。
出図した後も手が離れるわけも無く、さらに厳しい「戦い」が待っているわけです。

「不具合対策」という自分で蒔いた種の収穫ではありますが、この因果な作業は自身の苦しみはもとより、全社を巻き込んでの総力戦です。奇しくも価値のあるプロセスです。何とか乗り越えねばなりません。このシリーズの前段でも述べましたが、このプロセスがいかに貴重なノウハウの塊であるかは再度強調したいと思います。

モノつくりとして仕様を満足させる必要があるばかりでなく、不具合を解消するための手段も同時進行させる必要があるわけです。担当設計者ばかりでなく、購買部門は新規部品や部品修正の発注、依頼を「最短時間」でそれも「限られた予算内」で実行することになります。
生産部門も不具合が発生する度に、せっかく組み立てたユニットをバラシ、分解、交換、再組み立て、と賽の河原を彷彿とさせる状況です。

まさに全部門の総力戦です。利益的に見れば消耗戦に近い存在でしょう。しかし、この戦いを大切にしている経営者の目論見は、この戦いから得られる「戦利品」が次の経営を支える資産となることを目指しています。

ただし、ここには目論見どおりの「戦利品」となり得るのか否かの最も大切な「分岐」が存在します。
「アーやれやれ、いろいろあったけど、やっと出荷できた! バンザイ! 本当に皆さんご苦労様でした!」という感動の場面は大いに共有し、出荷された現場のお掃除を特別な感慨を持って行う製造業冥利につきる時間は良しとして、実はその分岐は、この時点で既に始まっているのです。

まずは、製品出荷直後の生産現場で、そこらじゅうに散らばった設計成果物に注目しましょう。

メカ系図面、エレキ系配線図、回路図には必死でしのいだ結果の赤ペン修正、手書きのポンチ絵、アタリ図(CADの及ばぬ世界もあります)、修正図面 等々。ソフト系も忘れてはいけません、Bug退治に当てたパッチの数々、実態はソフト担当にしか解読できないスパゲティ状態でしょう。

当初、五月雨出図したBOMの骨格も跡形も無くなっているかもしれません。
その様な状況の中で「既に始まっている分岐」とは……。

  • 分岐1

    設計部長曰く「それぞれの設計担当者は適宜設計変更を実施し、再度BOM構築して流用化・標準化設計(一階)に蓄積すること」

  • 分岐2

    設計部長曰く「絶対製品出荷までに設計変更を終えること。最低限、製品最終形とBOMは出荷までに一致させること。出荷後最終確認の後、流用化・標準化設計(一階)に蓄積すること」

分岐1と2を比較してみましょう。そうです、肝は分岐2の「製品の最終形とBOM一致」です。BOMを再構築して流用化・標準化設計(一階)に戻し、次の経営の柱になるために出番を待つという基本動作は双方同じですが、問題は次の経営の柱になる製品としてのBOMになり得ているか否かにあるわけです。

分岐1の場合、設計者は既に始まっている次の設計アイテムに気を取られている内に、せっかくのノウハウや修正方法は記憶が薄れ「あれっ、ここどうしたっけ?」となるわけです。
出荷した製品はとうの昔に海外に設置され、確認もままならず……。

あれほど苦労して得たノウハウは固定化できず、そればかりか薄れる記憶に頼る設計変更は不具合や誤りを潜在させて、リピート生産した時に初回と同じ不具合、誤りを発生させることになります。

これはまさに「同じモノを二度造れない製造業」へとなり下がってしまったことを意味します。確かに、出荷時までに製品とBOMを一致させるということは容易ではありません。

小生の実施例としては生産部門に設計変更のために、設計プラットフォームの設置と設計変更能力を持つ生産要員を設計部門とのジョブローテーションで育成したことにあります。費用も時間もかかりましたが、その思いの発端は「せめて同じモノが二度造れる製造業になりたい!」というものでした。

試作、開発設計を経て全社総力戦に持ち込み、あれ程苦労しながら得たノウハウや知見をしっかりBOMに畳み込める能力を得るためにどうしたら良いのか? ITの力も得てどのように実現すべきなのか? 経営的視点も含めて重要なテーマだと思います。
次回は「見積り」という利益に直結するテーマに触れてみましょう。

次回は11月4日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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