第60回 流用化・標準化設計は設計者からチャレンジを奪うのか? その6

今年も残すところ、あと二カ月を切りました。木々も色づきはじめ、遅れ気味の季節感もようやく感じられる様になりました。ホッピーの割焼酎は冷やした「金宮」と決めているのですが、今月から常温にしてみました。年寄りの冷や水にならない様に……。

今月は「見積」について述べてみたいと思います。特に受注型製造業の必要十分条件たる作業の一つである、製品価格(=原価が基本)の見積についてです。
見積? あまり流用化・標準化設計に関係無い? と感じられる方もいるかもしれませんが、実はこの見積が案外、設計部門を悩ます曲者なのです。皆さんの会社ではどのように見積が作成されているのでしょうか?

本論に入る前に、まずは見積の重要性を再認識しましょう。端的に表現すれば……

見積の提示=利益の確定(正確には最大利益の確定であり、通常見積利益より増えることはない)

ということです。この関係を納得していただけたなら見積(金額)の精度=利益確保の精度という関係もご同意願えるでしょう。
小生がお預かりしている製造業の社長の異口同音「誰だ!こんないい加減な見積した奴は!!」と……。
どのような結果がこの嘆きをもたらしたかは想像にかたくありませんね。
何らかの理由によって利益が毀損した、つまり儲からなくなった結果の嘆きです。
では、見積を担当した人(部門)は誰なのでしょうか?
中堅以上の会社には見積を専業とする「積算部門」という組織があって、この部門のミッションは明確で、いかに「正確」な見積を、「迅速」にもたらすか。にあるわけです。見積作業のキーワードは「正確」「迅速」です。

正確=利益の確保=予定どおりの利益の確保=利益計画
迅速=商機逸失防止=相見積やコンペに遅滞なく見積を届ける。

ここまでの再認識に同意をいただけるのであれば十分、見積の重要性についてはご納得いただけたと思います。では、本論です。
積算部門などという専任部門を持たない(持てない)中小製造業は設計部門がこの作業を担うことになります。しかも、新人の見積担当など見たことは無く、おおむね設計課長、部長が「長年の経験と勘」を駆使しながら見積を作成します。中には設計業務に携わることなどできないほど、見積作業に忙殺されている設計課長も見受けます。ズーッとひたすら見積作業をこなす設計部門の幹部……あまり想像したくない姿です。

さらにもう一つの問題は「長年の経験と勘」という表現をもう少しベタな表現に直すと「どんぶり勘定」となります。「今回の製品は前回作った製品仕様の6割は同じ、4割新規で新規部分は、マーこんなもんだな」というプロセス。新人設計者など踏み込める世界ではありません。
そうです、従って因果応報、どんぶり勘定の見積ですから当たるも八卦当たらぬも八卦、外れるわけです。外れる度に先の社長の嘆きが繰り返されるのです。しかも、どんぶり勘定見積になっている原因は社長が作っている事実に気づきも無く、この負のループは綿々と繰り返されるのです。お預かりした多くの製造業がこの様な状態でありました。
もちろん、完璧な見積は容易に作成できるものではありません。先の積算部門であっても毎回100点満点などということは無いでしょう。ポイントは「しっかりとPDCAが回せる見積作業であるべき」ということです。つまり、このどんぶり勘定見積はPDCAが回せないのです。なぜか?そうです!どんぶりだから見積数字の根拠が希薄かつ可視化できないので共有もできないからです。

ではどのように根拠を担保し、共有するのか?

ここで登場するのが「見積BOM」です。新規仕様(設計)部分に対しBOMを構築するのです。
流用できる部品、ユニットはBOMをそのまま流用し、新規設計が必要であればその部品、ユニットの確定とBOM構築を行うのです。この見積BOMを使って生産するわけではないのでE-BOM程正確である必要はありません。少なくとも見積誤差があとで「あっ、この部品(ユニット)の見積を誤ったのか」というPDCAの発端情報を残せる様になれば良いのです。もう一つは「見積BOM」であれば新人設計者にOJTとして構築させ、教育していくことも可能になります(教育としてのPDCAも回せる)。これによって見積能力の拡散により一刻も早く見積専任課長から本来の設計部門課長へ復帰させることができます。さらにBOM化によって「ITの力」を得ることができます。見積BOMを生産管理側に連携させて価格、納期、在庫情報を付与し、内容内訳も含めた見積書まで完成させることができます。

小生が設計者であった頃、粗利は7割もありました。ですからどんぶり勘定でも笑い話で済まされたのだと思います。航海に例えれば昔は、水深が深く、海図が多少いい加減でも座礁はしなかった、しかし、昨今の中小製造業が置かれている環境は薄利つまり水深が浅く、そこかしこに岩礁が牙をむいて待ち受けている状態です。正に見積作業とは水深を「見積もる」作業であり、経営という航海を座礁から守る作業です。ですから、それは利益計画そのものであるといえるでしょう。

会社経営の根幹である利益計画を正確かつ迅速に支えることができる見積作業とするために属人作業の権化の様などんぶり勘定を止め、見積BOM構築しPDCAを回して共有化することで見積能力を拡散させる。さらにITの力を得るためにも見積BOMの生産管理との連携も可能とする。これらによって見積作業を一刻も早く変革させる必要があると考えています。経営者マターの重要な決断事項だと同時に思います

次回はM-BOMの還流というテーマに触れ、本シリーズのファイナルと致します。
来年からは、また、新たな切り口でこのコラムの連載を続けたいと思います。

次回は12月2日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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