第61回 流用化・標準化設計は設計者からチャレンジを奪うのか? その7(最終章)

師走です。毎年のことではありますが、何とはなく気ぜわしいですね。
そして常温ホッピーも季節を物語ってくれています。「金宮」もお湯割りで……。

さて、本シリーズの最終章です。下流側情報の要であるM-BOMと生産管理側に存在する情報設計部門への連携。さらにこの連携が全社効率向上と直結する理由を考えてみたいと思います。

上流側と下流側、つまり設計部門と生産部門との連携こそが、製造業として最も大切な情報連携部分です。両者が有機的に情報連携して相互にモノつくりを学ぶことで、全社効率を高めることができるのです。

最も大切にしたいM-BOMの連携の考え方から参りましょう。
設計者がモノつくりの源泉情報として構築したE-BOMに製造業の「魂」でもある「モノつくり情報」を付加して構築するM-BOMには、多くの時間とコストが費やされます(このM-BOMが最終的に製品として完成させるための基軸情報ですから、その重要性はこのコラムを愛読していただいている皆さんにはあえて説明は不要と考えます)。従って、新たなE-BOMが設計成果物としてアウトプット、つまり出図された場合にはしっかりモノつくりができるように、M-BOMを構築することが下流側に「義務」付けられている訳です。
どのような事情でこのE-BOMが構築されようが、そのE-BOMに新たな品目コードが付番されていたならば「どこかで見たな?」などという疑義をはさむ余地は許されず、M-BOMを構築する義務を背負っているのです。

もちろん、設計部門がいい加減に、適当なE-BOMを構築しているとは考えませんが、ここで出図納期に追われるあまり、流用化・標準化設計のコンセプトを放棄して似て非なるE-BOMを構築すれば当然似て非なるM-BOMが生み出されてしまうことになります。
従って、似て非なるE-BOMを出図しないという大原則がまずは大切であるということは容易に理解してもらえるでしょう。

大原則を共有したところで、いよいよ肝です。
下流側の効率改善を実現させるキーワードは……
「M-BOMを構築しない、M-BOMを磨く下流側」です。
もちろん、M-BOMを全く構築しないという意味では無く、下流側の期待役割の真意・本質は構築したM-BOMに磨きを掛けることにあるということです。

磨きを掛ける……とは、
これは言わずもがなQ(品質)C(コスト)D(納期)の向上です。前回の生産したM-BOMを、今回の生産ではPDCAを回してQCDを確実に向上させることを下流側の存在価値として委ねることが、生産効率向上に直結する訳です。

間違っても、毎回、毎回、似て非なるE-BOMが新品目コードを「まとって」出図され、下流側は義務を果たすべく毎回、毎回似て非なるM-BOMを構築して、結果「使い捨てM-BOM」の山を築き、QCDの向上などというPDCAを回す改善活動を行う機会も、そして、とうとう最後には改善する意識さえ失うような状態に陥ることだけは、絶対に避けるべきです。

では、M-BOMに磨きを掛ける行動の発端、トリガーはどこかと言えば、間違いなく上流側、設計部門です。しかし、そのためには設計者にM-BOMの存在を確実に意識・認識させる必要があります。「自分が出図したE-BOMがどの様なM-BOMとなって存在しているのか?」です。
流用化・標準化設計プラットフォームというITの力を利用してE-BOMからM-BOMへの変化をしっかり見届け、その変化を読み取り、理解する研究です。

このM-BOMの研究は設計者の知見を広める行為としても、とても大切なのです。
「なるほど、こんな治具を使っているのか……、こんな材料から仕上げているのか……、こんな塗装工程、表面処理工程を経ているのか……、こんな工程順でユニット化しているのか……」等々、数知れない学びや気づきがあるはずです。そして、きっと設計者は、このM-BOM研究から新たなE-BOMを安易に出図することへの「おそれ」を感じるステージに行き着くはずです。E-BOMを出図する度に係る下流側の負担つまりコストの存在への気づきです。

そして、ついに設計者は「そうか、この前のM-BOM(=E-BOM)を流用しよう! 再利用しよう!」という発想に至る訳です。これこそが小生が最も勧める全社効率向上へのカタチ……
「M-BOMの還流」の始まりなのです。

M-BOMが下流から上流へそして再び上流から下流へと何度も還流し、還流を重ねる度に、そのM-BOMのQCDは確実に向上していくのです。

このM-BOM還流が実現すると、使い捨てM-BOMの収束が始まるはずです。そこへ、さらに全社効率を高めるための下流側情報の上流側連携として、生産管理側にリアルタイムで存在する、在庫情報、納期情報、原価情報、購買情報等々も設計プラットフォームに流し、設計者が容易に閲覧できるようにします。そうすれば今度はM-BOM同士の比較が始まり「どちらが安くて速いか」というM-BOM還流に伴う相乗効果もねらえるようになるのです。そしてこの比較・選択はますますM-BOMの収束を助長し、磨きが深まっていくことになります。

設計者一人ひとりに自分が生み出すE-BOMに対し、どれ程の下流側負担が存在するのか、そればかりではなく、在庫負担、そして保守部品としての会社負担をもコストとして認識すべきなのです。

似て非なるE-BOMを「私設計する人、あなた作る人」と漫然と構築しては下流側に流すことが「いかに罪深き行為か」を認識すべきです。

「この新たなE-BOMは下流側の負担を強いてもなお、価値のあるE-BOMなのです」と設計者自ら胸を張って出図してくれるようなカッコイイE-BOMは素敵です。私は、こうあって欲しいと常々思っているのです。

流用化・標準化設計は設計者のチャレンジを奪うのか? という問いに対して7回という長い期間を掛けて持論の展開をさせてもらいました。結びとして……
「チャレンジを奪っているのは非効率な設計環境そのものであり、チャレンジの機会を得るために流用化・標準化設計を実現すべき!」という結論で本シリーズを終えます。

1年間の愛読を感謝いたします。
来年からまた新たな切り口でこのコラムを連載したいと考えています。
乞うご期待!!

次回は2017年1月13日(金)の更新予定です。

書籍

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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