第43回 「設計者を育てる」ということ その1

今年は5月から夏日が続き、これから先の酷暑が心配です。一方、巷の景色と言えば着慣れない黒いスーツ姿のフレッシュマン&ウーマンを多く見かけます。初々しいのは確かですが、どの企業も即戦力への期待は大きいであろうし、当然、教育にはそれなりのリソースを使っているのだろうと想像しています。

しかし、中小製造業となると「それなりのリソースは掛けたくても、なかなかねぇ……」という本音も聞こえそう。特に設計部門に入社した設計者(の卵?)を一人前に育てるには悲喜交々、紆余曲折の長い時間が必要です。多くの設計部門をお預かりして感じていることは「同じ中小製造業であっても若い設計者に対する教育の方針やリソースの掛け方、考え方に大きく違いがある」ということです。今月から数回に分けて、このとても重要なテーマを読者の皆さんと考えていきたいと思います。

まず、「設計者を育てる」ってどういうことなのでしょう? どうやったら設計者は育つのでしょう? 私自身の体験やコンサルタントの職務から得た知見を主体に考えてみましょう。

設計者はモノを創造し、組み合わせてシステム化するための技能を持った人々です。その技能レベルの高い・低いが設計者としての自己・他己評価を決めるのだと思います。以前も述べましたが、設計とは因果な商売です。自分で問題を作って自分で解決する商売です。

ですから「知らないこと、できないこと」が単純ですが致命的なのです。従って「知っていて、できる」ということが技能に直結し、そのようになること、することが育てるという意味の根本にあると思います。しかし、困ったことに「知っていて、できる」レベルの差は個人別に大きく存在します。

その前にお断りです。今回は「設計センスの有無」という教育課程を根っこから覆すテーマはあえて伏せて進めましょう(笑)。

さて、このレベルの差はどこから始まるのでしょうか?
工業系や工学部系の大学(院)卒業者がだいたい設計者の最終学歴です。これら技能訓練学校(であるはず、あるべき)で設計者としてのABCを教わってきたか否か? 設計者としての立ち上がり時期における適切な体験の場の有無は、その後の設計者人生を大きく変えると思います。「卒論を書いて提出したら終了でした」という不幸な設計者(?)から「実際に設計からモノつくりまでを体験しました」という設計者まで既に大差がついてしまっている場合があります。

特に前者は「設計者に自分はなりたい、そしてなれるのか?」という設計者としてのスクーリングを受けていないわけで、「工学部卒だし設計でもやってみるか?」という程度の場合もあり、これは正直かなり厳しい結果を招きます。中小製造業でよく見かけるのは「いわゆる良い大学出身」の校名ブランドに惑わされて採用してしまったという採用責任側の問題。この場合は早めの見切りや、他部門への異動も視野に置いて対応せざるを得ません。

このスタートラインにおける能力差と意識差は将来まで大きく関わってきます。
つまり、設計者として即戦力なのか否かの差です。会社は学校ではありませんから「無償の愛」的な教育はできません。教育にリソースを掛けたならば、その設計者に当然見返りを求めるべきです。しかし、「設計者に磨きをかける」のと「設計者に仕立てる」の差はあまりに大きく、限られたリソースで遣り繰りしなければならない中小製造業の場合、即戦力たる人材をどのように確保していくのか? が会社の将来を左右する大変重要な経営者マターです。実例として、学校名に囚われず、設計者教育に力を注いでいる大学研究室の教授とコネクションを持って、定期的に卒業生を送り込んでもらえるようなスキームを構築すべきです。

この辺りの発想が無く、手っ取り早く中途採用で設計者を賄おうとする経営者をよく見ますが、「期待通りの優れた設計者がきてくれた」という話を残念ながら耳にしたことがありません。

本当にいろいろあります。「前の会社で問題を起こした」「チームワークがうまくできない」など、「ワケあり設計者」しか中小製造業の中途採用の扉を自ら進んで叩いてはくれません。そう思っておいた方が裏切られないように思います。何かよほど特殊な事情が無い限り、優秀な設計者を会社が手放すわけがないでしょう? というのが私の見解です。

後は、「超破格な待遇で招き入れる」しか無いと思います。もちろん、この場合は上手くマネジメントしないと自ら雇用体系を壊し、不公平感を蔓延させる原因となります。しかし、幸いにも(?)設計者は本能的に設計能力順位を読み取る特殊(?)な能力を持っていますので、その明確な能力差を周囲の設計者に可視化できるのであれば、これもまた一つの選択肢だと思います。誤解を恐れず書けば、私の設計者能力に対する見識は「雑魚(ざこ)は何人集まっても雑魚」というもの。従って、万難を排して優秀な設計者を一人加えることの重要性や周囲へのインパクトは認めますし、そのようなマネジメントが功を奏した体験もあります。が、そうであっても中小製造業の設計者中途採用には多くの問題、リスクが伴うことに違いありません。
コンサルタントとしても大変難しい問題であると認めています。

本コラムの結論として、将来の設計部門の「軸」となり得る設計者を確保したければ、一から育ててくださいということです。そうです、0(ゼロ)からではなく、せめて一からです。だからこそ、新卒でありながら設計者として即戦力となり得るトレーニングを受けた人材の確保に励んでほしいと思います。せっかく育てた設計者が辞めてしまう恐れが……という経営者の声を聴くこともありますが、それは「経営者自身のマネジメントの問題である」との気づきが欲しいと思います。
再述しますが、これは大変重要な経営者マターです。彼らこそが会社の将来を握っているのですから……「その2」に続く。

次回は7月3日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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