第16回 「シングルE-BOM・マルチM-BOM」という考え方

流用化・標準化設計の実現により世界標準の設計成果物としてE-BOMを構築できる設計部門。
そして、そのE-BOMをベースにモノつくり情報を付加したM-BOMを構築し、高効率設計、生産を実践する中小・中堅製造業となって、初めてグローバル化への第一歩を踏み出すことが許されると私は考えています。

直近の話題としてことを欠かないチャイナ・リスクですが、今度は大気汚染です。
さすがにたまらず中国重視の軸足をリスク分散として他のアジア圏に工場分散・移転を考えている製造業が増えてきています。
が、しかしです。
まさに「ところ変われば品変わる」で移転先(国)では中国工場と同じモノつくりができるわけではありません。
国が変わるわけですから法律、調達、外注、設備、人材等々の環境が大きく変わり、当然モノつくりも現地の実情、環境に「合致したやり方」に変えていくことを迫られます。最終製品は全く同様でも、モノつくりは大きく異なるという現実とどの様に向き合っていくか・・・
それは「シングルE-BOM・マルチM-BOM」という考え方の実践能力を身に付けることです。
この考え方はグローバルBOMと呼ばれ始めた海外移転を前提としたBOM構築手法の一環に位置付けされるもので、例えば中国、からタイ、ベトナムに分散・移転した場合、三つの生産拠点がおのおの異なるM-BOMを構築し、モノつくりを実行することです。

理解のために図を添付します。

解説しましょう。

国内生産(J)は大きく二分されます。
【1】外注多用型(本図の例):設計品も外注購買とし、購入品としての扱いになりますからE-BOMにモノつくり情報の付与がほとんど必要無いためE-BOM≒M-BOMとなります。
【2】内製型:これは多くの部品を社内製造する場合です。E-BOMには記載されていない材料にまでさかのぼった調達情報。NCソフトや設備、金型情報、つくりの工程・工順情報等を付与していくためM-BOMはその形を大きく変えていきます。
海外生産(G1)、(G2)、(G3)・・・・
国内の様に優れた外注環境が存在しない場合や重要なユニット部品を日本から送り込む場合、そして一部の工程は人海戦術等、国内生産と同じ考えの「つくり」ではうまくいきません。従って、それぞれの拠点(国)ごとに「つくり」を異にするM-BOMが必須になってくることは理解して頂けるでしょう。

E-BOMから工場拠点ごとに国情や生産環境に合わせたM-BOMを「仕立て直す力」が必要とされます。
モノつくりの源泉情報であるE-BOMを有機的に変化させて各製造拠点に整合したM-BOMを構成していくスキルが本当の意味での「リスク分散」を可能にするわけです。
一つのE-BOMから生産拠点の実情にあったM-BOMが生まれる・・・・
これを「シングルE-BOM・マルチM-BOM」と呼んでいます。

今回はM-BOMにスポットライトを当てましたが、主役はE-BOMであることに変わりはなく、主役たるE-BOMがすべての根幹なのです。
言い換えれば「世界標準の設計成果物」たるE-BOMを構築できてこそのグローバルBOMなのです。
「E-BOM構築能力がグローバル化への大前提である」と言われる所以はここにあるのです。

次回は「シングルE-BOM・マルチM-BOM」をさらに掘り下げたいと思います。(4月5日(金)更新予定)

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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