第63回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その1~ 「Slow & Steady」

紙加工設備の設計製造業のA社、設計スタッフは6名。典型中小製造業。今日の糧を支えながら明日の糧となる設計効率改善を実現しなければならない……。欲張らず「Slow & Steady=ゆっくりと、しかし着実に!」を実践!

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その1~ 「Slow & Steady」

ホッピーは呑みたいが、「金宮」のお湯割りでも良いかな……と唯一気持ちが揺らぐ節分です。寒いですね。インフルエンザにも気が抜けません。各位、ご自愛のほど。

新シリーズ 設計部門BOM改善コンサルの現場から

さて、今月から新シリーズを展開したいと思います。
シリーズ名を「設計部門BOM改善コンサルの現場から」として、実際にお預かりしたコンサル案件での「現場の景色」を端的にお届けしたいと思っています。人格があるように、会社にもしっかりと「社格」が存在します。最も、その由来はひとえに経営者からもたらされるのですが、お預かりする小生の対応も原理原則はあっても、その「社格」によってコンサルのとしてのアプローチやプロセスは大きく異なります。

従って、このコラムを愛読していただいている各位の会社の事情に照らし合わせて「うちとそっくりだなー」とか「これならできそうだ」というモチベーション・プランにつながるきっかけになれば、新シリーズの目論見は達せられると考えます。
それでは参りましょう!

老舗オーナー会社A社 二代目の遠慮

A社は紙製品加工設備を自社設計製造している業界では老舗。いわゆる、オーナー会社の二代目が次期経営を意識して、全社システムの刷新を企てていました。二代目はいまどきの「ITの力」を認識していて、特に設計部門の重複設計に問題を感じていました。お客様の言うとおりに設計製造して、生業をつないできた結果、設計部門は「蛸壺設計」の典型となり、類似部品の氾濫を下流部門で招いていました。工場長を経験していた二代目は生産部門で設計部門が主原因であるこの問題を肌で感じていたわけです。

オーナー系でよくある話ですが、設計部門の改革の着手が遅れる原因に、二代目の「遠慮」があります。
往々にして設計部長は初代(先代)に仕え、今は摂政関白役として存在。二代目のつぶやきも「社長(先代)は俺の言うことは聞いてくれないが、設計部長の言うことには耳を傾ける」という感じとなります。二代目にとっては何かと目のうえのたんこぶ的な存在で、正面から設計部門の現状否定はしにくいのです。その辺りの二代目の覚悟の程も大きく設計部門改善着手のタイミングを握りますが、現在の会社の礎を築いた実績は揺るぎ無く、「新たな時代に即した設計部門にしたい」とはなかなか言いにくい、結果、ズルズルと延び好機を逸するケースを多く見受けます。

本ケースもそれに当てはまるのですが、その設計部長もいよいよ現役を退くことを良い機会に小生にお呼びがかかったということです。

塩漬けの使い捨て図面

設計スタッフを預かり、ヒアリングを開始しましたが、小生の開口一番は「塩漬けだな、こりゃ」でした。
昨日の続きは今日、今日の続きはまた明日……という漫然と疑いも無く蛸壺設計を繰り返し、結果、毎日産出される設計成果物は一度しか日の目を見ない図面つまり「使い捨て図面」が原図室に塩漬けになっていく現状でした。
流用化・標準化設計という言葉との距離は大きくかけ離れ、この塩漬けになった設計資産をどうやって2Sするか? が始めの一歩としての最重要施策となりました。6名のPJ(プロジェクト)メンバーからは……

誰がやるの?
これから期末を迎えてメチャクチャ忙しくなるよ?
全員無言……。

小生からは「Slow & Steady」方式で行こう!_とアドバイス。
二代目には「設計部門の現状認識も踏まえ、拙速な結果は求めないこととしましょう。しかし我慢強く粘り強く推進しましょう!」という同意を取り付けて、このやり方をアドバイスしました。

ゆっくり、しかし着実に!

何か手練手管が存在しているわけでもなく、書いてある字のごとく「ゆっくり、しかし着実に!」の実行です。
物事の成就の根本に「成功するまで止めない」というのがありますが、「Slow & Steady」(=2S)はその原理を支える行動そのものです。

ただし、「Slow」にすると「Fade Out」(フェードアウト)して、いつの間にか無くなってしまった……という結果を何度か体験しています。
「ゆっくりだけれども止めない」という信念めいた、ある意味偏執的な意識で2Sを実行することになります。
これは担当する設計者の気質にも大きく影響します。2S担当を引き受けた設計者のA氏、30代前半。普段あまり目立たず、大人しい外見と振る舞いでしたが何かに取りつかれたように毎日できる時間の範囲で「シコシコ」(適切な表現?)2Sを実行していました。

小生も「継続は力」を実感する、その粘り強さには頭が下がりました。
先代からのトレペに書かれた図面から各人のCADのファイルに在る図面まで

  1. 機能分類(同機能部品、ユニットの仲間集め)
  2. 属性情報付与
  3. 品目コード付与

という作業を淡々としかし着実に枚数を処理して行くわけです。こんな大切な2S作業を「個人の価値観・判断基準で決めて良いの?」という質問も出るかもしれません。確かに、その危険性をはらんでいるとは思いますが、多忙なPJメンバーで合議しながら2Sがうまく進捗するとも思えません。

「多少、価値観・判断基準が偏っているとしてもまずは進捗させる。どうしても受け入れられない場合は後で修正する」という精神的な「緩さ」も必要だと考えます。「最初から100点めざせ!」などと言ったとたんに2Sは進捗しなくなると思います。つまりA氏に「委ねる」という連帯責任の存在も大切なのです。

後半になると指数的に効率も上がり、それでも流用化設計が可能になる設計資産の台帳整理がおおむね終了した時点で、足かけ4年が経過していました。2SばかりでなくA氏の設計者としての大きな成長も同時に得ることができたのは大変大きな収穫でした。A氏曰く「当社の基礎となるコア技術が何なのか、この2Sを通して初めて理解できました。何処にどの様なノウハウが存在するのか、今は分かります」との感想です。

人材の成長にスピードを求めてもあまり良い結果は得られない

スピードは確かに大切です。なぜならビジネス換算すると利益になり得るからです。しかし、設計部門の置かれている環境の現実を直視して、成功するまでの時間に対し「我慢」をすることも経営者としてのもう一つの選択かもしれません。中小企業の人材の成長にスピードを求めてもあまり良い結果は得られないと思います。その意味で、この設計成果物の2Sという作業が「設計者としての人材育成に一役買うことができる作業である」という認識は持っていただけたでしょう。そして「Slow & Steady」で良いのです。

この2Sの完成を足掛かりに、上流側の流用化・標準化設計プラットフォームも稼働し、いよいよA社は一気通貫を実現すべく下流側の生産管理システムの導入を今年行うことが決まりました。「Slow & Steady」つまり、ゆっくりではあるか着実に一気通貫システムが構築されていく様を傍らで見ていられることは大変心地よい物です。

以上

次回は3月3日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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