第99回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その32~一気通貫システム実稼働への秘訣(ひけつ)

中小・中堅製造業が生き残りを懸けた競争に勝つために、設計部門(上流側)と生産側(下流側)がシステムを連携させ、効率の良い「一気通貫システム」の構築と後押しを行っています。各社の実情や取り組み方の相違が、その進捗や稼働状態の優劣を決定します。ここで再度、その秘訣を述べます。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その32~一気通貫システム実稼働への秘訣

スキー場には雪が降らず、森のクマさんも冬眠を妨げられている様子。間違いなく暖冬です。私もおかげさまで三冷ホッピーを通年でたしなむ結果になっていて、金宮のお湯割りが妨げられています(?)。

そもそも一気通貫システムとは

当社が中小・中堅製造業向けに強く訴求し、推奨している一気通貫システムの機能エレメントは、大きく三つのシステムから成り立っています。

  1. BOMによる流用化・標準化設計プラットフォーム・システム(上流側)
  2. 上流側と下流側を有機的に(BOMばかりでなく五月雨出図等もあわせて)つなぐ双方向情報連携システム
  3. 上流側から受け取ったBOMを基本情報として効率よく生産管理を行うシステム(下流側)

この三つのシステムを実稼働させることで、利益源泉である全社効率を高め、生き残りを懸けての戦いに臨むことができるようになるのです。

これらを一気に実稼働に持ち込むことは、現業を抱える状況からすると時間・人材の確保もあわせて難しく、通常は「1⇒2⇒3」と上流側から番号順に構築していくことになります。

時として、設計部門が多忙等の理由で「3⇒1⇒2」と下流側から構築する場合もあるのですが、この場合は常に流用化・標準化設計プラットフォームの要件定義を意識しながら構築する必要性があります。その辺りをいい加減に進行させると、上流側構築が始まった途端に下流側との要件定義に齟齬(そご)が生じ、大きく手戻りが発生する場合があります。従って、よほどの理由がない限りは避けたいと考えています。これは秘訣以前の大前提とも考えています。

さらに、おのおののシステムを稼働させるに当たっては、今までの業務運用ルールを大きく改革することが不可欠ですから、担当PJ(プロジェクト)メンバーの汗と涙(?)はその業務負荷の重さを考えると想像に余りあります。

私自身も後押しをしながら、3歩前進2歩後退を強いられる場面に何度も遭遇します。
お預かりする各社のいずれの場合も多かれ少なかれ同様の環境下、状況での構築になるのですが、それでも、進捗(しんちょく)や稼働状態に差異が出てくるのはなぜなのか。これは後押しをさせていただく私自身にも、大変重要な課題でありテーマでもあるのです。

一気通貫システムを実稼働させる秘訣とは……

いろいろなケースがありますが、私が普遍的だと感じている三つの秘訣を述べてみたいと思います。

1.経営者(層)のしっかりしたビジョンの存在=「生き残る!」という必然性の存在と全社員への訴求

もちろん経営者は多くのリソースを吐き出すわけですから、無関心ではないはずなのですが、やはり一番ヨロシクないのが「予算内で期日どおりに稼働させなさい。後は良きに計らえ!」といった雲上人型の経営者です。

つまり、多くのリソースを費やし、かつプロジェクトメンバーには負荷を与えているわけですから「なぜ効率化しなければならないのか。どのような形で効率化すべきなのか」という具体的なビジョンを示し、それを一気通貫の「幹」としてプロジェクトメンバーに伝え、植え付けることができるか否かにあると思います。同時に、負荷を掛け苦労させているメンバーに対してのモチベーションプランニングを忘れず、メンバーを奮い立たせ続けることが大切です。

私も時々閉口させられてしまうのが「今年度の重点施策は一気通貫の実稼働!」と錦の御旗は上げるも、「それっきり音沙汰なし」というやつです。大企業の経営者ならともかく、何のための中小・中堅製造業なのでしょうか。
プロジェクトメンバーにしてみれば「社長は本当にやる気なのかな?」という感覚でしょう。そのようなビジョンが希薄な状態下では、改革など進むわけがありません。

2.部門の壁を乗り越える

最初に手掛ける上流側構築のプロジェクトメンバーの主役は、やはり設計部門になるでしょう。それ自体は問題ないのですが、秘訣はプロジェクトメンバーに営業技術や生産部門(必要が有れば原価管理部門など)の責任者、もしくはそれに準ずるメンバーを必ず参加させることです。

流用化・標準化設計の行く末には、必ず営業姿勢(売り方)や生産方式の改革を同時に求めてきます。「設計部門でやらせておけばよい」と我関せずで放置プレー。その結果、上流側の稼働が近づき「新設計業務フローに伴う関連部門への業務フロー変更について」などという資料が回ってきた途端に「こんなこと聞いてないよ! 今までと同じやり方では駄目だ! どうするの?」となるわけです。全く寝ぼけた話ではあるのですが、現実です。

一気通貫システムは何度も言いますが、全社効率改善が目標です。そうです、「全社」です。従って、「どうせ設計部門の話でしょ。私は忙しいから無理」などと、時として幹部層は無関心を装います。これもまた経営者(層)がそのようなことを許さず「モノづくりの源泉情報を生み出す設計部門の改革がどのように行われ、その改革が自部門にどのように影響し、その結果どのように変革する必要があるのか」という試行錯誤の実行を常々「全社=全部門」に指示を徹底することです。

私も当初は全部門参加原則をお願いするのですが、プロジェクトの回を重ねるごとに、一人抜け、二人抜け……。
そして人事権のない私は無力感に苛まれることになるのです。このような事態を招かないためにも、部門の壁を乗り越えて全社で考え抜く姿勢が求められるのです。

3.ファインチューニングを怠らない

「1⇒2⇒3」と上流側から下流側へ構築が進行する過程で、「幹」となるコンセプトを貫くあまり「枝葉」となる例外処理に対する対応がおろそかになり、結果、融通が利かない窮屈なシステムになってしまうことがあります。

物事(仕事の過程)には、必ず例外処理が発生します。従って「幹」となる原則処理の効率化は追及を怠ってはなりませんが、そのあまり例外処理を認めない、もしくはその処理が大変非効率になってしまうことは避けねばなりません。

つまり、ある程度「遊び」をシステムに作ることです。ギアのかみ合いと同じで、遊びを持たないとうまくシステムが回転しないということです。

そのためには、一度決定した上流側の要件定義を修正する必要も出てくるでしょう。一度決めたことだから……とかたくなにならず、ファインチューニング(微調整)を怠らずに、バランスを取って進めて行くことが肝要と考えています。

ただしここで注意したいのが、あくまでコンセプトである「幹」の要件定義の決定が主であり先決です。決して「枝葉」の方に最初から迷い込まないようにしてください。この順番を間違えて例外処理の話に迷い込み、肝心な「幹」の要件定義がいつまでたっても決まらないプロジェクトを時々見かけます。幹あっての枝葉です。これは肝に据えてください。

この三つの秘訣は必要十分条件、つまり基礎と考えてください。その上に各社の事情を鑑みた対応策を立案して構築していくことになりますが、建物同様、基礎あっての構造物です。

以上

次回は3月6日(金)公開予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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