ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第106回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その38~BTO(Build To Order)などのマトリックス製品群に対するBOMの考え方
PCの発注でお馴染みのBTOですが、建築関連製品やインテリア・照明器具関連製品においても同様に「類似製品」の塊が、代表製品ごとにマトリックス群として発生し、「これら類似BOMをどのように構築し、管理していくべきなのか?」という問い合わせが増えています。生産管理への連携も視野に置きながら、あるべき姿を述べます。
設計部門BOM改善コンサルの現場から~その38~
BTO(Build To Order)などのマトリックス製品群に対するBOMの考え方
第2波(?)のコロナ禍+酷暑ですが、テレワークという代替手段がwithコロナで普遍化しました。予期せぬ「働き方改革」と感じています。まずはエアコンとテレワーク環境、そして三冷ホッピーに感謝の8月です。
BTOやマトリックス製品群とは
皆さんとこれらの製品群のイメージを共有するために下図を用意しました。
この製品群の場合はY軸方向に「サイズ=寸法」のバリエーション、X軸方向には「表面処理=メッキ・塗色」のバリエーションとして存在しています。従ってX・Y軸に展開されたマトリックス製品群が形成されます。
●:この製品群の基本となる製品=基本BOM
★:バリエーション製品と呼ばれる類似製品=類似BOM
×:何らかの(技術的、営業的)制約による禁則製品
という成り立ちです。この例では単純な二次元構成となりますが、実際はさらにいろいろな選択要素が重複した多次元構成となっているわけです。
多くの業務フローとしての事例は、まずは「●」の基本BOMを設計部門が構築、出図して、下流側の生産技術部門などが「★」や「×」の判断も含めて類似BOMを構築し、製品マトリックスを完成させるというフローです。もちろん、本来の業務としては設計責任という観点から設計部門でこの製品マトリックスを完成させ、それに対応したBOMも全て構築すべきでしょう。
しかし、場合によってはマトリックスが二次元に収まらず、煩雑な順列組み合わせの結果「受注されないかもしれない組み合わせのBOMまで設計部門で構築するより、多忙な設計部門は少しでも新規製品の開発・設計に注力したい」という本音が業務フローの中で優先されているとも考えています。
マトリックス製品群のBOM構築はどのように考えるべきか?
最近、多い質問として「基本BOMを構築したら自動的に製品マトリックスに必要なBOMを完成できる仕組みはないか?」というものです。私は「気持ちは分かりますが……ありません」と常々お答えします。
基本BOMと類似BOMは「類似」しているわけですが「同一」ではありません。従って製品としてそれぞれ「ユニーク」な存在であり、構成されている子部品も同一ではなく、何かが異なっているはずです。結果、製品ごとに「ユニークな親品目コード」が付番され、識別管理の対象となります。
識別管理の基本条件とは……
- 相似形であっても寸法、表面処理=塗色、機械的構造、付属品群などが異なる(メカ系)
- 外観からは不明な電気的定格や動作シーケンス・ソフト、安全規格などが異なる(エレキ系)
- 原価が異なる
この3条件でしょう。
極端ですが、これらの結果1,000種類の製品マトリックス群が必要な場合は1,000種類の類似BOMが必須となります。構成する子部品も上記条件から類似部品が数多く必要となるでしょう。
ただし、ここで設計手腕が試されるのがメカ系設計の「いかに共通部品を生み出すか」ということです。なるべく多くの製品をカバーできる部品を設計していくことが重要です。メカ系の「自由に部品を生み出せる」という性に甘んじて、製品ごとに類似部品を生み出してしまえば、1,000種類の類似部品を生成してしまうことになります。結果、生産側(M-BOM、在庫管理)に大きな負担をもたらし、原価上昇の原因にもなります。
このことが先述した「マトリックスの完成を下流側に委ねてしまうのではなく、設計責任として設計部門でマトリックスを完成させるべき」と述べた根拠です。類似BOM構成をたくさん作成するという単純な業務ではなく、上記3条件を常に考慮しながら設計責任を果たすということなのです。
さらに、電気系では購入品(カタログ製品)採用となるでしょうから、個別製品最適を狙わず「大は小を兼ねる」というコンセプトを念頭に、これもまた共通部品となるように採用決定することです。
「えーっ! 1,000種のBOMを構築するの!?」という声が聞こえてきそうですが、たしかにExcelと格闘するとすれば、私自身に置き換えても気後れする作業です。
「流用化・標準化設計プラットフォーム」でのBOM構築のメリット
しかしここで、ITの力を得て効率良く正確に、そして共通部品を認識しながら多数のBOMを構築する方法として「流用化・標準化設計プラットフォーム」でのBOM構築を勧めます。
- BOM構成する子部品の流用化や類似部品の認識による新規設計有無や範囲の判断
- 製品BOMの基本構成を類似コピーしながら、マトリックス上の関連やヒストリー情報を確保
- 製品・構成する子部品の品目コードの自動発番管理
これらによってBOMの数におびえることなく、マトリックス製品群(ファミリー)を見失わずに構築することができます。
1,000種類の製品マトリックスを製造・販売するのであれば、下流側の生産管理はその1,000種類のBOMを要求します。さらにそのBOMを基にM-BOMが構成され、そのM-BOMが生産管理の基本情報となります。従って、構成部品が一つでも異なれば製品の品目コード(親品目コード)は異なり、結果、識別管理が必須であることを再度述べます。
つまり、ここに近道はないということを強く認識してください。
大切なことは、この類似した1,000種類のBOM群の相互間での相違(差分)やそれらを構成する子部品の検索、ヒストリーが情報として確保できて、かつ共有できるようにすることです。それらを可能とするのが流用化・標準化プラットフォームなのです。
以上
次回は10月2日(金)更新予定です。
書籍ご案内
当コラムをまとめた書籍『中小企業だからこそできる BOMで会社の利益体質を改善しよう!』と、その第2弾としての新刊『BOMで実践!設計部門改革バイブル 中小・中堅製造業の生き残る道』を日刊工業新聞社から出版しています。BOM構築によって中小企業が強い企業に生まれ変わる具体策とコツを提案しています。
Nikkan book Store(日刊工業新聞社)
★新刊★
BOMで実践!設計部門改革バイブル 中小・中堅製造業の生き残る道(日刊工業新聞社Webサイト)