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EDIデータの扱い・保存要件は電子帳簿保存法の改正でどう変わる?
契約書や金銭のやり取りをインターネットまたは専用回線上で行うEDIは、利便性の高さから導入を検討している企業が増えつつあります。
しかし2022年1月から施行される電子帳簿保存法により、EDIの取引データは電子データとして保存しなければならないなど、企業として取り組むべき対応があるので注意が必要です。EDIの導入が済み、またはこれから導入を考えている企業は、電子帳簿保存法で改正されたポイントと保存要件について把握する必要があります。
目次
EDIの基礎知識
EDIには複数の種類があり、特徴やメリット・デメリットが異なります。また導入方法は、主にオンプレミス(自社構築)とSaaSの2通りがあります。EDIの導入を検討するなら、使用する場面を考慮し、導入方法と種類を検討する必要があるでしょう。
EDIとは?
EDIとは、商取引で発生する証憑(しょうひょう)などを専用回線などを使って電子化し、やり取りすることをいいます。「Electronic Data Interchange」の略で「電子データ取引」や「電子データ交換」という意味があります。EDIを利用すれば、商取引などでやり取りする注文書や請求書の授受および出荷の手配などを一括で行うことができます。
証憑とは、発注書・納品書・請求書など取引や契約の成立を証明する書類のことです。取引を行う双方が証憑のデータ変換システム(EDIシステム)を準備し、双方のシステム同士で直接証憑のデータをやり取りします。
EDIの主な種類
EDIは、データの送信側と受信側の双方で運用ルールを定める必要があります。導入しているシステムが双方で異なっていても、円滑に運用するためです。運用ルールで定める項目は、通信方法・データ形式・識別コードなどがあります。
個別EDI
個人と複数の企業間でやり取りするEDIを指します。売手が複数の取引先企業に対して個別に導入するため、それぞれのルールを設定します。取引先企業の要望に合わせた柔軟な対応ができる反面、導入したEDIの数だけデータ形式を用意する必要があります。
標準EDI
企業間のデータを標準化した標準規格のEDIのことを指します。標準化されているため、複数の取引先とも同一規格でやり取りできます。
業界VAN
特定の業界に特化した標準EDIのことを指し、業界共通の商品コードや取引先コードが標準化されています。一般的な標準EDIと比べると汎用(はんよう)性は劣りますが、業界内の取引ではより便利に使用できます。
Web-EDI
EDIのために用意する専用回線ではなく、インターネット上にてあらかじめ環境が整えられたクラウド上で行うEDIを指します。専用回線を用いたEDIには、コストがかかるうえ通信速度が遅いというデメリットがありました。Web-EDIはセキュリティが強固なクラウド上で行われるため、通信速度が速く業務効率の向上につながります。
全銀EDI(ZEDI)
企業間で振り込みを行う際に、取引明細などの商流情報を添付できるEDIを指します。これまで電文の長さが決まっている「固定長形式」でしたが、国際基準(ISO20022)のXML方式に移行したことでコンピューターでの処理が容易になり、振り込み時に多くの情報が添付できるようになりました。
EDIの保存方法と要件
EDIを用いて企業間または個人と企業で取引を行った場合は「電子取引」に当てはまります。電子取引で授受した電子データは、電子帳簿保存法で定められた要件に則って保存することが義務付けられています。
EDIの保存方法
電子帳簿保存法の改正により、EDIの取引データは「電子データでの保存」が義務付けされました。電子帳簿保存法では、各税法で保存が義務付けられている帳簿書類のうち一定の条件に当てはまる場合は、電子データでの保存を義務付けることを定めた法律です。この法律には、電子データを保存するための要件やルールが記載されています。
従来は認められていた「EDI取引の明細などを紙に出力して保存」が不可となるため注意が必要です。2022年1月から既に施行されていますが、適用準備を考慮し2年間の猶予期間が設けられています(2023年12月末まで)。
「電子データ保存」はすべての企業が対象で、保存期間は原則7年間です(10年間の保存が必要なケースもあります)。保存場所は、取引に関わるユーザーがそれぞれ用意した自社サーバーなどで、EDIシステムのクラウド上で保存できる場合は、ユーザーごとにデータを保存する必要はありません。
EDIの保存要件
「電子帳簿保存法」の施行規則には保存要件が定められており、「真実性の確保」と「可視性の確保」の二つを満たすことが求められます。
真実性の確保
真実性とは、情報に訂正や削除などの加工を加えていない、または加えたときに記録が残るようにしている状態を指します。真実性を確保するには、四つの要件のうちいずれかを行う必要があります。
- タイムスタンプを付してから取引情報の授受を行う
- 取引情報の授受後、速やかにタイムスタンプを付けるとともに、保存を行う者または監督者に関する情報を確認できるようにしておく
タイムスタンプの付与期間は取引情報の授受後7営業日以内、または最大2カ月以内の業務手続き終了後から7営業日以内 - 記録事項の訂正・削除を行った場合、これらの操作内容が確認できるシステム、または記録事項の訂正・削除ができないシステムを使用して取引情報の授受および保存を行う
- 正当な理由がない訂正・削除の防止のため、事務処理規程を定めてそれに沿った運用を行う
可視性の確保
可視性とは、検索して必要時にデータをすぐに閲覧・確認できる状態にあることを指します。可視性を確保するには、三つの要件を全て満たす必要があります。
- 保存場所に、パソコンなどの電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンターおよびこれらの操作マニュアルを備え付けること
また操作マニュアルは、形式や見た目を整理した状態で、画面や書面などに速やかに出力できるようにしておくこと - データを保存する電子計算機処理システム(パソコン等)のヘルプや説明書を備え付けること
- A~Cの検索機能を確保すること
A:取引年月日、取引金額、取引先の記録項目により検索できる
B:日付または金額の範囲指定により検索できる
C:二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により記録できる
保存義務者が、税務職員の質問検査権に基づく電子データのダウンロードや提示の求めに応じられる場合は、検索要件のうちBとCの対応が不要
さらに、保存義務者が小規模な事業者で、税務職員による質問検査権に基づく電子データのダウンロードや提示の求めに応じられる場合は、全ての検索要件が不要
小規模な事業者とは、電子取引が行われた日が含まれる年の前々年の1月1日から12月31日までの期間(基準期間)の売上高が1,000万円以下の個人事業主。および電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度の売上高が1,000万円以下の法人を指す
- * 出典:
EDIの取引データ保存時の注意点
電子データで保存する際に必要だった所轄税務署長への事前申請が不要になるなど、電子帳簿保存法の改正により、企業が対応すべき内容や保存要件に幾つか変更点があります。これらの変更点を理解すると同時に、保存義務がある者や保存対象のデータを把握することが大切です。
EDI取引データの電子保存の事前承認は不要
電子保存を行うために、所轄税務署長の事前承認は不要です。電子帳簿保存法の改正前までは必要でしたが、改正後は要件さえ満たせば直ちに電子データによる保存・管理に移行できます。
暗号化したデータは双方のデータ保存が必要
EDIで暗号化したデータをやり取りする場合、暗号化前のデータ(送信者側)と復号化したデータ(受信者側)双方の保存が必要です。また取引データに複数回の修正を加えた場合は、修正後の最終的な取引データのみ保存すればよいとされています。
ただし見積書などの場合は、前の見積書に変更を加えて最新の見積書として交付することがあるでしょう。その場合、前の見積書も一度確定させているため、最新の見積書だけではなく前の見積書のデータも送信者側と受信者側で保管する必要があります。
- * 出典:
EDIを用いた電子取引を行うなら「電子帳簿保存法」への適用が必要
2022年1月から施行された電子帳簿保存法では、EDIで取引データをやり取りした場合、紙で出力しての保存が廃止されました。これまで紙で保存していた企業は、今一度取引データの保存における業務フローを見直す必要があるでしょう。また見直す際に、定められた要件に則って保存できるようにしなければなりません。準備期間のための猶予が設けられているため、できるだけ早めにEDIの取引データを保存する体制を整えておきましょう。
本記事の監修者
岡 和恵
大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、MBA、CFPなどを取得。
2019年より税理士事務所を開業。会計・税務の豊富な実務経験と知見を活かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。
保有資格
・税理士・CFP
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