【電子帳簿保存法への対応】事務処理規程に盛り込むべきこととは?

事務処理規程とは、電子取引データ・電子帳簿・スキャナー保存データを電子帳簿保存法に則って保存するために、企業で定める取り決めのことです。全ての企業において作成が必須ではありませんが、条件によっては作成と備え付けが必要なケースがあります。

電子保存に関わる規程を作成するとき、国税庁が公表しているサンプルを用いて作成すれば、大きな時間や負担をかけずに作成できるでしょう。業務効率や引き継ぎにおいて実務で活用するメリットがあるため、必須でなくとも作成をおすすめします。

本記事では2021年に改正され、2022年1月から施行された最新の電子帳簿保存法に則った事務処理規定の概要とポイント、対応方法について解説します。

電子帳簿保存法における事務処理規程とは

電子帳簿保存法に則ってダウンロードした取引データや電子帳簿などを保存するため、事務処理規程には企業における保存対象の書類、保存と管理における責任者などを明記します。
電子帳簿保存法では規程の作成を必須としているケースがあります。しかしそれらのケースに当てはまらなくても、業務効率や引き継ぎにおいてメリットがあるため、作成して損はありません。

電子帳簿保存法における「事務処理規程」の概要

ここで定める事務処理規程とは、電子帳簿保存法に沿った運営をするために社内で定める規程を指します。正当な理由のない訂正・削除を防止するために作成し、社内で遵守するよう努めます。

事務処理規程を定めるメリット

事務処理規程は、電磁的な記録を作成・保存する際に電子帳簿保存法で定められている一定の条件下において作成すればよいのですが、作成することで以下のようなメリットがあります。

責任者と保存対象の明確化で業務効率の向上につながる

事務処理規程に電子データ化における責任者と保存対象を明記するため、保存対象の範囲が明確化され、責任者が認識できます。責任者が認識されていれば、問題発生時にスムーズに対処できるでしょう。
また保存の対象範囲がわかれば、非対象の書類を電子データ化せずに済みます。さらに必須ではありませんが業務マニュアルを事務処理規程に盛り込めば、最適化された手順に沿って業務を進められるため業務の効率化につながります。

電子データ化の対象かどうか判断の指針になる

事務処理規程は判断の指針になります。電子帳簿保存法の対象は国税関係帳簿書類(国税関係帳簿・国税関係書類)、電子取引データと定められていますが、なかには対象として判断に迷う書類もあるでしょう。
そこで社内専用に作成した事務処理規程を備え付けておけば、電子化したデータの業務において判断に迷ったときの参考として役立ちます。

業務手順やノウハウを伝えやすい

業務手順が定着しても、人が入れ替わるたびに業務手順について説明する必要があります。この場合も業務フローや業務マニュアルを改善した事務処理規程を定めることでルールが明確化されるため、新しく入った社員や新しく部署に就いた方へ業務手順が伝えやすくなります。また以前とは異なる業務手順や誤った業務内容を伝えてしまうことを防止できるでしょう。

事務処理規程を定める必要のあるケース

事務処理規程の作成と備え付けは必須ではありません。電子帳簿保存法で定められた一定の条件に当てはまる場合にのみ作成が必須とされています。

2022年1月1日以前の書類をスキャンし電子データ化して保存する場合

2022年1月1日以前に作成した書類をスキャンして電子データ化する場合は事務処理規程が必要です。スキャナー保存できる対象の書類としては「領収書等・納品書等」といった日々の業務に欠かせない書類も含まれています。

具体的にどのような書類があるのか確認してみましょう。

電子取引で授受した国税関係書類の取引データを紙で出力し保存している
*帳簿は対象外
重要書類資金や物の流れに直結・連動する書類写しも含まれる例:
契約書、領収書、請求書、納品書
一般書類資金や物の流れに直結・連動しない書類写しも含まれる例:
検収書、入庫報告書、貨物受領書、見積書、注文書、契約の申込書等

電子取引で相手から受け取った、または自社で作成して交付した書類の控えが対象です。ただし「2022年1月1日以降」に作られた書類をスキャンして電子データ化する場合は事務処理規程の作成は不要です。

特定の環境下で「電子取引」における電子データを保存する場合

特定の環境下とは、不正や正当な理由がない訂正・削除が行われる可能性がある環境下のことです。電子帳簿保存法の電子データを保存するには、四つある「真実性の要件」のどれか一つを満たす必要があります。そのどれかを満たしている場合、事務処理規程は不要です。

真実性の確保

真実性とは、情報に訂正や削除などの加工を加えていない、または加えたときに記録が残るようにしている状態を指します。真実性を確保するには、四つの要件のうちいずれかを行う必要があります。

  1. タイムスタンプを付してから取引情報の授受を行う
  2. 取引情報の授受後、速やかにタイムスタンプを付けるとともに、保存を行う者または監督者に関する情報を確認できるようにしておく
    タイムスタンプの付与期間は取引情報の授受後7営業日以内、または最大2カ月以内の業務手続き終了後から7営業日以内
  3. 記録事項の訂正・削除を行った場合、これらの操作内容が確認できるシステム、または記録事項の訂正・削除ができないシステムを使用して取引情報の授受および保存を行う
  4. 正当な理由がない訂正・削除の防止のため、事務処理規程を定めてそれに沿った運用を行う

「電子帳簿保存法が改正されました」(国税庁・PDF)

電子帳簿保存法に対応した事務処理規程に記載すべきこととサンプル

事務処理規程に、少なくとも必ず記載しなければならない事項があります。また規程といえば、難解な言葉で複雑かつ解釈が難しい文章で記載されることが多く、作成が困難なイメージがあります。
しかし国税庁および複数の企業が、公式サイト上で事務処理規程のサンプルや書式を無料で公開しています。それらを自社に当てはめて作成すれば、負担が大幅に軽減されるでしょう。その際は業務の効率化にもつながる検索性の確保にも取り組むことをおすすめします。

事務処理規程の記載内容

事務処理規程を定める際、何もない状態から作成するのは困難です。インターネット上では、国税庁や民間企業が事務処理規程のサンプルを公表しています。自社に当てはめて作成すれば効率よく作成できます。また、サンプルは事務処理規程に業務手順やマニュアルを盛り込んだものであることも理解しておきましょう。

スキャン保存に関する記載内容

スキャンして保存した電子データの削除・訂正を原則禁止するという以下の文言を記載します。

  • 削除・訂正を禁止する対象の書類
  • スキャンして電子データ化し、保存するまでの手順
  • 保存する時期
  • やむを得ず削除・訂正する場合の取り決めや手順
  • 原本の廃棄に関するルール
  • データ管理責任者および処理責任者の明確化

電子取引に関する記載内容

電子取引における電子データの削除・訂正を原則禁止するという以下の内容や文言を記載します。

  • 電子取引の範囲
  • 削除・訂正を禁止する電子データの対象
  • やむを得ず削除・訂正する場合の取り決めや手順
  • データ管理責任者および処理責任者の明確化

電子帳簿保存法に対応した事務処理規程のサンプル

国税庁が事務処理規程のひな型を公開しています。はじめから規程を作成するのは手間かかるため、ひな型を基に自社向けにアレンジしましょう。

出典:国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」(国税庁)

事務処理規程は必須事項に該当していなくても作成したほうがよい

事務処理規程の作成は義務ではありません。ただし以下に当てはまる場合は作成し、備える必要があります。

  • 2022年1月1日以前に作成した紙ベースの書類をスキャナー保存する場合
  • 不正や正当な理由がない訂正・削除が行われる可能性がある環境下で電子取引データを保存する場合

しかしこれらのケースに該当しなくても、事務処理規程を定めておけば業務効率の向上や業務内容の統一化が図れるため作成をおすすめします。はじめから全て作成するのは大変ですが、国税庁や企業が公表している事務処理規程のサンプルを利用すれば、時間や負担をかけずに作成できます。

また、事務処理規定の作成を機会にクラウドサービスを使った経理部門のDXやインボイス制度への対応、検索機能の向上などによる省力化にもつながるため、早めの対応を検討してみてはいかがでしょうか。

本記事の監修者

岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、MBA、CFPなどを取得。
2019年より税理士事務所を開業。会計・税務の豊富な実務経験と知見を活かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。

  • 保有資格

    ・税理士・CFP

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