電子帳簿保存法に罰則はある?改正のポイントと罰則内容について

改正電子帳簿保存法が2022年1月1日より施行され、電子取引において授受した取引データを電子データのまま保存することが義務付けられるようになりました。従来のまま紙ベースで保存した場合や要件に則っていない場合、罰則はあるもののすぐに課せられるわけではありません。
しかし指摘を受け、企業にとってマイナスイメージがつくことを防ぐためにも、改正ポイントについて把握して対応する必要があるでしょう。

そこで今回は、2021年に法改正され2022年1月から施行された電子帳簿保存法の注意点と罰則に関わる改正内容について解説します。

電子帳簿保存法に違反した場合の罰則

電子取引で授受したデータは、電子データのまま保存することが義務付けられます。もし電子帳簿保存法に則っていない方法で保存した場合、すぐに罰則を受けることはありませんが、場合によっては悪質と判断され罰則の対象になる場合があります。

青色申告が取り消される可能性がある

2024年1月以降、電子帳簿保存法に則って電子データを保存していない場合、青色申告の取り消し対象になる可能性があります。

青色申告を取り消されるデメリットとしては、以下の2点が挙げられます。

  • 個人事業主は、家族・親族の給与を経費に算入できない
  • その年に発生した赤字額を翌年以降の黒字と相殺できない

ただし青色申告の取り消しにおいて、国税庁は以下のように述べています。

【補足説明】

電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務に関する今般の改正を契機として、電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないかとの問合せがあります。
これらの取扱いについては、従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。

出典:お問い合わせの多いご質問〜令和3年11月〜(国税庁・PDF)

規則に則っていないからといってすぐに取り消されるわけではなく、違反の程度等を総合勘定したうえで、青色申告を提出するに相応しくない悪質な場合と認められた場合に取り消されます。

過少申告加算税がかかる

国税庁の調査で申告内容の誤りが発覚した場合、「過少申告加算税」が課せられます。「過少申告加算税」とは、本来より納める税金が少ない場合に課せられる税金のことで、税率は新しく納める税金のうちの5%(差額が50万円を超える部分は10%)です。

ただし国税庁の調査が入る前に申告すれば過少申告加算税はかかりません。また「優良な電子帳簿」に限り、国税庁の調査が入った後に申告しても過少申告加算税が5%軽減されます。「優良な電子帳簿」とは、指定された八つの項目全てを満たす電子帳簿のことです。

  • * 改正後は保存要件が減ったため、保存要件を全て満たすことは義務ではありません。

優良な電子帳簿要件

  1. 電子データに訂正・削除などの加工を加えた場合、それらの操作が記録として残るシステムで保存すること
  2. 通常の業務処理期間を過ぎた後に入力した場合、入力した日付がわかるシステムで保存すること
  3. 電子データ化した帳簿とほかの帳簿の関連性を確認できること
  4. システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること
  5. 保存場所に、パソコンなどの電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンターおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、形式や見た目を整理した状態で、画面や書面などに速やかに出力できるようにすること
  6. 取引年月日、取引金額、取引先の記録項目により検索できる
  7. 日付または金額の範囲指定により検索できる
  8. 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により記録できる

改正後必須となる保存要件

  1. システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること
  2. 保存場所に、パソコンなどの電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンターおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、形式や見た目を整理した状態で、画面や書面などに速やかに出力できるようにすること
  3. 保存義務者が、税務職員の質問検査権に基づく電子データのダウンロードや提示の求めに応じられるようにしておくこと
  • * 出典:

「電子帳簿保存法が改正されました」(国税庁・PDF)

重加算税が10%加重される

保存した電子データについて仮装隠蔽(いんぺい)や改ざんなどが発覚した場合は、重加算税が課せられます。重加算税とは、適切に申告・納税していない場合に課せられる税金のことで、税率を過少申告した場合は35%、無申告の場合は40%です。保存したデータに仮装隠蔽や改ざんがあった場合は、重加算税からさらに加重されます。

【2022年】電子帳簿保存法の五つの改正点

改正電子帳簿保存法の改正点は大きく分けて五つあります。電子データ化して保存するための規則や要件が緩和されるという内容がほとんどですが、書類をスキャナ保存するときの要件は細かく定められています。

電子データ化する書類の必須要素が緩和される

電子データを保存する際に、満たさなければならなかった必須要素が8項目から3項目に減りました。ただし8項目全て満たせば「優良な電子帳簿」として認められます。「優良な電子帳簿」と認められると過少申告加算税の優遇措置が受けられます。必須要素の内容は、前章の表をご覧ください。

電子データ化保存のための税務署長による事前承認が廃止される

2021年12月31日までに作成した書類は、3カ月前までに税務署長の承認が必要でした。しかし改正後、2022年1月1日以降の作成分においては税務署長による事前承認が不要になります。電子取引の際に使用した書類や自社で作成した帳簿、スキャナ保存する書類が対象です。

保存した電子データに関する検索要件が三つに緩和される

検索する三つの必須要素とは日付・取引金額・取引先です。保存した電子データをこれら三つの必須要素で検索できるようにしておきます。

タイムスタンプの付与期間が延長され署名が必須ではなくなった

従来は、受領した3営業日以内にタイムスタンプを付与し署名する必要がありました。しかしタイムスタンプの付与期間が延長され、7営業日以内または最長約2カ月の業務終了後、7営業日以内に付与すればよいこととされました。

書類におけるスキャナ保存するための必須要素が廃止される

従来は不正防止のため、規程の作成や相互けん制が必須でした。しかし改正後は、スキャナ保存した書類においては原本を破棄できます。ただしスキャナ保存するための要件を遵守することが条件です。

スキャナ保存できる書類には重要書類と一般書類があり、それぞれ以下のように分けられています。

重要書類資金の流れや物の流れに直結・連動する書類写しも含まれる例:
契約書、領収書、請求書、納品書
一般書類資金の流れや物の流れに直結・連動しない書類写しも含まれる例:
検収書、入庫報告書、貸物受領書、見積書、注文書、契約の申込書

上記の書類をスキャナ保存するには、以下の要件を満たす必要があります。

 重要書類一般書類
入力期間の期限

「業務処理サイクル方式」
国税関係書類にかかる記録事項の入力を、最長2カ月以内の処理業務後、7営業日以内に行うこと

「早期入力方式」
国税関係書類にかかる記録事項の入力を、受領後7営業日以内に行うこと

「適時入力方式」
適時に入力(注)
一定水準以上の解像度
およびカラー画像による
読み取り
  • 解像度が200dpi以上であること
  • 赤色、緑色および青色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビット)であること
  • 解像度が200dpi以上であること
  • グレースケールでの読み取りも可能(注)
タイムスタンプの付与
  • 「一般財団法人 日本データ通信協会」が認定する業務におけるタイムスタンプを入力期間中に付与する
  • タイムスタンプは一つの入力単位ごとに電子データの記録事項に付与すること
  • * タイムスタンプは、電子データが変更されていないことを保存期間中一貫して確認できるものであること
  • * 入力期間内に、対象の国税関係書類を入力したことが確認できる場合は、タイムスタンプの付与は必須ではない
読み取り情報の保存

読み取った電子データの解像度、階調および国税関係書類の大きさに関する情報を保存すること

  • * 読み取った国税関係書類の大きさがA4以下の場合は、大きさに関する情報の保存は不要
読み取った書類の大きさに関する情報の保存は不要(注)
バージョン管理

国税関係書類における電子データの記録事項について、訂正または削除を行った場合、これらの動作が行われた記録が残り、かつ確認できるシステムを使用すること

または国税関係書類における電子データの記録事項について、訂正または削除ができないシステムを利用すること

入力者等情報の確認

国税関係書類における記録事項の入力を行う者またはその者を直接監督する者に関する情報を確認できるようにしておくこと

帳簿との相互関連性の確保

国税関係書類における電子データの記録事項と、国税関係帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性が確認できるようにすること

見読可能装置の備え付け等

(1)14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイおよびカラープリンターならびに操作説明書を備え付けること
(2)電子データは、次のイ~ニの状態で、速やかに出力できるようにすること

イ:整理整頓されている
ロ:原本の国税関係書類と同程度に見分けがつく
ハ:拡大または縮小して出力できる
ニ:4ポイントの大きさの文字を認識できる

グレースケールで保存する場合は、カラー対応のプリンターを設置する必要はない(注)
電子計算機処理
システムの概要書等の備え付け

電子データを保存するための、パソコンや専用ソフトなどの電子計算機処理システムにおいて以下の書類を備え付けること

  • 電子計算機処理システム概要を記載した書類
  • 電子計算機処理システムの開発途中で作成した書類
  • 操作説明書
  • 電子計算機処理や電子データの備付け
  • 保存に関する事務手続を明らかにした書類
検索機能の確保

電子データの記録事項では、次の要件による検索ができるようにすること

(1)取引年月日その他の日付、取引金額および取引先での検索
(2)日付または金額で範囲を指定しての検索
(3)二つ以上の任意の記録項目を組み合わせての検索

  • * 税務職員の、質問検査権に基づく電子データのダウンロードに応じられる場合は(2)と(3)の要件は不要
  • (注)電子データをスキャナ保存した場合、電子データの作成および保存に関する事務手続きについて明らかにした書類を備え付けること(事務手続きには責任者が定められていること)
  • * 出典:

「はじめませんか、書類のスキャナ保存」(国税庁・PDF)

電子帳簿保存法の改正に備えて企業が取り組むべきこと

改正電子帳簿保存法は2022年1月1日に施行されたものの、準備のため2023年12月末まで猶予期間が設けられています。この期間の間に、企業はどのような取り組みをすべきでしょうか。

電子取引データ保存のための環境を整える

猶予期間を経た2024年1月以降は、HTMLをPDFに変更するなどの保存しやすい形式に電子データ化の変換をするなど、電子取引情報の電子データ化と保存が必須になります。環境を整えるには、専用ソフトや自社開発したシステムを用いる方法があります。

専用ソフトを導入するなら、公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)認証の製品がおすすめです。また自社開発したシステムを用いる場合は、税務署および国税庁に設けられた窓口で、要件を満たしているか確認してもらうとよいでしょう。

スキャナ保存できる環境を整える

必須ではないものの、過去に作成した書類のスキャナ保存をおすすめします。これまで書類を保管していたスペースが有効活用できるうえ、書類管理にかけていた負担が大幅に軽減されます。

スキャナ保存をするためには、一定の条件を満たした電子機器で読み取る必要があります。

  • 解像度が200dpi
  • カラーでスキャンができ、RPGの階調がそれぞれ256以上(一般書類の場合はグレースケールでの読み取りも可能)
  • タイムスタンプを付与できる
  • * 一般書類とは、資金や物の流れに直接関係がない書類のことです。
    (例)見積書、注文書、検収書など

上記の条件を満たしていれば、A4サイズ以下および一般書類に限り、スマートフォンやデジタルカメラでの読み取りも可能です。

電子帳簿保存法の改正ポイントを理解し確実な罰則の回避を

改正電子帳簿保存法により、電子取引における取引データの電子化および保存が義務付けられました。紙ベースでの保存または要件に則っていない保存をした場合、最悪のケースでは青色申告の取り消しなどの罰則対象になる可能性があります。

しかし則っていないからとすぐに罰則を受けるわけではなく、再三の注意や指示に応じない、または内容が悪質だと判断された場合に罰則を受ける場合があります。しかし罰則対象の定義が具体的に定まっていないため、できるだけ電子帳簿保存法の要件を把握し、適切な電子データの保存を心がけましょう。

本記事の監修者

岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、MBA、CFPなどを取得。
2019年より税理士事務所を開業。会計・税務の豊富な実務経験と知見を活かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。

  • 保有資格

    ・税理士・CFP

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