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電子帳簿保存法に則った契約書の保存法|電子化するメリットは?
事業に関する契約書は国税関係書類に該当するため、電子帳簿保存法に則った保存が必要です。昨今では電子契約が普及しており、押印の代わりに電子署名を加えることで契約が締結でき、契約書を電子データのまま社内システムおよびクラウドサービス上で管理できます。
2021年に改正された電子帳簿保存法により、電子取引で授受した契約書は電子データのまま保存することが義務付けられました。契約書の保存方法について、自社で今一度見直す必要があるかもしれません。
目次
電子帳簿保存法における契約書の保存の仕方
電子帳簿保存法は、紙媒体における保存が義務付けられていた国税関係帳簿書類を一定の要件のもと、電子化して保存することを認める法律です。契約書も国税関係帳簿書類に該当するため、電子データ化または紙媒体での保存が義務付けられています。
電子データの契約書の場合
2022年1月以降に、メールやクラウドサービスなどの電子取引で授受した契約書の電子データは、電子帳簿保存法に則り、電子データのまま保存する必要があります。電子取引で授受した契約書の電子データを紙に出力して保存することは認められません。電子データ化で保存するための対応には準備期間が設けられており、2022年1月1日から2023年12月31日までの間に完了させる必要があります。
紙の契約書の場合
用紙で受領した契約書は、用紙またはスキャナ保存ができます。一方で自己が電子機器のみを用いて作成し、用紙で交付した契約書は、控えとして用紙または電子データで保存します。
ただし2022年1月よりも前にパソコンなどの電子機器のみで作成した紙の契約書は、用紙のまま保存できます。さらに、一部または全て手書きの契約書は日付に関わらず紙で保存できます。紙で出力された契約書の保存期間は、電子データと同様に7年間または10年間です。
電子帳簿保存法に従って契約書を電子化するメリット
契約書を電子データ化し契約先のクラウド上に保存することで、許可した人のみいつでも閲覧・作業ができます。契約書関係で出社する必要もないため、コストや手間の観点からさまざまなメリットが感じられるでしょう。
スキャンする手間やコストを削減できる
契約書を電子データのまま管理すれば、紙の契約書のようにスキャンする必要がありません。手間を削減でき、業務の効率化が図れます。また契約書を作成するための紙代、インク代、印紙代などの費用が抑えられます。
セキュリティを強化でき改ざんの防止をしやすい
サーバー内またはクラウドサービス上に保存した契約書は、改ざん防止の策を講じやすい環境にあります。
というのも契約書に操作を加えた際に操作ログが残るため、改ざんされても履歴で発覚するためです。このようにセキュリティ対策の施されたパソコン内またはクラウドサービスに施されたセキュリティが強固な場合、無関係の人が契約書を改ざんすることは難しいでしょう。
押印するために出社する必要がなくなる
押印のほか、手書きで必要事項の記載・印刷・郵送などの工程がなくなります。電子データ化した契約書をサーバーやクラウドサービス上に保存している場合、インターネット環境が整っていれば、関係者はいつでも閲覧できます。するとテレワークや働き方改革を推進しやすくなるでしょう。
電子帳簿保存法の対応に向け契約書を電子化する方法
契約書を電子データ化するには、大きく分けて二つの方法があります。それは電子取引で授受した契約書を電子データのまま社内システムまたは契約先のクラウド上に保存する方法と、紙の契約書をスキャナ保存する方法です。それぞれ、定められた要件に沿って保存する必要があります。
契約書の電子化に必要な要件
電子化された状態で授受した契約書のデータは、電子帳簿保存法の電子取引の保存区分に分類されます。電子取引の保存区分では、真実性と可視性の確保が求められ、真実性は対象のデータが改ざんされていないこと、可視性は対象のデータを検索や表示できることが条件です。具体的には以下の要件を満たす必要があります。
真実性の確保
以下四つのうち一つ以上を満たせばよい
- タイムスタンプが付与された後、契約書の授受を行う
- 契約書の授受後、速やかに(またはその業務の処理にかかる通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付与するとともに、保管を行う者または監督者に関する情報を明確にしておく
- 記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの履歴が残るシステムまたは記録事項の訂正・削除が行えないシステムで契約書の授受および保管を行う
- 正当な理由がない訂正・削除の防止に努めるため、事務処理規程を自社で定め、規程に沿った運用を行う
可視性の確保
以下三つの要件を全て満たすこと
- 保管場所に、電子計算機(パソコンなど)、プログラム、ディスプレイ、プリンターおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に明確な状態で速やかに印刷または表示できるようにしておくこと
- 電子計算機処理システムの概要書を備え付けること
- ファイル名などでA~Cの検索機能を確保すること
A:取引年月日、取引金額、取引先名の記録項目により検索できること
B:日付または金額の範囲指定により検索できること
C:二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により記録できること
保存義務者が、税務職員による質問検査権に基づく当該電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索項目のうちBとCが不要
さらに、保存義務者が小規模事業者で、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は、全ての検索項目が不要
- * 小規模事業者とは、電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日までの期間(基準期間)の売上高が1,000万円以下の事業者を指す
紙で出力した契約書をスキャナ保存するときは、特別な手続きは必要ありません。ただし2022年よりも前に授受した契約書に関しては、所轄税務署長への申請が必要です。
またスキャナ保存するためには重要書類として、以下のような要件を満たす必要があります。
入力期間の期限 | 【業務処理サイクル方式】 【早期入力方式】 |
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一定水準以上の解像度 およびカラー画像による読み取り | 解像度が200dpi以上であること 赤色、緑色および青色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビット)であること |
タイムスタンプの付与 | 入力期間内に、「一般財団法人 日本データ通信協会」が認定する業務において、タイムスタンプを一つの入力単位ごとに付けること
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読み取り情報の保存 | 読み取った際の解像度、階調および契約書原本の大きさに関する情報を保存すること
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バージョン管理 | 契約書の記録事項について訂正または削除を行った場合、これらの履歴が確認できる電子計算機処理システム、または訂正や削除が行えない電子計算機処理システムを使用すること |
入力者等情報の確認 | 契約書の記録事項を入力する者、またはその者を直接監督する者がいつでも明確であること |
帳簿との相互関連性の確保 | 契約書の電子データにおける記録事項と、当該国税関係書類に関連する国税関係帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できるようにしておくこと |
見読可能装置の備え付けなど | (1)14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイおよびカラープリンターならびに操作説明書を備え付けること (2)電磁的記録について、次のイ~ニの状態で、速やかに出力することができるようにすること |
電子計算機処理 システムの概要書などの備え付け | 電子計算機処理システムの概要を記載した書類、そのシステムの開発に際して作成した書類、操作説明書、電子計算機処理ならびに電磁的記録の備え付けおよび保存に関する事務手続きを明らかにした書類を備え付けること |
検索機能の確保 | 電磁的記録の記録事項について、次の要件による検索ができるようにすること (1)取引年月日その他の日付、取引金額および取引先での検索
|
- (注)契約書をスキャナ保存するための、記録の作成および保存に関する事務手続きを明らかにした書類(これら事務手続きの責任者が定められているもの)を備え付ける必要がある
契約書を電子データで管理する方法
文書作成ソフトで契約書を作成する
文書作成ソフトで契約書を作成しメールで相手に送信します。改ざん防止のため、PDFなどに変換してから送信しましょう。
電子契約システムを利用する
電子契約システムは、一つのシステム内で契約書のアップロードや送受信、保存、検索、押印など契約に関する業務を完結できるシステムです。導入するならば、タイムスタンプの機能や電子署名機能、本人確認の有無などがついている、電子帳簿保存法に対応したシステムの利用がおすすめです。
積極的に契約書の電子データ化を心がけましょう
契約書は、電子取引において授受した電子データを保存する方法、紙の契約書をスキャンして読み取り、電子データ化して保存する方法の2種類があります。
電子契約のサービスが普及しているため、契約書の電子データ化および電子データでの保存はますます進むと思われます。電子データ化のための対応がより求められるでしょう。
契約書を電子データ化することで、押印や管理等の手間および契約書関連の事務作業への負担が大幅に軽減されます。さらに用紙代や印紙代等にかかっていたコストも削減できるため、契約書の電子データ化は積極的に進めていくことをおすすめします。
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本記事の監修者
岡 和恵
大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、MBA、CFPなどを取得。
2019年より税理士事務所を開業。会計・税務の豊富な実務経験と知見を活かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。
保有資格
・税理士・CFP
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