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e-文書法と電子帳簿保存法の違いは?適用時に優先して理解すること
e-文書法は、紙での保存が法令で義務付けられた書類を電子データ化して保存するためのルールを定めた法律です。また電子帳簿保存法も、同様に書類を電子データ化して保存するためのルールを定めた法律であり、双方とも内容が混同しやすい法律です。
e-文書法と電子帳簿保存法の概要と違いを把握し、企業や事業者として取り組むべき対応について明らかにする必要があります。
目次
e-文書法とは?
e-文書法は、紙での保存が法令により義務付けられている法定保存文書を電子文書として保存するためのルールを定めた法律です。電子文書として保存する場合は、e-文書法で定められた四つの要件を満たす必要があります。
e-文書法の概要
従来法令により、国税関係帳簿書類などの法定保存文書は、紙での保存が義務付けられています。e-文書法は、それら法定保存文書を電子データで保存することを容認する法律で、通則法と整備法の総称です。
通則法は、法定保存文書を電子的に保存するための共通事項がまとめられており、整備法は、通則法のみでは賄うことができない場合の、規程整備を行う役割を持っています。
e-文書法の要件
e-文書法に沿って電子データで保存するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 見読性
- 電子データ化した書類を見て読めるかどうか
- 完全性
- 年数を経ても保存時と同様の状態を維持できるか、データの改ざんや消去を防ぐことができるか
- 機密性
- 強固な機密管理のもとデータを扱えるか
- 検索性
- 定められたキーワードで必要な情報を探すことができるか
e-文書法と電子帳簿保存法の違い
電子帳簿保存法とは、国税関係帳簿書類の全部または一部を電子データ化して保存することを定めた法律です。e-文書法との違いは、対象の書類にあります。
対象範囲の違い
e-文書法と電子帳簿保存法では対象となる文書の範囲が異なります。
e-文書法の対象書類は、厚生労働省または財務省・国税庁が所管している法令により保存が義務付けられた法定保存文書を指し、高度な見読性を確保することが必要な書類は対象外です。例えば毒物または運搬する毒物劇物の名称や、事故時の応急の措置の内容を記載した書面などが該当します。
一方で電子帳簿保存法は国税関係帳簿書類が対象です。電子帳簿保存法は、e-文書法の中の一つという位置付けです。
法定保存文書 (e-文書法の対象範囲) | 非法定保存文書 | ||
---|---|---|---|
国税関係帳簿書類(電子帳簿保存法の対象範囲) | 労働者名簿 賃金台帳など (労働基準法の対象範囲) | 商業帳簿 株主名簿など (商法および会社法の対象範囲) |
電子データで保存する場合の要件の違い
e-文書法の保存要件は見読性・完全性・機密性・検索性の四つです。また電子取引によって授受した電子データを保存する場合、電子帳簿保存法における保存要件は、真実性と可視性の二つです。
真実性とは高い証明力のことを指し、書類の授受から一定要件でのスキャン電子化、廃棄に至るまでのプロセスおよび電子データへの改変や、消去の抑止が必要です。また可視性は、税務調査が適切に行えるように検索性と見読性が規定されています。
具体的には、書類を電子データ化する際には以下の要件を満たすことが求められます。
真実性の要件
以下四つのうち一つ以上を満たせば良い
- タイムスタンプが付与された後、取引情報の授受を行う
- 取引情報の授受後、速やかに(またはその業務の処理にかかる通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付与するとともに、保存を行う者または監督者に関する情報を明確にしておく
- 記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの履歴が残るシステムまたは記録事項の訂正・削除が行えないシステムで取引情報の授受および保存を行う
- 正当な理由がない訂正・削除の防止に努めるため、事務処理規程を自社で定め、規程に沿った運用を行う
可視性の要件
以下三つの要件を全て満たすこと
- 保存場所に、電子計算機(パソコンなど)、プログラム、ディスプレイ、プリンターおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に明確な状態で速やかに印刷または表示できるようにしておくこと
- 電子計算機処理システムの概要書を備え付けること
- ファイル名などでA~Cの検索機能を確保すること
A:取引年月日、取引金額、取引先名の記録項目により検索できること
B:日付または金額の範囲指定により検索できること
C:二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により記録できること
保存義務者が、税務職員による質問検査権に基づく当該電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索項目のうちBとCが不要
さらに、保存義務者が小規模事業者で、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は、全ての検索項目が不要
- * 小規模事業者とは、電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日までの期間(基準期間)の売上高が1,000万円以下の事業者を指す
e-文書法の基本は電子帳簿保存法の対応
企業や事業者として、e-文書法と電子帳簿保存法の両方を完全に把握する必要はありません。e-文書法は法定保存文書全てが対象なため、なかには業務において取り扱いがない文書も含まれているためです。
電子帳簿保存法の内容を理解する
財務関連の担当者においては、まず電子帳簿保存法の内容を優先的に理解しましょう。というのも各企業や事業者が取り扱う国税関係帳簿書類の電子データ化は、電子帳簿保存法で定められているためです。
e-文書法は、保存が義務付けられている全ての書類の基本的要件について言及しているため、範囲が広く把握するのは大変です。
優先的に行う電子帳簿保存法の対応
電子帳簿保存法の保存区分を理解する
電子帳簿保存法には以下三つの保存区分があります。
- 電子帳簿等保存
- 電子的に作成した帳簿・書類を電子データのまま保存する
- スキャナー保存
- 電子的に作成し紙で出力した書類をスキャンして電子データ化し保存する
- 電子取引データ保存
- 電子的に授受したデータを電子データのまま保存する
それぞれの保存要件を満たせるよう、保存にかかる業務フローを整える必要があります。
電子データ化すべき書類の洗い出しと保存までのフローの整備
国税関係帳簿書類は、以下のようにして保存します。
国税関係帳簿
- 手書きの箇所がない場合
- 電子的に用紙または電子データで保存
- 手書きの箇所がある場合
- 用紙で保存
国税関係書類
- 手書きの箇所がない場合
- 用紙または電子データで保存
- 手書きの箇所がある場合
- 用紙またはスキャナー保存
全て電子的に作成した国税関係帳簿書類は、要件を満たせば電子データ化して保存できます。また電子取引で受領(じゅりょう)していないデータに限り、紙で出力した書類および控えは、スキャンで読み取り画像データ化して保存できます。
電子帳簿保存法で定められた要件が満たせるよう、保存作業のフローを整えましょう。保存要件および企業や事業者が取り組むべき対応については、以下の記事も併せてご覧ください。
e-文書法の中の電子帳簿保存法に注目する
e-文書法は、法定保存文書を電子データ化して保存するためのルールを定めた法律です。また法定保存文書に含まれている国税関係帳簿書類を電子データ化して保存するためのルールを定めたのが電子帳簿保存法です。
e-文書法はあくまで通則法と整備法の総称であり対象範囲が広いです。財務関連の担当者は、まず電子帳簿保存法を把握し対応する必要があります。
国税関係帳簿書類の電子データ化が推進されており、電子取引で授受した電子データにおいては2024年1月以降、紙で出力して保存ができません。要件を満たして保存できるよう保存業務フローの整備が必要です。
本記事の監修者
岡 和恵
大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、MBA、CFPなどを取得。
2019年より税理士事務所を開業。会計・税務の豊富な実務経験と知見を活かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。
保有資格
・税理士・CFP
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