電子帳簿保存法の歴史|2021年度に改正された主な内容は?

電子帳簿保存法は1998(平成10)年に制定されてから現在まで何度も改正されています。その理由は、著しく進化するインターネットや通信技術に則り、それらを扱う企業の負担やコスト削減、およびペーパーレス化による環境へ配慮した取り組みを推進するためです。

今後もインターネットや通信技術は進化するうえ、環境問題への関心もより一層強まることでしょう。そのため、電子帳簿保存法の改正が今後も行われる可能性があり、電子データ化への対応を早めに済ませておくことが大切です。

電子帳簿保存法の制定から改正の歴史を振り返り、電子保存を行いやすいよう要件緩和される様子を見ていきます。

電子帳簿保存法の概要と制定された背景

電子帳簿保存法は、1998(平成10)年に定められてから何度も改正が行われてきました。というのもインターネット技術が進化する速度にあわせたルールの見直し、および実態に即したルールや体制づくりの導入を促進するためです。インターネット技術の進化は留まることがないため、今後も法改正が行われる可能性は十分にあるでしょう。

電子帳簿保存法の概要

電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類を電子データ化して保存する際の対象や保存方法などを定めた法律です。国税関係帳簿書類とは、仕訳帳・総勘定元帳・損益計算書、納品書・注文書・領収書などの国税に関係のある帳簿および書類を指します。

制定される以前は、会計帳簿や決算書などの書類を電子データの形で保存できる決まりが存在しませんでした。しかし1998年に定められてから現在までに、改正を繰り返しながら要件緩和され、国税関係帳簿書類を電子データ化して保存しやすい取り組みが行われました。

そして2021(令和3)年度にも、新しい法改正が行われました。

電子帳簿保存法ができた背景

インターネット技術が進歩したおかげで、高度情報化やペーパーレス化が進んでいます。また会計処理においても、会計ソフトやクラウドサービスなどを使用して帳簿書類を作成する機会が大幅に増えました。そこで、企業や事業者が国税関係帳簿書類を作成し保存するための効率化および負担軽減を図るため、電子データ化して保存する法整備が行われました。

過去に施行された電子帳簿保存法改正の歴史

電子帳簿保存法の主な改正の歴史を振り返ります。改正の内容を辿ると、国税関係帳簿書類を電子データ化して保存するための要件緩和や、電子データ化での保存に対する認知が行われていく様子がわかります。

2005(平成17)年度の改正内容

紙媒体で授受した国税関係書類のスキャナ保存が認められました。しかし帳簿や決算関係書類、契約書および領収書は、引き続き紙媒体で保存するよう求められています。ただし領収書や請求書のなかでも、3万円未満の少額な取引のみ電子データとしての保存が認められており、電子署名とタイムスタンプが必要です。

また同時期に、法令により保存が義務付けられていた、国税関係書類を含む書類を電子データで保存することを認めるe-文書法が施行されました。

2015(平成27)年度の改正内容

スキャナ保存できる対象書類の範囲が拡大されました。これまで認められていなかった、3万円以上の領収書や請求書もスキャナ保存が可能となりました。また、スキャナ保存の際に必要だった電子署名が不要になり、追加要件として適正事務処理要件が求められました。

適正事務処理要件とは、国税関係書類の受領から入力までの事務処理において、以下のような規程を定め、規程通りに事務処理を行うことをいいます。

  • 事務処理の工程ごとに別の者が担当すること(相互けん制)
  • 事務処理において定期的に調査を行うこと(定期的な検査)
  • 事務処理において不備があった場合、原因を追求し再発を防ぐ仕組みを作ること(再発防止)

出典:「II適用要件【基本的事項】」(国税庁)

2016(平成28)年度の改正内容

電子帳簿保存法におけるスキャナの定義が変わり、国税関係書類を電磁的記録に変換するための入力装置であることとされました。つまり、スキャナの要件に沿っていれば、スマートフォンやデジタルカメラで読み取った画像を保存することも認められました。

また小規模企業者の相互けん制要件の特例が施行され、小規模企業者への定期チェックを税務代理人が行う場合、事務処理の工程ごとに別の者が担当するという相互けん制の要件は不要となりました。

2019(令和1)年度の改正内容

スキャナ保存の期間制限が緩和されました。これまで、承認を受ける前に作成・受領した重要書類については、スキャンして保存することが認められませんでした。しかし法改正から過去の重要書類も、一定の要件を満たせばスキャナ保存が可能です。

電子帳簿保存法の2021年度に改正された主な内容

これまで、電子取引で授受した電子データの保存が積極的に行われるよう法改正されてきました。しかし認知不足や、保存要件が厳しいまたは手間がかかることもあり、電子データ化による保存が思うように進んでいませんでした。そこで、新型コロナウイルスの影響によるテレワークの推進もあり、2021(令和3)年の法改正では電子取引で授受した取引情報の電子データ化保存が義務化されます。

改正された目的と背景

2021年、電子化により経理の電子化による生産性の向上、クラウド会計などの利用による記帳水準の向上などを図るため、大きく改正されました。経済社会のデジタル化や、新型コロナウイルスの影響によるテレワーク推進が大きく影響しています。改正により所得税・法人税などの帳簿書類を電子的に保存する際の手続きが抜本的に見直されました。この改正は、2023(令和5)年1月1日より施行されます。

電子帳簿等保存に関する主な改正内容

国税関係書類を電子データ化して保存する際、改正前までは税務署長の事前承認が運用開始の3カ月前までに必要でした。しかし2021年の改正により、税務署長による事前承認申請が撤廃されました。

また、優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置が整備され、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って記録しており、かつ最低三つの要件を満たせば、電子データ保存が認められるという満たすべき要件の数が緩和されました。三つの要件とは以下を指します。

  • 電子データを保存するシステムの、システム関係書類などを備え付けること(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアルなど)
  • 電子データの保存場所に、パソコンなどの電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンターおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、画面や書面に分かりやすく表示し、いつでも確認できるようにしておくこと
  • 税務職員による質問検査権に基づいた、電子データのダウンロードの求めにいつでも応じられること

スキャナ保存に関する主な改正内容

紙媒体の取引情報や国税関係書類をスキャナ保存する際、以下のような要件緩和が行われました。

  • 国税関係書類を電子データ化して保存する際、これまで必要だった税務署長による事前承認申請が撤廃された
  • タイムスタンプの付与期間が7営業日以内または業務処理(最大2カ月以内)後、7営業日以内となった
  • 国税関係書類をスキャンして保存する際、これまで必要だった自署が不要になった
  • 電子データの操作ログ(訂正・削除など)が確認できる場所へ保存した場合は、タイムスタンプが不要
  • 保存した電子データの検索性の必須要素が取引年月日その他の日付・取引金額・取引先の三つに限定された

電子取引に関わる主な改正内容

適正な保存を担保する措置の見直しが行われました。具体的には、電子取引にかかわるデータを紙に出力して保存することが不可となり、電子データ化した内容に不正があった場合は重加算税が10%加算されます。

またタイムスタンプにおいては、スキャナ保存の改正ポイントと同趣旨の要件緩和が行われました。加えて検索要件に関しては、以下二つの要件を満たしていれば全て不要になります。

  • 個人の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度の売上高が1,000万円以下であること(小規模な事業者)
  • 税務職員から、帳簿書類や領収書・請求書といった書類の提出などの要請に応じられる体制になっていること

改正電子帳簿保存法の背景を理解し今後に備える

国税関係帳簿書類を取り扱う企業または事業者が、電子データでの保存が容易になるよう、電子帳簿保存法が何度も改正されました。

2021年度の改正は、新型コロナウイルスの影響によるテレワーク推進の動きもあり、電子データ化への対応をより積極的に行う内容となっています。政府によるデジタル・トランスフォーメーションの取り組みが今後も進めば、電子帳簿保存法も併せて改正される可能性があります。

電子データ化による対応が本格化する前に、システムの検討および導入、業務フローの確立などを進めていきましょう。

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本記事の監修者

岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、MBA、CFPなどを取得。
2019年より税理士事務所を開業。会計・税務の豊富な実務経験と知見を活かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。

  • 保有資格

    ・税理士・CFP

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