ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
業務改善に用いる四つのフレームワークと役立つツール
業務改善は、多くの企業が抱えている課題の一つとして常に取り上げられるトピックです。ビジネス環境がこれまで以上に速いスピードで変化していく現代では、効率的かつ効果的な業務改善フローを立案し、速やかに実行することが求められます。その際に役立つのが「フレームワーク」です。今回は、業務改善に活用できるフレームワークを紹介し、活用方法について詳しく解説します。
目次
人気記事デジタルトランスフォーメーションの戦略の必要性と立案時のポイント
既存システムのブラックボックス化・老朽化、デジタルテクノロジーに対応できる人材の枯渇などによって引き起こされる「2025年の崖」という大規模な経済損失を乗り越えるために必須とされている取り組みですが、成功させるためには戦略が求められます。デジタルトランスフォーメーション戦略の重要性、打ち立て方などについてご紹介します。
業務改善・フレームワークとは?
まずは、業務改善とフレームワークの定義について理解を深めるところから始めましょう。
「業務改善」という漠然としたイメージを明確化することによって、この後の内容がスムーズに理解しやすくなります。
業務改善とは
業務改善とは、事業における課題を発見・解決し、効率的な仕事環境を作り出すことです。
よく耳にする「業務効率化」も業務改善の取り組みの一つで、既存の業務から「無理があること」「無駄があること」「ムラがあるもの」、つまり「ムリ・ムダ・ムラ」をなくすことを意味します。
それぞれの詳細を確認してみましょう。
ムリ
実現不可能なスケジュール設定や、力量から大きく外れた目標によって負担がかかっている状態。
ムダ
「ムリ」とは反対に、適切な負荷がかからないことによって本来の力が発揮できず、余分な動作が生まれ、生産性が低くなっている状態。
ムラ
「ムリ」「ムダ」があることによってパフォーマンスにバラツキが生まれ、同じ仕事を行った場合でも成果に差がある状態。
このような「ムリ・ムダ・ムラ」をなくすことで労働環境が改善され、生産性の向上やコスト削減といった効果が期待できます。
業務改善は、日常の業務を棚卸しして「見える化」し、タスクに優先順位を付けるところから始まります。その後、システム化やマニュアル化を行って取り組みを実施し、検証・改善を行います。
フレームワークとは
業務改善を行う際に重要なのは「意味のある改善」をすることです。現在抱えている問題を可視化し、そこに焦点を当てて改善を行わなければ成功しません。そこで役に立つのがフレームワークです。
フレームワークは「枠組み」という意味で、何かしらの課題に対する解決策を考える際に必要な要素を枠組みとして設計し、それにそって実施することで失敗のリスクを低減しつつ、解決策にたどり着けるような仕組みのことです。業務改善のフレームワークの目的は、課題を可視化し、改善点を洗い出すことです。
業務改善の四つのフレームワーク
フレームワークには複数の種類があり、その中から適したものを選ぶことが大切です。
ここでは、業務改善に役立つ代表的な四つのフレームワークと、具体的な活用方法を紹介します。
BPMN(Business Process Model and Notation)
BPMNは業務フローを表記する手法の一つで、四角形や丸、矢印など、誰でも理解できる簡単な表記を用いて業務フローを図で表したものです。
「Yes」と「No」で質問に答えていき、最終的に「Aにたどり着いたあなたは○○タイプ」と診断されるような質問票をイメージすると分かりやすいでしょう。
業務フローの表記方法には幾つかの種類がありますが、BPMNはその中でも代表的な表記方法であり、国際標準規格に認定されています。
BPMNには、目的に応じて次の三つのレベルがあります。
(1)記述レベル
BPMNの中で最も簡単なレベルの業務フロー図で、基本的な業務を俯瞰(ふかん)する目的で作成されます。
(2)分析レベル
「記述レベル」の内容から一歩踏み込んだ詳細や、例外的な業務フローなどが表記されます。
このレベルの業務フロー図は、業務内容を分析し、改善に向けた具体的な手法を検討する際に活用することができます。
(3)システムで実行可能レベル
BPMNの中で最も複雑な業務フロー図で、「記述レベル」と「分析レベル」の内容に加え、業務システムで実際に使用されるデータ項目や条件式、さらには外部システムとの連携まで想定した上で設計されます。
業務システムの実装やプロトタイプの制作を行う際には、このレベルの業務フロー図が必要です。
このようにBPMNでは、業務フローの難易度を目的に合わせて階層的に設定することができます。
ECRS(イクルス)
ECRSは次の四つの視点に基づいて、業務フローの中で改善するべき箇所を洗い出すためのフレームワークです。
- E(Eliminate):排除
- C(Combine):結合
- R(Rearrange):再配置
- S(Simplify):簡易化
「排除」の視点で作業の取捨選択を行うことから始まり、最終的には「単純化」の視点で効率化や自動化を検討します。非常にシンプルな考え方で、製造プロセスの見直しからバックオフィスまで幅広い業務に対応できるのが特徴です。
QCD(キュー・シー・ディー)
QCDは次の三つの英単語の頭文字を取ったものです。
- Q(Quality):品質
- C(Cost):コスト
- D(Delivery):納期
製造業においては欠かすことのできない「品質・コスト・納期」という三つの視点で業務改善を行うためのフレームワークがQCDです。
品質・コスト・納期を一度に改善することは難しいため、それぞれのバランスと優先順位を決めて取り組みを行うことが大切です。まずは、Quality(品質)の改善から取り組みましょう。どれだけ安くて早く手元に届く商品であっても、品質に満足できなければ顧客満足度が向上することが困難だからです。
また、顧客満足度や利益の追求といった営業的な視点だけではなく、実際の製造現場にも目を向けることが大切です。
ロジックツリー
ロジックツリーとは、解決したい課題に対して「なぜ?」を繰り返していくことで、その原因を把握することを目的としたフレームワークです。
例えば、「Aという商品の売り上げの低下」という課題の解決策を探る場合、その理由として考えられるものを課題の下にツリー状にぶら下げていきます。
理由は幾つ挙げても構いませんが、「MECE」を意識すると効率がよくなります。MECEは、問題解決のためのフレームワークの一つで、「漏れなく、ダブりなく」という意味です。
また、理由を挙げたら、一つ一つの理由に対して「なぜ?」を繰り返します。その際に、上層から下層に行くにつれて、抽象的なものから具体的なものへと移っていくのが理想的です。
ロジックツリーを活用する際はまずツリーから作っていき、各要素の論理的な因果関係を確認することが大切です。
業務改善に役立つ四つのツール
業務改善の大幅な効率化につながるのがツールの導入です。しかし、世の中には業務改善に役立つツールが無数に存在し、その中から自社に最適なものを選び出すのは簡単ではありません。
ここでは、業務改善に役立つおすすめの四つのツールを紹介します。ツール選びに迷った時は、まずこの中から最も自社の業務改善に役立つと考えられるものを選択するとよいでしょう。
RPA(Robotic Process Automation)
RPAとは、ロボットによる業務の自動化を行うことができるツールです。繰り返し作業や定形作業の効率化に優れており、用途が限定されないことが特徴です。
関連システム
クラウドストレージ
最近では個人でも活用する機会が増えたクラウドストレージは、インターネット上でファイルを管理するソリューションで、業務改善に役立つツールの一つです。
離れた場所にいる仲間同士が同じフォルダーにアクセスし、共同で編集を行うことによって業務の効率化を図ります。テレワークなどの新しい働き方にも対応しています。
関連ソリューション
ビデオ会議・ウェブ会議ツール
オンライン上で会議を行うためのツールで、ソフトウェアだけでなく周辺機器も含まれます。出張コストの削減やペーパーレス化につながるほか、メモや画面録画といった機能を活用すれば、会議の「質」も同時に向上させることが可能です。
クラウドストレージと同様、テレワークなどの新しい働き方にはもはや欠かせないツールといえるでしょう。
関連システム
ペーパーレス化ツール
「ペーパーレス」はその名の通り業務から紙資料をなくすことを意味し、大きく分けて「ボーンデジタル」と「スキャニング」の二つの手法があります。
ボーンデジタルとは、最初から紙媒体を持たず、デジタルデータを使用することによるペーパーレス化です。パソコンソフトを活用した勤怠管理はボーンデジタルによるペーパーレス化の分かりやすい例です。
一方、スキャニングとは、紙媒体の資料を専用の機械やソフトウェアを利用してデジタル化する手法です。ペーパーレス化を実施することで、印刷代などの削減や業務効率化などにつながります 。
関連システム
業務改善は改善し続けることが何よりも大切
業務改善は、改善策を立案して実行するところがスタート地点です。常に検証を繰り返し、施策をブラッシュアップすることによって、目に見える成果が出るようになります。そのため、課題の棚卸しやタスクの優先順位付けといった、スタート地点に立つまでにやらなければならないことはなるべく早く終わらせることが大切です。
業務改善に役立つフレームワークを活用し、効率がよく、成果につながる方法を導き出しましょう。
関連記事