塩塚丁二郎(株式会社ETVOX)
早稲田大学卒業後、株式会社野村総合研究所でSEとしてキャリアをスタート。
2015年に独立し、IoTスタートアップ、音声アプリ開発を経て、PM支援・SI事業を軌道に乗せる。電子契約サービス「CloudContract」の実装、運用を手掛け、2020年からはプロジェクト会計・フォーキャストに特化した「LEEAD」を運営。
現在はDX・AI領域、カフェ店舗運営など、複数の事業を展開している。
製品、サービスに関するご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
2025年 4月25日公開
管理会計は、企業内部の意思決定や経営戦略をサポートするための会計手法で、予実管理と密接に結びつきます。財務会計との違いから主要な管理会計指標、そして経営層へのレポート術までを解説し、予実管理の成果を最大化するヒントを探ります。
目次
プロジェクト型ビジネスをはじめとした多くの企業が、日々の経営やプロジェクト運営を改善するために「予実管理(予算と実績との比較・分析)」を導入しています。しかし、予実管理だけでは「今、どれだけズレがあるか」や「どんな原因が考えられるか」を把握するに留まり、経営視点からの最終的な意思決定を下すための材料としては、やや不十分な場合もあります。
会計には大きく分けて「財務会計」と「管理会計」との二つがあります。
要するに、管理会計は社内向けの“舵取り”に特化した会計といえます。予実管理との相性が良いのも、経営者が必要とする分析視点や指標を柔軟に組み込めるからこそ。企業が本当に改善すべきポイントを見極め、戦略的な意思決定を下すうえで、管理会計は強い味方となります。
管理会計では、「原価をどのように捉え、どの費用を変動費と固定費に分類するか」が重要なテーマとなります。製造業であれば材料費や労務費、プロジェクト型ビジネスなら外注費や人件費など、どこまでを“原価”として算出するかは企業ごとに異なります。
予実管理でも、変動費はプロジェクトの規模や進捗(しんちょく)度合いに応じて増減しやすく、固定費は長期間にわたって企業全体の収支に影響する要素として扱われます。これらを正しく区分し、計画と実績の差異を分析することで、どの要因が収益性に大きな影響を及ぼしているかを把握しやすくなります。
管理会計では、製品別・部門別・プロジェクト別など、細分化した切り口で収益性を評価できることが大きなメリットです。例えばプロジェクト型ビジネスの場合、案件ごとに工数・原価を配賦し、売上との比較によって利益率を算出すれば、「どの案件がどれだけ儲かっているのか」「赤字の原因は何か」を明確にできます。
さらに、予実管理で得た「計画との差異情報」を重ね合わせれば、いつ・どのフェーズで差異が生じたのかまで掘り下げることが可能です。これは、差異分析(第4回参照)と密接に関連しており、問題発見と改善策立案を加速させます。
企業全体だけでなく、特定のプロジェクトや製品でも、損益分岐点を明確にするのは有効です。損益分岐点とは、「収益が費用を上回り、利益がゼロからプラスに転じる売上高(または稼働量)のライン」です。
利益率は、管理会計指標としては最もベーシックな存在です。プロジェクト単位で売上とコスト(原価・間接費)を洗い出し、「利益 ÷ 売上 × 100(%)」で算出します。
稼働率は、プロジェクト型ビジネスにおいて特に重要な指標の一つです。例えばエンジニアやコンサルタントの「有償作業に充てられる時間」と「全稼働時間(勤務時間)」との比率を表し、「稼働率が高いほど収益を生みやすい(=効率的に稼働している)」ということが分かります。
工数コストは、プロジェクト型ビジネスの“原価”ともいえる要素です。開発やコンサルティングでは、「作業時間(工数)× 人件費レート」という考え方でコストを算出するのが一般的です。
管理会計で得られたプロジェクト別・部門別の詳細な指標を、いかに分かりやすく経営層へ届けるかが鍵となります。ここで重要なのは、現場が追っているKPI(稼働率や工数コストなど)と、企業全体の経営目標(売上・利益率など)とをリンクさせることです。
定期的なレポーティング会議を設けることで、管理会計で算出された指標を経営判断に直結させやすくなります。例えば、月次や四半期ごとに下記ステップで進行する仕組みを作ると良いでしょう。
会議が形骸化しないよう、議事録やアクションリストを残しておくことも大切です。次回の会議で進捗や効果を検証し、継続的なPDCAサイクルを回すことで、管理会計と予実管理とのシナジーが高まります。
「実績」を見るだけでなく、「これからどうなるか」を予想しながら動くことが、経営判断のスピードと質を高めるカギです。特にプロジェクト型ビジネスでは、予算を組んだ時点の情報と、プロジェクトが進行する中で得られる新たな情報とにズレが生じるのが当たり前です。
予実管理の効果を最大限に高めるためには、「管理会計」と連携して経営視点の指標を補完することが不可欠です。財務会計が外部向けに企業の財政状態を示すのに対し、管理会計は内部の意思決定と改善活動を後押しするツールとして機能します。プロジェクト型ビジネスにおいては、以下のポイントを意識してみてください。
次回(第9回)は、「プロジェクト型ビジネスの予実管理~成功事例と失敗事例から学ぶ」をテーマに、実際の企業ケースを取り上げながら、予実管理や管理会計をどのように活用すれば業績を伸ばせるのか、あるいは失敗を回避できるのかを考察します。
具体的なエピソードから学ぶことで、自社への応用イメージをよりリアルに膨らませていただければ幸いです。どうぞお楽しみに。
著者紹介