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第4回 差異分析の基本と実践~プロジェクトの赤字を早期発見する方法
差異分析の基本概念や主な指標、実際に分析を進める際のフローを具体的に解説します。
目次
はじめに
前回(第3回)までで、「予算策定」と「実績データの把握・記録方法」を中心に解説してきました。予算と実績とを比較していくプロセスの中で、企業が最も注力すべきなのが“差異分析”です。差異分析は、単に「どのくらいズレているか」を見るだけでなく、「なぜズレが生じたのか」まで掘り下げることにこそ価値があります。
特にプロジェクト型ビジネスでは、事前に見積もった工数やコストが変動しやすいため、赤字プロジェクトの早期発見と対策が欠かせません。本記事では、差異分析の基本概念や主な指標、実際に分析を進める際のフローを具体的に解説します。あわせて、よくある失敗事例や差異分析を組織文化として根付かせるコツにも触れますので、ぜひ参考にしてください。
1.差異分析とは?
1-1.予算と実績との差を「なぜ生じたか」まで掘り下げることの意義
差異分析とは、「立てた予算(計画)と実績(結果)との間に生じたギャップを明確にし、その原因を徹底的に探る」ための手法です。単に数字のズレを把握するだけではなく、ズレが起きた背景まで深掘りすることが重要なポイントといえます。
ズレを把握するだけでは不十分
例えば、「売上が100万円不足している」「工数が1.5倍かかっている」といった事実だけ知っても、具体的な改善施策につなげるのは難しいでしょう。そこで「なぜそのズレが発生したのか」を探求することが鍵となります。
経営改善・プロジェクト改善に直結
差異分析を通じて原因や要因を特定し、適切な対策を打つことで、企業全体のコスト削減や売上増加、利益率の向上など、経営面で大きなメリットが得られます。特にプロジェクト型ビジネスにおいては、早めに赤字の兆候に気づけるかどうかが収益性を左右します。
2.差異分析で見るべき主な指標
差異分析を行う際に、注目しておきたい主な指標としては以下の三つが挙げられます。それぞれの指標について、どのような差異を見極めるべきかを理解しておきましょう。
2-1.売上高差異(価格差異、数量差異)
1.価格差異
- 予算段階で想定していた販売価格と、実際の販売価格との差。
- 受注時の値下げや、競合状況による値引きが生じていないかをチェックします。
- システム開発なら追加の仕様変更があったにもかかわらず、価格に反映できていないケースも該当します。
2.数量差異
- 予算で見込んでいた販売数量や契約数と、実際の数量との差。
- プロジェクト型の場合、追加要件やスポット契約の獲得数、契約更新率などが「数量」に該当する場合があります。
- 新規顧客獲得や継続率の実績が計画に達していないと、数量差異が大きくなる可能性が高いです。
2-2.原価差異(材料費、外注費、人件費など)
材料費差異
製造業や建築業など、物理的な材料が必要な業態では、仕入価格や調達コストが変動することで差異が発生します。
外注費差異
プロジェクトの一部をパートナー企業やフリーランスに委託している場合、契約内容の変更や追加発注により費用がかさむことがあります。
人件費差異
社員の残業や深夜稼働が増えたり、想定外に高額なスキルを持つ人材を投入したりすると人件費が膨らむ要因になります。また、プロジェクトメンバーが過剰に配置されている場合も差異の原因となりえます。
2-3.工数差異(想定工数 vs. 実際工数)
プロジェクト型ビジネスで特に重視されるのが「工数差異」です。
- 想定工数
- 予算段階やプロジェクト計画段階で見積もったタスク別・フェーズ別の作業時間
- 実際工数
- メンバーが記録した実際の作業時間
工数が増えるほど人件費や外注費が増し、納期にも影響が出ます。要件定義が不十分なまま進めると、開発途中で大幅な手戻りが発生し、想定工数を超過してしまうことが多々あります。工数差異を定期的にモニタリングし、早期に発見できれば、赤字の芽をつぶしたり納期遅延を防いだりすることが可能です。
3.差異分析の進め方・フロー
差異分析を効果的に行うためには、以下のようなプロセスを踏むとスムーズです。
3-1.差異データの抽出
まずは、予算(計画値)と実績値とを比較して差異を数値化します。先ほど紹介した売上高・原価・工数などの項目ごとに、どの程度のズレが生じているかを把握しましょう。
- 専用ツールや会計ソフト、Excelなどを活用し、定期的(例:週次や月次)にデータを更新します。
- プロジェクトごと、部門ごと、製品ごとなど、できるだけ細分化して差異を抽出することで原因を追究しやすくなります。
3-2.要因の仮説立て
差異が見られる項目について、「なぜズレが生じたのか」という仮説を複数挙げる作業を行います。
- 価格差異であれば、「競合他社の値下げに追随した」「顧客の予算カットにより値引きを余儀なくされた」など。
- 工数差異であれば、「追加要望が多かった」「テスト工程でバグ修正に時間をとられた」「新人メンバーの教育コストがかさんだ」など。仮説立てでは、現場担当者へのヒアリングや、過去のデータ照合、顧客とのやりとりの記録など、さまざまな情報源を活用します。
3-3.検証
挙げた仮説について、具体的なデータや事実で検証し、原因を絞り込みます。
- 例えば、「追加要望が多かった」と仮定する場合、実際に顧客から送られたリクエスト内容やチケット数を調べ、当初契約範囲との差分を明確にします。
- 「社員の残業が多い」は、勤怠データを確認し、どのプロジェクトでどの時期に工数が増えたのかを細かく分析します。
3-4.改善策の立案
仮説検証で導き出した「差異の真因」に対して、どのような改善施策が有効かを検討します。以下のような視点が参考になります。
- 要件定義や契約段階で範囲外の追加作業に対し、別料金設定や納期再調整のルールを作ります。
- 特定フェーズの工数が増えがちなプロジェクトは、スキルに合ったメンバーを配置し直します。
- 価格差異の原因が外部要因(為替変動や原材料価格高騰など)の場合、仕入れ先や調達方法の変更を検討します。
4.差異分析でよくある失敗事例
差異分析は、正しく行えば大きな成果をもたらしますが、進め方を誤ると逆効果になることもあります。以下のような失敗例は避けたいところです。
4-1.差異の原因が曖昧なまま放置してしまう
売上やコストにズレがある事実は認識していても、具体的に「なぜズレたのか」を詰め切れないまま分析を終えてしまうケースが多々あります。そうすると、次回以降の予算策定やプロジェクトマネジメントに生かせず、同じようなミスやコスト超過が再発します。差異分析の目的は「数字の把握」ではなく、「原因を突き止め、具体的な対策を打ち出す」ことだと念頭に置きましょう。
4-2.分析を行うタイミングが遅く、対策が後手に回る
「期末やプロジェクト終了後にまとめて差異を振り返る」やり方の場合、気付いた時には手遅れになっているケースも多いです。特にプロジェクト型ビジネスでは、進行中に赤字に陥ったとしても、気が付いたのが終了後の状況では、もう挽回はできません。できるだけ月次や週次といった短いスパンで差異分析を行い、問題が生じた時点ですぐに修正する仕組みが必要です。
5.差異分析を組織文化に根付かせるコツ
差異分析は一度だけ実施して終わりではありません。継続的にPDCAサイクルを回し、日常業務の中に溶け込ませることで、はじめて企業の強力な武器となります。
5-1.月次・週次での定例ミーティングの実施
タイムリーなレビュー
「どのプロジェクトが予算オーバーしているのか」「売上予算に対してどの程度達成しているのか」などを定例ミーティングで確認する習慣を作りましょう。早期発見と素早い意思決定を促すための仕組み作りが大切です。
共通フォーマットの活用
レビューに使う資料は、全チームで共通の指標やフォーマットを使うと分かりやすく、横断的な比較がしやすくなります。
5-2.指標を可視化し、全チームで共有する
ダッシュボードの活用
売上やコスト、工数といった重要指標(KPI)をリアルタイムで可視化できるツールやBIシステムを導入すれば、誰もが最新状況を把握しやすくなります。
組織全体で責任を共有
差異分析によって得られた情報は経営層だけでなく、現場レベルでも共有しましょう。部署やプロジェクトチーム間で相互の課題を認識できると、連携して早めに対策を講じやすくなります。
まとめ
本記事では、差異分析の基本と実践的な進め方、さらにはよくある失敗事例と組織文化への定着方法をご紹介しました。予算と実績のズレそのものを“悪”と捉えるのではなく、ズレが生じる原因を掘り下げ、その情報を基に改善策を打ち出すことこそが差異分析の神髄です。特にプロジェクト型ビジネスでは、工数差異や原価差異が利益率に直結しやすいだけに、適切なタイミングでの分析と対策が大きなインパクトをもたらします。
- 差異分析は「なぜズレたのか」を追究することが重要
- 売上差異、原価差異、工数差異を軸に仮説→検証を繰り返す
- 失敗事例を防ぐためには、曖昧な分析や遅すぎるタイミングを避ける
- 定例ミーティングやダッシュボードなどで組織全体に根付かせる
次回予告
次回(第5回)は、「プロジェクト型ビジネスの収支管理」をさらに深掘りします。案件別や部門別に収支を見るメリットや、具体的な管理手法について解説し、管理会計の視点からKPIを設定する際のポイントなどを取り上げます。プロジェクト型の組織やビジネスモデルならではの特徴にフォーカスしつつ、より実践的なノウハウを共有していきますので、ぜひ引き続きご覧ください。
著者紹介