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第7回 Excelだけで本当に大丈夫? Excelとクラウドアプリとのハイブリッド活用術
Excelによる管理の利点と限界を整理するとともに、クラウドアプリ(SaaS)を併用した「ハイブリッド運用」のアイデアをご紹介します。
目次
はじめに
予実管理を実践するにあたって、多くの企業がまず思い浮かべるのは「Excel(エクセル)を使った管理方法」でしょう。これまでの連載でも触れてきたとおり、Excelは操作に慣れている人が多く、導入コストも低いため、企業規模や業種にかかわらずビジネス現場で広く利用されています。しかし一方で、プロジェクト型ビジネスの複雑化やスピード感が増す現代において、「Excelだけでは対応しきれない」という声があるのも事実です。
そこで本記事では、Excelによる管理の利点と限界を整理するとともに、クラウドアプリ(SaaS)を併用した「ハイブリッド運用」のアイデアをご紹介します。Excelをいきなり捨て去るのではなく、必要なところでクラウドの強みを取り入れることで、予実管理をより効率的かつ正確に行う方法を探っていきましょう。
1.Excelがビジネス現場で根強い理由
1-1.操作に慣れている
Excelは、Windowsパソコンとともにビジネスの世界に浸透してきた歴史が長く、多くのビジネスパーソンが使い方を熟知しているツールです。関数やピボットテーブルなどの機能を駆使すれば、売上データの集計や簡易的な分析をスピーディーに行えるため、特別な教育や研修を必要としないケースが多い点は大きな魅力といえます。
1-2.柔軟性が高い
Excelのもう一つの大きな利点が「汎用性」です。フォーマットや関数を自分好みにアレンジしやすく、急なデータ項目の追加や計算方法の変更にも対応しやすい特徴があります。必要に応じてシートを複製したり、新たな数式を組み込んだりできるため、カスタマイズの自由度が非常に高いツールです。
1-3.導入コストが低い
基本的にOfficeライセンス(あるいはOffice 365 / Microsoft 365のサブスクリプション)さえあれば、Excelはすでに利用可能な場合がほとんどです。わざわざ新しいシステムを導入する手間や初期費用を考えなくて済むため、「とりあえずExcelで始める」という選択は、特に小規模事業者やスタートアップ企業にとっては合理的な判断といえます。
2.Excelの限界・リスク
2-1.更新漏れやヒューマンエラー
Excelでの管理が抱える最大の問題は、手動入力に伴うヒューマンエラーです。案件ごと、部門ごとに複数のシートを使い分けていると、データの更新漏れや入力ミスが起こりやすくなります。例えば、プロジェクトコードを間違えてしまう、関数を削除してしまう、数式を上書きしてしまうなど、ちょっとした不注意で重要なデータが崩れてしまうリスクがあります。
2-2.ファイルのバージョン管理問題
Excelファイルをメールやファイルサーバーでやり取りしているうちに、どれが最新のバージョンか分からなくなるという経験を持つ方は多いでしょう。複数の担当者が同時に編集してしまうと、同じシート内で内容が競合したり、一方の更新がもう片方に反映されないまま作業が進んでしまったりするケースもあります。
2-3.プロジェクト規模拡大で手に負えなくなるケース
小規模の案件数であればExcel管理でもなんとか対応できますが、案件が増え、チームメンバーも増えると、ファイル管理が一気に煩雑化します。月に数件程度のプロジェクトを扱うのと、何十・何百ものプロジェクトを同時進行するのとでは、必要とされる集計・分析のスピードや正確性も大きく変わってきます。Excelだけでは限界があると感じる組織が増えるのも、このタイミングです。
3.クラウドアプリ(SaaS)の強みを活かすには
3-1.自動集計・リアルタイム性
クラウド型のプロジェクト管理ツールやBIツール、あるいはクラウド会計ソフトの大きな強みは、リアルタイムでデータが集計・共有される点にあります。手動で集計せずとも、各メンバーが入力した内容が即座に反映されるため、最新の数字を常に把握することが可能です。
また、プロジェクト別・部門別といった視点で集計・レポートを自動生成してくれる機能があるものも多く、Excelによる手動の集計作業を大幅に削減できます。
3-2.データの一元管理
クラウドアプリを導入すると、ファイルをメールで回したり、複数のシートを行き来したりする必要がなくなるのがメリットです。アクセス権限さえ設定しておけば、メンバー全員が同じ環境で同じデータを確認できるため、バージョン管理問題や情報の重複・漏れが格段に起きにくくなります。
さらに、ログイン情報や利用権限を整理することで、内部統制やセキュリティの面でもExcelファイル管理より強固な仕組みを築ける場合が多いです。
4.Excelとアプリとのハイブリッド運用例
4-1.データ入力や管理はアプリで、必要に応じてExcelへエクスポート
「今まではずっとExcelで管理してきたので、いきなり全てをクラウドアプリに移行するのは不安」という企業は、ハイブリッド運用を検討してみてはいかがでしょうか。
- 日々のデータ入力や承認フロー、レポート作成はクラウドアプリに集約して、自動化・リアルタイム性を担保する。
- 必要に応じて、過去のデータや特定の部分だけExcelへエクスポートし、細かい分析やカスタマイズしたレイアウトで社内プレゼンや報告書を作成する。
こうすることで、クラウドアプリの恩恵を受けながら、慣れ親しんだExcelによる柔軟な分析・加工も継続できます。従業員やマネージャーにとっても移行の心理的ハードルが下がり、スムーズに運用を始めやすいはずです。
4-2.プロジェクト別テンプレートをクラウドアプリ側で作成
多くのクラウドアプリでは、プロジェクトやタスクの雛形(テンプレート)を作成できる機能があります。例えば、「システム開発プロジェクトの標準的な工程」をテンプレート化しておき、それを新しい案件が立ち上がるたびに複製するといった使い方です。
- Excelで使っていた「プロジェクト管理シート」をクラウドアプリに置き換えるイメージで、テンプレートにタスク名や期日、担当者などを事前に設定しておく。
- 新規プロジェクト開始時にテンプレートを適用することで、タスクや期間の設定ミスを減らし、立ち上げから進捗(しんちょく)把握までの時間を短縮できる。
こうした取り組みを少しずつ積み重ねていくと、社内に「Excelの延長感覚でクラウドアプリを使う」文化が定着しやすくなります。
5.導入時のステップと注意点
5-1.小規模プロジェクトから段階的に移行
クラウドアプリを導入する場合、まずは小規模プロジェクトや特定の部門から試験的に導入してみるのがおすすめです。いきなり全社的に移行を進めると、ツールに不慣れなメンバーから反発が起きたり、最初の設定ミスが大きな混乱を招いたりする恐れがあります。
小さい単位から始めて、実際にどのようなメリット・デメリットがあるのかを把握し、運用ルールを微調整しながら少しずつ範囲を広げる方法が、失敗リスクを最小化するうえで効果的です。
5-2.社内教育と抵抗勢力へのケア
特に年齢層やITリテラシーが多様な組織では、新しいツールに抵抗を感じるメンバーも少なくありません。「Excelで十分なのになぜわざわざクラウドアプリを使うのか」と疑問を抱く人もいるでしょう。
こうした抵抗を和らげるには、「どんなメリットがあるのか」「現行の問題をどう解決できるのか」を具体的に示すことが大切です。社内研修や勉強会を開催し、実際に触ってみる機会を設けるほか、導入担当者がサポート窓口を務めて問い合わせに対応するなど、丁寧なアプローチが求められます。
まとめ
Excelは、ビジネス現場で培われてきた豊富なノウハウがあり、低コストかつ自由度が高いという面で依然として優秀なツールです。一方で、更新漏れやバージョン管理、プロジェクト数の増加による管理負荷など、規模拡大に伴う限界もはっきりしてきています。
そこで、クラウドアプリ(SaaS)の強みであるリアルタイム性・自動集計・データ一元管理を取り入れつつ、Excelでの柔軟な分析や加工も必要に応じて行う「ハイブリッド運用」が一つの解決策となるでしょう。
- Excelの利点
- 操作に慣れている、自由度が高い、初期コストが低い
- Excelの限界
- ヒューマンエラーや更新漏れ、バージョン管理、規模拡大時の負荷増
- クラウドアプリの強み
- 自動集計・リアルタイム性・権限管理・一元化
- ハイブリッド運用
- データ収集・基本レポートはクラウドで、特別な分析やレイアウトはExcelで行う
- 導入ステップ
- 小規模プロジェクトでの試行 → 運用ルールの確立 → 社内教育とケア
次回予告
次回(第8回)は、「管理会計で成果を最大化~予実管理から見る経営指標の捉え方」をテーマに、予実管理と管理会計との関係性をさらに深堀りします。
単に数字を追うだけでなく、経営判断に直結する指標をどのように設定し、活用していくかを具体例とともに解説していきます。実際のプロジェクトの差異分析から得られる知見が、どのように経営レベルの意思決定に役立つのかをぜひお楽しみに。
著者紹介