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第9回 プロジェクト型ビジネスの予実管理:成功事例と失敗事例から学ぶ
予実管理を導入することで、赤字の芽を早期に発見したり、収益性の高い案件にリソースを集中したりといった経営判断がしやすくなります。予実管理をどのように現場や経営に生かせば成果につながるのか、あるいはどんな落とし穴があるのかを掘り下げます。
目次
はじめに
プロジェクトごとに売上や費用が大きく変動する「プロジェクト型ビジネス」では、予算と実績を適切に管理し、差異が出たときに素早く対処できる体制が重要です。これまでの連載で解説してきたように、予実管理を導入することで、赤字の芽を早期に発見したり、収益性の高い案件にリソースを集中したりといった経営判断がしやすくなります。しかし、実際には予実管理を導入してもうまく活用できずに失敗してしまうケースも少なくありません。
本記事では、具体的な成功事例と失敗事例を通じて、予実管理をどのように現場や経営に生かせば成果につながるのか、あるいはどんな落とし穴があるのかを掘り下げます。自社プロジェクトへの応用イメージを高めるために、ぜひ参考にしてみてください。
1.成功事例:システム開発会社のケース
1-1.予算段階からリソース管理を徹底 → 差異分析をこまめに実施 → 黒字率改善
あるシステム開発会社A社は、受託案件と保守・運用案件との両方を抱えていました。以前は「Excelで工数とコストを管理しているが、更新漏れや属人的な集計が多い」状態で、気付けば赤字になっているプロジェクトも散見されました。そこでA社は、予算段階からリソース管理を徹底する体制に切り替えました。
1.明確な予算策定
- 過去の開発実績を基にエンジニアのスキルと工数を細かく見積り、プロジェクトごとに適切な予算を設定
- 要件定義フェーズでクライアントとすり合わせを入念に行い、追加要件が出た場合はその都度見積りに反映
2.差異分析の“こまめな”実施
- 週次ベースで工数とコストをチェックし、当初の予算とどれくらい乖離(かいり)しているかをモニタリング
- ズレが大きくなりそうな場合はすぐに対応策を検討し、クライアントとの契約範囲や納期を見直す
これによって、プロジェクトごとの黒字率が全体的に向上。特に大規模案件では事前にリソースを正確に把握することで、開発途中で赤字に転落するリスクを大幅に減らすことに成功しました。
1-2.ツール活用でPDCAを短周期化
加えてA社は、当社(株式会社ETVOX)が運営する収支管理に特化したクラウドサービス「LEEAD(リード)」を導入し、収支管理業務を容易にしてリアルタイムに集計。プロジェクトマネージャーが毎週レポートを確認し、差異分析の結果を経営陣と共有する仕組みを作りました。これによりPDCAが短いスパンで回り、問題発見から対策立案までの時間を大幅に短縮できたといいます。
2.成功事例:コンサルティング会社のケース
2-1.コンサルティング報酬や稼働工数の正確な把握 → 継続案件の受注時に高精度見積りが可能
コンサルティング会社B社では、複数のコンサルタントが並行して数多くの案件を抱えていました。以前は、Excelファイルにそれぞれの工数を手動で記録していたため、「どの案件に、どれだけの作業時間を費やしたか」が正確に把握しづらく、プロジェクトごとの利益率もあいまいでした。そこでB社は、稼働工数とコンサルティング報酬とをひも付けて管理する仕組みを導入します。
1.全コンサルタントが工数をリアルタイム入力
- 時給レートを定義し、レポート作成やクライアント対応など、業務内容ごとに入力ルールを統一
- 工数×時給レートで内部的な原価を算出し、案件ごとのコストを明確化
2.継続案件の受注における高精度見積り
- 過去の実績データを基に類似案件の作業内容や、工数を参照しながら見積りを提示
- 過去に追加対応が多かった顧客は、契約範囲を厳密化するか、追加料金を設定することで利益を確保
結果として、同じ顧客の継続案件を受注する際に高精度の見積りが提示できるようになり、赤字リスクが大幅に減少。さらに工数配分が適正化したことで各コンサルタントの稼働率も平均化し、新人からベテランまでが効率よく案件にアサインされる好循環が生まれました。
3.失敗事例:予算策定の甘さが招いた赤字プロジェクト
3-1.見積りが甘く、後半で追加要件に対応しきれなかった
一方、ある制作会社C社のケースでは、見積り時点の甘さが原因で大きな赤字を出してしまいました。クライアントの要望を深くヒアリングせずに「取りあえず案件を獲得しよう」と短期的な利益だけを狙った結果、後半になって追加要件が次々と発生し、コストが膨れあがる事態に陥ったのです。
- 当初は「納期1カ月、合計工数200時間」で予算を組んでいたが、実際には仕様変更が相次ぎ、最終的に工数400時間超えまで膨張
- 当初想定していた利益率が大幅に下振れし、プロジェクトとしてはトータルで赤字となってしまった
3-2.Excel管理の属人化が原因
さらにC社では、Excelによる管理が特定のリーダーに依存しており、進捗(しんちょく)状況やコストの変化を他のメンバーが把握しづらい構造になっていました。気付いたころには手遅れで、追加要件に対応しなければ契約をクライアントに解除されかねない状況。
C社は後で振り返りを行い、「もう少し早く差異に気付き、クライアントと契約内容を見直すべきだった」と後悔するも時すでに遅し。プロジェクト全体の赤字を補塡(ほてん)するために、別の黒字案件で稼いだ分を回さざるを得なくなってしまったのです。
4.失敗事例:差異分析のタイミングを逃したケース
4-1.月次報告が形骸化していた → 大きな赤字要因を見落とし対応が遅れる
もう一つの失敗事例として、ある人材派遣会社D社を挙げられます。D社では毎月、「各部門が予算と実績の数値を報告する」定例会が行われていましたが、これが形だけのやり取りになってしまっていたのです。
- 部門長は取りあえずExcelの数字を貼り付けて提出するだけで、差異について深く問いただす文化がなかった
- 明らかに計画より売上が下振れしている部門があったが、会議でまともに議論されることはなく、他の議題に時間を割いて終了
結果として、数カ月の間に大きな赤字が積み上がり、期末になってから慌てて経営層が対策に乗り出す事態となりました。しかし、既に採用費や教育コストが膨らんだ後で、短期的に改善できる手段は限られており、最終的に部門の人員削減など痛みを伴う決断を余儀なくされたのです。
5.成功と失敗とを分けるポイント
5-1.リアルタイム情報の共有、マネジメント層のコミットメント
成功事例では、ツール活用によってリアルタイムな情報共有が可能になり、現場レベルだけでなく経営層も含めて「今、どの案件が利益率を押し上げているか」「どの案件が赤字リスクを抱えているか」を即座に把握しています。これに対し、失敗事例では情報更新が遅れたり、特定の担当者に集計が依存したりして、適切なタイミングで対策を打てない状況が目立ちました。
また、マネジメント層が予実管理に真剣にコミットしない限り、現場が運用ルールを守り続けるモチベーションは保ちにくいものです。経営トップが率先して結果を確認し、フィードバックを与える姿勢が、成功の大きな要素となります。
5-2.管理ツールの活用と社内教育
Excelだけで優れた結果を出す企業もある一方、多くの場合はクラウドアプリやプロジェクト収支管理ツールを使った方が、作業効率や分析の正確性が高まります。成功事例では、「LEEAD」などのツールを活用し、短いスパンでPDCAを回す実践が見られました。しかし、ツールを導入するだけでは不十分で、現場メンバーの意識改革や社内教育、運用ルールの徹底も必要です。
5-3.プロジェクトの特性と収支管理におけるモチベーション
案件の規模や性質によって、予実管理の難易度は変わります。余裕のあるプロジェクト(スケジュールや予算に余裕がある案件)では、多少の追加要件が入っても黒字を維持できるかもしれません。一方、もともとギリギリの見積りやタイトな納期で進めている案件は、少しの差異が命取りになることも。
成功事例の企業では、こうしたリスキーな案件こそ念入りにモニタリングし、プロジェクトメンバーのモチベーションを維持する工夫をしています。逆に失敗事例では、苦しい案件にあえて経験の浅いメンバーが集中してしまい、さらに赤字を拡大させるような悪循環に陥るケースが多く見受けられます。
まとめ
本記事では、プロジェクト型ビジネスにおける予実管理の成功事例・失敗事例を取り上げ、それぞれに学べるポイントを整理しました。
成功事例の共通点
- 予算策定時点でリソースを綿密に把握し、顧客との契約範囲や要件定義を明確化
- こまめな差異分析とPDCAサイクルの短期化により、赤字リスクを最小限に
- クラウドツールの活用や社内教育を徹底し、経営層も含めた情報共有と意思決定をスピードアップ
失敗事例の共通点
- 見積りが甘く、追加要件や仕様変更に対応しきれない
- Excel管理の属人化や形骸化した報告会議などにより、差異を見逃して手遅れに
- 経営トップが予実管理にコミットせず、改善策も現場任せで組織全体の動きが鈍い
最終的には、自社の文化やプロジェクトの特性に合った管理手法を見つけ、継続的に改善を続けることが重要です。
次回予告
次回(第10回)は、「LEEAD」を活用した具体的な予実管理の流れを紹介します。
これまでの連載で学んだ予実管理の基礎から管理会計、実例までを総合的に応用し、プロジェクト型ビジネスの収支改善を実現するためのロードマップをご提案します。どうぞお楽しみに。
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