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第6回 予実管理を回すPDCAサイクルのポイント~改善を継続する仕組み
予実管理とPDCAサイクルとがどのように結びついているのか、そして現場での運用・改善を継続するためのポイントを具体的に探っていきます。
目次
はじめに
企業が成長するためには、日々の業務の中でいかに「改善」を継続できるかが重要です。特に予実管理(予算と実績の比較・分析)を通じて経営資源の最適化を図る場合、単に数字を追うだけでなく、組織全体でPDCAサイクルを回し続ける仕組みが求められます。
前回(第5回)では、プロジェクト型ビジネスにおける案件別・部門別の収支管理を解説しましたが、それらを実践し続けるうえでもPDCAの考え方は欠かせません。本記事では、予実管理とPDCAサイクルとがどのように結びついているのか、そして現場での運用・改善を継続するためのポイントを具体的に探っていきます。
1.PDCAサイクルと予実管理との関係
1-1.Plan(予算策定)→ Do(実行)→ Check(実績・差異分析)→ Act(改善策の実施)
PDCAサイクルとは、業務改善を継続的に進めるための代表的なフレームワークです。これを予実管理の流れと照らし合わせると、以下のように対応づけることができます。
1.Plan(予算策定)
- まずは経営目標やプロジェクト目標を設定し、それを達成するための必要コストや工数、売上目標などを数値化します
- ここで立てた計画(予算)が、後のDo・Check・Actフェーズの基準値となります
2.Do(実行)
- 予算で定めた目標や計画を実際のプロジェクトや業務で進める段階です
- チーム内で役割を分担し、リソースを適切に配分しながらプロジェクトを推進します
3.Check(実績・差異分析)
- 予算と実績とを比較し、差異が生じた原因を分析します
- 売上高差異や原価差異、工数差異などを軸に数値を可視化し、「なぜ計画から外れたのか」を掘り下げることが重要です
4.Act(改善策の実施)
- 差異の原因が判明したら、改善策や修正策を具体的に立案し、組織・プロジェクトに反映します
- 次のPlan(予算再策定)に活かすことで、より精度の高い計画と運用が可能になります
このように、予実管理はPDCAサイクルそのものといっても過言ではありません。予算立案と実績管理とを繰り返しながら、組織力の向上や収益性の改善するのが狙いです。
2.プロジェクト別PDCAの具体例
2-1.開発プロジェクトでのPDCA事例
システム開発プロジェクトを例に考えてみましょう。
1.Plan(予算策定)
- 見積り工数、外注費、ツール費用、売上目標(受注金額)などを設定
- プロジェクト開始時に「開発期間は3カ月、工数は合計500時間を想定」など具体的な数字を決める
2.Do(実行)
- 要件定義・設計・開発・テストを進め、途中で仕様変更があれば都度対応
- チーム内でスプリントやマイルストーンを設けて進捗(しんちょく)を管理
3.Check(実績・差異分析)
- 定期的に(週次・月次)工数や費用、進捗率を確認し、予算との比較を実施
- 例えば「テスト工程でバグ対応が増え、人件費が20%オーバーしている」などを早期に把握
4.Act(改善策の実施)
- 仕様変更が頻繁に生じるのであれば、顧客と打ち合わせの場を増やし、契約範囲を再調整するなどの対策を講じる
- 工数オーバーの原因となったバグ発生率を下げるため、コードレビュー体制やテスト工程の進め方を再検討する
2-2.コンサルティングプロジェクトでのPDCA事例
コンサルティング案件でもPDCAの考え方は同様です。
1.Plan(予算策定)
- 顧客への提案内容、必要な調査やヒアリングの工数、見積報酬などを計画段階で設定
- 目標利益率もあわせて決めておく
2.Do(実行)
- 顧客企業の現場調査やインタビュー、分析業務などを行い、報告書・改善提案書を作成
- 定期的に顧客とミーティングしながら進める
3.Check(実績・差異分析)
- 実際に要した工数やメンバー配置、交通費などの経費を集計し、予算との差を確認
- 「当初想定より複数拠点を訪問する必要が出て、出張費が増えた」などの原因を把握
4.Act(改善策の実施)
- 出張回数を減らすためオンライン会議を活用する、拠点訪問をまとめて実施するなど、工夫できる点を洗い出す
- 顧客への追加料金交渉やスケジュール延長も含め、プロジェクト再調整を行う場合もある
開発・コンサルティングともに、こうしたPDCAサイクルを短いスパンで回すのが理想です。プロジェクト終了後にまとめて振り返るのではなく、途中段階で差異に気付き、対策を打てるようにすることで、赤字リスクを最小限に抑えられます。
3.PDCAが回らない原因と対処法
3-1.現場への定着度不足
PDCAサイクルの概念を経営層や管理職が理解していても、現場レベルで実践されなければ意味がありません。例えば、Check(実績・差異分析)を実施しても、現場のチームが結果を共有せず、改善策がどこにも反映されないまま放置されるケースがあります。
対処法
- 分析結果や改善策を共有する“定例ミーティング”を設定する
- 現場メンバー自身が「自分の作業が組織成果にどう影響するか」を意識できるよう、KPIや目標設定の段階から参加してもらう
- 成果が出たら積極的に称賛し、成功体験を増やすことでモチベーションを高める
3-2.リアルタイムのデータがない
Check(実績・差異分析)を適切なタイミングで行うためには、最新の実績データを迅速に集められる仕組みが必要です。Excelでの手動集計や煩雑な報告フローしかない場合、集計作業に時間がかかり、気付いた時には既に手遅れという状況に陥りがちです。
対処法
- 以前(第3回)などでも紹介した、クラウドアプリやプロジェクト管理ツールを導入し、リアルタイムに工数や費用を可視化する
- 週次もしくは日次(にちじ)で必要なデータが自動取り込みされるような仕組みを整える
3-3.改善策を組織が受け入れない風土
Act(改善策の実施)で「このように変えた方が良い」と分かっていても、組織全体の文化や方針と合わないために実行できないケースも見られます。トップダウンで意思決定が行われていて、現場の声が届きにくい企業文化もあれば、逆に現場主体で改革を進めようとしてもトップの理解が得られない場合もあります。
対処法
- 改善策が経営レベルの戦略やビジョンとどのように結びついているかを明確化する
- 小さな実験的プロジェクト(PoC)などで改善施策を試し、成功事例を積み上げて組織に説得力を示す
- 上層部だけでなくミドルマネジメントやキーマンを巻き込み、全方位的に合意を取り付ける
4.ツールを活用したPDCA効率化
4-1.実績データの自動収集 → 分析レポートの自動化
PDCAを効果的に回すためには、できるだけCheck(実績・差異分析)とAct(改善)のスピードを上げることが重要です。そのためには、実績データの収集や分析レポート作成を自動化してしまうのが一番です。
クラウド会計ソフトやプロジェクト管理ツール
- 作業工数や経費を入力すると、リアルタイムでプロジェクト別の損益レポートが生成される
- KPIや目標値を設定しておけば、達成率や差異をグラフ化して即座に可視化する
BIツール(Business Intelligence)の活用
- データウェアハウスなどに蓄積した売上・コスト・工数データを自動集計し、ダッシュボードで全員が共有できる
- 数値の変化や傾向を即座につかめるので、改善策の立案がスムーズ
4-2.タスク管理やコラボレーション機能での継続的PDCA
プロジェクト管理ツールやタスク管理ツール(例:Trello、Asana、Jiraなど)には、コメント機能やファイル共有機能が備わっているものが多く、チームでリアルタイムにコミュニケーションを取りながらタスクを進められます。
メリット
- Checkの結果をすぐにActに反映できる
- 課題が発生したらその場でタスク化して担当者をアサインし、解決策の進捗も可視化できる
- ミーティングなしでも、オンライン上でチームメンバー全員が進行状況を確認可能
PDCAをスムーズに回すためには、ツールを導入するだけでなく、情報共有のルールや運用フローを整備することも重要です。「どの指標に注目し、どのタイミングで誰がチェックするか」などをチーム全体で合意しておくと、さらに効率よく回せます。
まとめ
PDCAサイクルと予実管理は切り離せない関係にあり、企業が継続的に成長するうえで欠かせない手法となります。
- PDCAと予実管理との共通点
- 予算策定(Plan)、実行(Do)、実績・差異分析(Check)、改善策実施(Act)という一連の流れで現場を継続的に改善する
- プロジェクト別PDCAの具体例
- 開発やコンサルティングの現場で、工程ごと・フェーズごとに差異分析を行い、迅速に軌道修正を図る
- PDCAが回らない原因と対処法
- 現場定着度の低さやリアルタイムデータ不足、組織文化の課題などが大きな障壁になり得る。対処法として、定例ミーティングや上層部・現場の巻き込み、ツール導入によるデータ自動化が有効
- ツールを活用した効率化
- 実績データの自動収集・分析レポートの自動化、タスク管理ツールの活用により、PDCAサイクルのスピードを高められる
次回予告
次回(第7回)は、「Excelだけで本当に大丈夫? Excelとクラウドアプリとのハイブリッド活用術」と題して、Excel管理の限界やクラウドアプリを導入するメリット・デメリット、そして両者を併用する方法について詳しく解説します。
予実管理においてExcelは依然として多くの企業で愛用されていますが、大規模化・複雑化したプロジェクトを扱う現代ビジネスでは、そのままでは不十分になるケースも多いのが現実です。次回はExcelに感じる不便さを解消しながら、ステップアップしていく術を具体的にお伝えします。どうぞお楽しみに。
著者紹介