塩塚丁二郎(株式会社ETVOX)
早稲田大学卒業後、株式会社野村総合研究所でSEとしてキャリアをスタート。
2015年に独立し、IoTスタートアップ、音声アプリ開発を経て、PM支援・SI事業を軌道に乗せる。電子契約サービス「CloudContract」の実装、運用を手掛け、2020年からはプロジェクト会計・フォーキャストに特化した「LEEAD」を運営。
現在はDX・AI領域、カフェ店舗運営など、複数の事業を展開している。
製品、サービスに関するご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
2025年 3月25日公開
「プロジェクト型ビジネス独特の収支構造」を整理したうえで、案件別・部門別に管理を行うメリットや具体的な手法、さらには管理会計の視点からKPIを設定する際のポイントなどを解説します。
目次
近年、IT開発やコンサルティング、デザイン制作など、「プロジェクト型」で仕事を進める企業が増えています。これらのビジネスモデルでは、案件(プロジェクト)ごとに工数やコストが大きく変動し、収益の状況もプロジェクト単位で大きく異なるのが特徴です。こうした「プロジェクト型ビジネス」では、企業全体をまとめた財務諸表の数字だけを見ても、どこで利益が出ているのか、逆に赤字リスクが潜んでいるのかを正確に把握しづらい場合があります。
そこで必要となるのが「案件別」や「部門別」の収支管理です。本記事では、「プロジェクト型ビジネス独特の収支構造」を整理したうえで、案件別・部門別に管理を行うメリットや具体的な手法、さらには管理会計の視点からKPIを設定する際のポイントなどを解説します。前回(第4回)でご紹介した差異分析とも深く関わる内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
プロジェクト型ビジネスでは、例えば、受注~要件定義~設計・開発~テスト~納品といった一連のフェーズを経て、サービスやプロダクトを完成させます。
このようにプロジェクト期間全体を通じてさまざまなコストがかかるため、「どのフェーズでどの程度のコストが発生するのか」を「見える化」することが重要になります。案件によっては工程の進み方が前後したり、規模が突然拡大したりしますので、想定外のコストが増えやすい点も特徴です。
プロジェクト型ビジネスで押さえておきたいコスト項目は、大きく以下のように分類できます。
プロジェクト型ビジネスでは、案件ごとに収支を管理することが収益性アップの第一歩です。企業全体の損益計算書だけで見ると、好調なプロジェクトと赤字のプロジェクトとが混在しているにもかかわらず、総合的には黒字に見えている場合があります。
案件ごとの収支を細かく見られるようにすれば、「どのプロジェクトが利益率を押し上げ、どこが足を引っ張っているのか」を即座に把握できます。問題のあるプロジェクトを早期に発見し、追加リソースを投入したり、クライアントと契約範囲を再交渉したりと、適切な対策を打ちやすくなるのです。
また、案件別だけでなく部門別に予実管理を行うことで、組織構造全体の効率性を測る材料も得られます。例えば、営業部門が想定より多くの案件を獲得している一方で、開発部門が工数オーバーでパンク状態になっているようなケースでは、採用や外注活用を増やす必要があるかもしれません。
部門ごとにどれだけコストを消費し、どれだけ収益を生み出しているかをリアルタイムで把握すれば、経営者や管理者は適材適所でリソースを再配分しやすくなります。
最もシンプルな方法は、案件ごとにExcelシートを作成し、売上・コスト・工数などを手入力で管理するやり方です。
定期的にシートを更新し、差異分析を行う仕組みがあればある程度は回せますが、規模が大きくなるほど属人的なやり方では限界がくるため、早めにシステム化を検討する企業が増えています。
昨今は、プロジェクト型ビジネス向けに特化したSaaS(クラウドサービス)が多数登場しています。
プロジェクトの規模が拡大し、Excel管理ではカバーしきれなくなったタイミングで、これらのツールを導入する企業は多いです。ツールによっては、案件別・部門別の損益管理レポートを自動生成してくれるなど、管理業務の手間を大幅に削減できる機能を持っています。
案件別・部門別の収支管理を行うためには、何を基準に「成功」や「問題あり」と判断するかというKPI(重要業績評価指標)が必須です。以下はプロジェクト型ビジネスでよく使われるKPIの例です。
KPIを設定したら、次に大切なのは差異を検知した際の対処フローです。
プロジェクトが想定以上に膨らんだ場合、追加費用を顧客に請求したり、納期や要件を見直したりする選択肢を検討します。
工数不足でプロジェクトが遅延している場合は、他のチームや外部リソースを短期的に活用する案も考えられます。
外注費が高止まりしている場合は、他のベンダーへ切り替えたり、内製化を進めたりすることで改善を図れます。
差異分析で得た情報に基づいて、迅速に意思決定とアクションを取れる体制を作っておくことが、赤字プロジェクトを最小化し、利益率を高めるうえで非常に重要です。
本記事では、プロジェクト型ビジネスの収支管理をテーマに、案件別・部門別で見ることのメリットや具体的な管理手法を解説してきました。
今後、プロジェクト規模が大きくなり、案件数が増えるほど、Excelだけではカバーしきれなくなる可能性が高いため、管理手法やツールの選定を早めに検討するのがおすすめです。案件別・部門別の収支管理を行い、数値に基づいた改善と意思決定を積み重ねることで、プロジェクト型ビジネスの収益力は格段に高まっていきます。
次回(第6回)では、こうした予実管理を「継続的な改善サイクル」に乗せるためのPDCAサイクルのポイントを掘り下げます。特に現場レベルでの運用をどのように浸透させるか、リアルタイムデータの活用や組織文化との結びつけ方など、実務的なコツを具体的にご紹介します。ぜひ引き続きお読みいただき、貴社のプロジェクト運営に役立ててください。
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