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第5回 プロジェクト型ビジネスの収支管理~案件別・部門別にどう見る?
「プロジェクト型ビジネス独特の収支構造」を整理したうえで、案件別・部門別に管理を行うメリットや具体的な手法、さらには管理会計の視点からKPIを設定する際のポイントなどを解説します。
目次
はじめに
近年、IT開発やコンサルティング、デザイン制作など、「プロジェクト型」で仕事を進める企業が増えています。これらのビジネスモデルでは、案件(プロジェクト)ごとに工数やコストが大きく変動し、収益の状況もプロジェクト単位で大きく異なるのが特徴です。こうした「プロジェクト型ビジネス」では、企業全体をまとめた財務諸表の数字だけを見ても、どこで利益が出ているのか、逆に赤字リスクが潜んでいるのかを正確に把握しづらい場合があります。
そこで必要となるのが「案件別」や「部門別」の収支管理です。本記事では、「プロジェクト型ビジネス独特の収支構造」を整理したうえで、案件別・部門別に管理を行うメリットや具体的な手法、さらには管理会計の視点からKPIを設定する際のポイントなどを解説します。前回(第4回)でご紹介した差異分析とも深く関わる内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
1.プロジェクト型ビジネスの収支構造
1-1.受注~納品までのフェーズとコスト発生のタイミング
プロジェクト型ビジネスでは、例えば、受注~要件定義~設計・開発~テスト~納品といった一連のフェーズを経て、サービスやプロダクトを完成させます。
- 受注時
- 提案書・見積書の作成や商談などの営業コストが発生します
- 要件定義・設計~開発・テスト
- 人件費(自社メンバーの工数)や外注費、必要なソフトウェアやツールのライセンス料などが段階的に発生します
- 納品・アフターサポート
- 最終的な納品後も、保証・保守契約に基づく運用サポートが続く場合があり、ここで追加の工数が発生するケースがあります
このようにプロジェクト期間全体を通じてさまざまなコストがかかるため、「どのフェーズでどの程度のコストが発生するのか」を「見える化」することが重要になります。案件によっては工程の進み方が前後したり、規模が突然拡大したりしますので、想定外のコストが増えやすい点も特徴です。
1-2.人件費、外注費、固定費などの内訳
プロジェクト型ビジネスで押さえておきたいコスト項目は、大きく以下のように分類できます。
1.人件費
- 社員の工数が多ければ多いほど、プロジェクトコストとして計上される人件費が増加します
- 開発エンジニアやコンサルタントなど専門人材が多い場合、時間単価やスキルセットに応じて費用が異なります
2.外注費(パートナー費用)
- プロジェクトの一部を外部ベンダーに委託する場合、契約内容や納品範囲によってコスト構造が大きく変わります
- 外注先の単価設定や契約形態(固定額か実費精算かなど)も重要な要素です
3.固定費(設備費、ライセンス費用など)
- クラウドサービスの月額利用料やサーバー費用、デザインツールや開発ツールのライセンス料など、プロジェクト全体にひも付ける形で計上される固定費があります
- 運用や保守フェーズが長引く場合は、これらの固定費も比例して増加する可能性があります
4.その他の経費(交通費、出張費、雑費など)
- 顧客先へ頻繁に訪問するビジネスモデルでは、交通費や宿泊費が積み上がっていくケースも考えられます
- 細かい経費が合計で大きな額になる場合もあるため、プロジェクト単位でしっかりチェックしましょう
2.案件別・部門別で管理するメリット
2-1.プロジェクトごとの採算を明確化
プロジェクト型ビジネスでは、案件ごとに収支を管理することが収益性アップの第一歩です。企業全体の損益計算書だけで見ると、好調なプロジェクトと赤字のプロジェクトとが混在しているにもかかわらず、総合的には黒字に見えている場合があります。
案件ごとの収支を細かく見られるようにすれば、「どのプロジェクトが利益率を押し上げ、どこが足を引っ張っているのか」を即座に把握できます。問題のあるプロジェクトを早期に発見し、追加リソースを投入したり、クライアントと契約範囲を再交渉したりと、適切な対策を打ちやすくなるのです。
2-2.部門単位での予実管理における経営判断材料
また、案件別だけでなく部門別に予実管理を行うことで、組織構造全体の効率性を測る材料も得られます。例えば、営業部門が想定より多くの案件を獲得している一方で、開発部門が工数オーバーでパンク状態になっているようなケースでは、採用や外注活用を増やす必要があるかもしれません。
部門ごとにどれだけコストを消費し、どれだけ収益を生み出しているかをリアルタイムで把握すれば、経営者や管理者は適材適所でリソースを再配分しやすくなります。
3.案件別の予実管理を実現する方法
3-1.Excelでの案件シート管理
最もシンプルな方法は、案件ごとにExcelシートを作成し、売上・コスト・工数などを手入力で管理するやり方です。
- メリット
- 導入コストが低く、誰でもすぐに始められる。小規模なプロジェクト数なら十分機能する可能性がある
- デメリット
- 人的ミスが起きやすく、手動集計が煩雑。プロジェクト数や担当者数が増えると管理が破綻しやすい。リアルタイム性に乏しい
定期的にシートを更新し、差異分析を行う仕組みがあればある程度は回せますが、規模が大きくなるほど属人的なやり方では限界がくるため、早めにシステム化を検討する企業が増えています。
3-2.プロジェクト管理ツールやSaaSの活用(「LEEAD」など)
昨今は、プロジェクト型ビジネス向けに特化したSaaS(クラウドサービス)が多数登場しています。
- 特長
- 工数管理、タスク管理、経費処理、レポート作成などを一元的に行える
- メリット
- リアルタイムで案件別の収支や進捗(しんちょく)を可視化でき、担当者ごとの作業時間も自動集計するため、差異分析が容易
- デメリット
- ツール選定や導入、運用に一定のコストとリテラシーが必要。既存システムとのデータ連携がスムーズにいかない場合もある
プロジェクトの規模が拡大し、Excel管理ではカバーしきれなくなったタイミングで、これらのツールを導入する企業は多いです。ツールによっては、案件別・部門別の損益管理レポートを自動生成してくれるなど、管理業務の手間を大幅に削減できる機能を持っています。
4.管理会計視点から見るKPI設定
4-1.ビジネスモデルに合わせたKPI(利益率、工数進捗など)
案件別・部門別の収支管理を行うためには、何を基準に「成功」や「問題あり」と判断するかというKPI(重要業績評価指標)が必須です。以下はプロジェクト型ビジネスでよく使われるKPIの例です。
1.利益率
- 各プロジェクトで売上に対してどの程度の利益を確保できているか
- 「利益率30%以上」を一つの基準にした場合、25%なら「注意案件」、20%以下なら「赤字リスク案件」というように区分することもできます
2.工数進捗率
- 計画工数に対して、現在どれほど進捗しているかを測る指標です
- 実際の工数消化が想定以上に「早まっている」or「遅れている」場合にアラートを出す仕組みを作れれば、赤字要因の早期発見につながります
3.外注比率
- プロジェクトを進めるうえで、どの程度の業務を外部に委託しているか
- 外注先の単価や作業内容が適正かどうかを確認し、収益性の検証に役立ちます
4.案件獲得数・更新率
- 新規案件の獲得数や、保守・サポート契約の更新率が計画どおりかどうかをモニタリング
- 受注数が目標を下回っていると、固定費や人件費を回収できず赤字化するリスクがあります
4-2.差異が出たらどのように対処するか
KPIを設定したら、次に大切なのは差異を検知した際の対処フローです。
価格改定や要件調整を交渉する
プロジェクトが想定以上に膨らんだ場合、追加費用を顧客に請求したり、納期や要件を見直したりする選択肢を検討します。
リソース再配置を行う
工数不足でプロジェクトが遅延している場合は、他のチームや外部リソースを短期的に活用する案も考えられます。
コスト削減策を実行
外注費が高止まりしている場合は、他のベンダーへ切り替えたり、内製化を進めたりすることで改善を図れます。
差異分析で得た情報に基づいて、迅速に意思決定とアクションを取れる体制を作っておくことが、赤字プロジェクトを最小化し、利益率を高めるうえで非常に重要です。
まとめ
本記事では、プロジェクト型ビジネスの収支管理をテーマに、案件別・部門別で見ることのメリットや具体的な管理手法を解説してきました。
- プロジェクト型ビジネスの収支構造
- 受注から納品までのフェーズごとにコストが発生しやすく、工数や外注費が想定外に膨らむリスクが高い。
- 案件別・部門別で管理するメリット
- プロジェクトごとの採算状況を明確にし、赤字リスクを早期に発見。さらに、部門ごとのリソース配分や経営判断を的確に行いやすくなる。
- 具体的な管理手法
- Excelによる案件管理、またはプロジェクト管理ツール・SaaSを活用。ツール導入によりリアルタイム性・正確性が向上し、差異分析もしやすい。
- KPI設定と対処
- 利益率や工数進捗率などを指標とし、差異が生じたら価格交渉やリソース再配置、コスト削減策など、即座にアクションをとる体制を整えることが重要。
今後、プロジェクト規模が大きくなり、案件数が増えるほど、Excelだけではカバーしきれなくなる可能性が高いため、管理手法やツールの選定を早めに検討するのがおすすめです。案件別・部門別の収支管理を行い、数値に基づいた改善と意思決定を積み重ねることで、プロジェクト型ビジネスの収益力は格段に高まっていきます。
次回予告
次回(第6回)では、こうした予実管理を「継続的な改善サイクル」に乗せるためのPDCAサイクルのポイントを掘り下げます。特に現場レベルでの運用をどのように浸透させるか、リアルタイムデータの活用や組織文化との結びつけ方など、実務的なコツを具体的にご紹介します。ぜひ引き続きお読みいただき、貴社のプロジェクト運営に役立ててください。
著者紹介