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第3回 実績の把握と記録方法~Excelからアプリまで徹底比較
実績データの取得方法について、Excelからアプリまでそれぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。
目次
はじめに
企業における予実管理は、前回(第2回)で取り上げた「予算策定」がスタートラインですが、その次に欠かせないのが「実績データの正確な把握」です。予算をどれほど綿密に立てても、その後の実績が曖昧なままでは差異を分析する材料を集められず、予実管理の効果を十分に発揮できません。特にプロジェクト型ビジネスでは案件ごとの収支管理や工数管理が複雑化しやすく、実績データをいかにタイムリー・正確に集計するかが大きな課題になりがちです。
本記事では、実績データの取得方法について「手動管理(Excel)」「社内システム(ERP・会計ソフト)」「クラウドアプリ・SaaS」それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較しながら解説します。さらに情報精度を高めるための運用ルール作りのポイントも取り上げますので、実務で活かせる具体的なヒントをつかんでいただければ幸いです。
1.実績データ取得が重要な理由
予実管理においては、予算(計画)と実績(現状)とのギャップを把握し、差異分析を行うことで経営改善につなげるという流れが基本です。そのためには、現場で起こっていることを定量的に示す「実績データ」が欠かせません。特にプロジェクト型ビジネスでは以下のようなリスクが存在します。
1-1.工数管理の不透明さ
案件ごとに作業工程やタスク内容が異なり、メンバーが複数のプロジェクトを並行して担当することも珍しくありません。工数を正確に記録しないと、「どのプロジェクトにどのくらいリソースをかけているのか」「どの工程で時間を使いすぎているのか」が見えにくくなります。
1-2.コスト配分の把握困難
外注費やツール利用料など、プロジェクトごとにかかるコストを細かく振り分けられないと、本来の収益性や利益率を正しく計算できません。赤字案件を見逃して、後になってから損失が判明するケースもあります。
1-3.進捗(しんちょく)遅延や追加要件の影響が把握しづらい
納期が迫っているのに遅延の原因がどこにあるのか不明確だったり、追加要件によってコストが膨らんでいることに気付けなかったりすると、対策が後手に回ってしまいがちです。こうしたリスクを回避し、正確な差異分析と迅速な意思決定を可能にするためにも、実績データの収集・記録方法をしっかりと設計する必要があります。
2.実績データをとる三つの手法
実績データの収集方法は大きく分けて以下の三つが考えられます。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の規模や業務内容、予算などを踏まえて選択することが大切です。
2-1.手動(Excel、スプレッドシート)
- 各メンバーが日報や週報ベースで工数や費用を記録し、Excelシートなどで集計する方式。
- コストがほぼかからず、導入ハードルが低い点が魅力ですが、入力ミスや集計作業の手間が大きいのが難点です。
2-2.社内システム(ERP、会計ソフト)
- 既に社内で稼働しているERPや会計ソフトにプロジェクトコードを設定し、経費や売上をプロジェクト単位で計上する方式。
- 経理部門を中心とした一元管理が可能で、財務会計のデータと連動しやすい反面、システムの改修や運用ルールの確立にコストがかかる場合があります。
2-3.クラウドアプリ・SaaS(「LEEAD」など)
- インターネット経由で利用できるクラウド型サービスを導入し、工数管理・経費管理・レポーティングなどを一括で行う方式。
- リアルタイム性や自動集計機能が充実していることが多く、プロジェクト型ビジネスに特化したサービスも存在します。一方で、月額費用などのランニングコストを検討する必要があります。
3.Excelで行う実績管理のメリット・デメリット
3-1.コストや導入ハードルの低さ
ExcelやGoogle スプレッドシートは、ほとんどの企業で使い慣れており、ライセンスや利用料が比較的安価(もしくは無料)である場合も多いです。そのため、新たなシステム導入に対して抵抗感がある組織や、従業員数が少なくツール導入コストを抑えたい企業にとっては、手軽に始められる選択肢といえます。
3-2.手動入力による属人化、集計ミス・リアルタイム性の欠如
一方で、Excel管理の最大の課題は、手動入力によるヒューマンエラーが起こりやすい点です。プロジェクト名やコードを誤って入力してしまったり、集計式を間違えたりすると、正しい実績データが得られなくなります。また、担当者の退職や異動によって管理ノウハウが失われる“属人化”も懸念されます。
さらに入力が遅れたり、リアルタイムの更新が難しかったりして、最新の実績を常に把握するという点でも不向きです。集計や分析を週次・月次で行う場合には問題ありませんが、アジャイル的にプロジェクトを進める企業など、即時性が求められる環境では物足りない面があるでしょう。
3-3.プロジェクトコードの整理と重複・間違えリスク
プロジェクト型ビジネスの場合、複数案件を並行して行うことが多いため、プロジェクトコードの割り振りと管理が重要になります。Excelで管理する場合、コードを間違えて入力してしまうと異なるプロジェクトのデータが混在してしまい、後から集計するときに膨大な修正が必要になることもあります。
正確な実績管理を行うためには、「コード体系を定義しておき、入力時にプルダウンで選ぶ」などの工夫が必要ですが、こうした仕組み作りもExcelでは手動での作業が多く、完全にミスを排除するのは簡単ではありません。
3-4.プロジェクト責任者の範囲
Excelベースだと、入力・集計をする担当者が1人、ないし数人に限定されがちです。すると、プロジェクトの現場責任者が全体の進捗やコスト状況をリアルタイムに把握しづらくなり、「気付いたら予算をオーバーしていた」という事態に陥るリスクがあります。
管理用のExcelファイルがネットワーク上で共有されていても、同時編集の競合やバージョン管理の混乱など、実務面でのデメリットが生じることが少なくありません。
4.クラウドアプリを活用するメリット
4-1.自動連携・リアルタイム集計
近年では、工数管理やプロジェクト管理に特化したクラウドアプリ・SaaSが数多く登場しています。これらのツールでは、タスクを登録し、メンバーが実際にかけた時間を入力すると、自動的に工数やコストが集計される仕組みを備えているものが多いです。さらにクレジットカード明細や電子請求書、外部システムとも連携できるケースがあり、経費管理や会計処理との連動もスムーズになります。
4-2.最新データの参照性やプロジェクト別の差異分析が簡易化
クラウドアプリであれば、インターネット接続があればどこからでもアクセスでき、メンバーが入力した最新の実績情報をほぼリアルタイムで確認できます。ダッシュボード機能を持つツールもあり、プロジェクト別や期間別にグラフ表示で可視化されるため、差異分析の第一歩として効果的です。
プロジェクトマネージャーや経営層が常に最新情報を把握できる環境が整うことで、問題発生時の意思決定が速まり、「今どこでコストがかかっているのか」「工数が膨らんでいる工程はどこか」といった判断が容易になります。
5.記録方法のポイントと運用ルール
5-1.チームでの入力ルール統一
どの方法(Excel、ERP、クラウドアプリ)を選んでも、入力ルールを徹底し、メンバーが共通の認識で作業することが不可欠です。例えば、工数の記録タイミング(毎日、週1回、プロジェクト完了時など)や、記録フォーマット(作業内容、プロジェクトコードの記入方法など)を明確にしておかないと、データの抜け漏れや表記ゆれが起こりやすくなります。
5-2.情報精度を高めるためのガイドライン作り
実績データの質を保つために、ガイドラインやチェックリストを用意するのがおすすめです。例えば、工数の入力単位を「15分刻み」か「30分刻み」かに統一する、外注費やツール利用料を計上するときの費目分類を定義するなど、細かいルールを明文化しておくとミスを減らせます。
さらに、月末やプロジェクトのマイルストーンごとに、リーダーが入力状況を確認し、抜け漏れや不整合がないかチェックする体制を作りましょう。
まとめ
予実管理を効果的に運用するには、「予算を立てる」→「実績データを正しく取得する」→「差異分析を行う」という流れがスムーズに機能する必要があります。今回の第3回では、実績データの収集・記録方法として「手動(Excel)」「社内システム(ERP)」「クラウドアプリ・SaaS」の三つを比較し、それぞれの長所と課題を整理しました。
- Excel管理
- 導入ハードルが低く誰でも使える半面、入力ミスや属人化が起こりやすく、リアルタイム性に乏しいというデメリットがあります。
- 社内システム(ERP・会計ソフト)の活用
- 財務会計や経理との連携がしやすい一方で、導入やカスタマイズのコストが高くなる可能性があります。
- クラウドアプリ・SaaS
- リアルタイム性や自動集計機能が優れており、プロジェクト型ビジネスに特化した機能を持つサービスも多数。ただし、月額費用などのランニングコストや、既存システムとのデータ連携方法を検討する必要があります。
いずれの方法を選んでも、入力ルールやガイドラインの整備、定期的なチェック体制が欠かせないことを忘れないでください。実績データの精度が高まれば高まるほど、差異分析を行った際の信頼性も上がり、的確な意思決定につながります。
次回予告
次回(第4回)は、予算と実績とのギャップ(差異)を具体的にどう分析するかにフォーカスします。差異分析の基本指標や進め方、ありがちな失敗事例などを取り上げながら、プロジェクトの赤字を早期に発見・対処するための方法を詳述していきます。予実管理の要ともいえる「差異分析」のノウハウを身につけ、さらに一歩踏み込んだ経営改善を目指しましょう。どうぞお楽しみに。
著者紹介