塩塚丁二郎(株式会社ETVOX)
早稲田大学卒業後、株式会社野村総合研究所でSEとしてキャリアをスタート。
2015年に独立し、IoTスタートアップ、音声アプリ開発を経て、PM支援・SI事業を軌道に乗せる。電子契約サービス「CloudContract」の実装、運用を手掛け、2020年からはプロジェクト会計・フォーキャストに特化した「LEEAD」を運営。
現在はDX・AI領域、カフェ店舗運営など、複数の事業を展開している。
製品、サービスに関するご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
2025年 2月20日公開
実績データの取得方法について、Excelからアプリまでそれぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。
目次
企業における予実管理は、前回(第2回)で取り上げた「予算策定」がスタートラインですが、その次に欠かせないのが「実績データの正確な把握」です。予算をどれほど綿密に立てても、その後の実績が曖昧なままでは差異を分析する材料を集められず、予実管理の効果を十分に発揮できません。特にプロジェクト型ビジネスでは案件ごとの収支管理や工数管理が複雑化しやすく、実績データをいかにタイムリー・正確に集計するかが大きな課題になりがちです。
本記事では、実績データの取得方法について「手動管理(Excel)」「社内システム(ERP・会計ソフト)」「クラウドアプリ・SaaS」それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較しながら解説します。さらに情報精度を高めるための運用ルール作りのポイントも取り上げますので、実務で活かせる具体的なヒントをつかんでいただければ幸いです。
予実管理においては、予算(計画)と実績(現状)とのギャップを把握し、差異分析を行うことで経営改善につなげるという流れが基本です。そのためには、現場で起こっていることを定量的に示す「実績データ」が欠かせません。特にプロジェクト型ビジネスでは以下のようなリスクが存在します。
案件ごとに作業工程やタスク内容が異なり、メンバーが複数のプロジェクトを並行して担当することも珍しくありません。工数を正確に記録しないと、「どのプロジェクトにどのくらいリソースをかけているのか」「どの工程で時間を使いすぎているのか」が見えにくくなります。
外注費やツール利用料など、プロジェクトごとにかかるコストを細かく振り分けられないと、本来の収益性や利益率を正しく計算できません。赤字案件を見逃して、後になってから損失が判明するケースもあります。
納期が迫っているのに遅延の原因がどこにあるのか不明確だったり、追加要件によってコストが膨らんでいることに気付けなかったりすると、対策が後手に回ってしまいがちです。こうしたリスクを回避し、正確な差異分析と迅速な意思決定を可能にするためにも、実績データの収集・記録方法をしっかりと設計する必要があります。
実績データの収集方法は大きく分けて以下の三つが考えられます。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の規模や業務内容、予算などを踏まえて選択することが大切です。
ExcelやGoogle スプレッドシートは、ほとんどの企業で使い慣れており、ライセンスや利用料が比較的安価(もしくは無料)である場合も多いです。そのため、新たなシステム導入に対して抵抗感がある組織や、従業員数が少なくツール導入コストを抑えたい企業にとっては、手軽に始められる選択肢といえます。
一方で、Excel管理の最大の課題は、手動入力によるヒューマンエラーが起こりやすい点です。プロジェクト名やコードを誤って入力してしまったり、集計式を間違えたりすると、正しい実績データが得られなくなります。また、担当者の退職や異動によって管理ノウハウが失われる“属人化”も懸念されます。
さらに入力が遅れたり、リアルタイムの更新が難しかったりして、最新の実績を常に把握するという点でも不向きです。集計や分析を週次・月次で行う場合には問題ありませんが、アジャイル的にプロジェクトを進める企業など、即時性が求められる環境では物足りない面があるでしょう。
プロジェクト型ビジネスの場合、複数案件を並行して行うことが多いため、プロジェクトコードの割り振りと管理が重要になります。Excelで管理する場合、コードを間違えて入力してしまうと異なるプロジェクトのデータが混在してしまい、後から集計するときに膨大な修正が必要になることもあります。
正確な実績管理を行うためには、「コード体系を定義しておき、入力時にプルダウンで選ぶ」などの工夫が必要ですが、こうした仕組み作りもExcelでは手動での作業が多く、完全にミスを排除するのは簡単ではありません。
Excelベースだと、入力・集計をする担当者が1人、ないし数人に限定されがちです。すると、プロジェクトの現場責任者が全体の進捗やコスト状況をリアルタイムに把握しづらくなり、「気付いたら予算をオーバーしていた」という事態に陥るリスクがあります。
管理用のExcelファイルがネットワーク上で共有されていても、同時編集の競合やバージョン管理の混乱など、実務面でのデメリットが生じることが少なくありません。
近年では、工数管理やプロジェクト管理に特化したクラウドアプリ・SaaSが数多く登場しています。これらのツールでは、タスクを登録し、メンバーが実際にかけた時間を入力すると、自動的に工数やコストが集計される仕組みを備えているものが多いです。さらにクレジットカード明細や電子請求書、外部システムとも連携できるケースがあり、経費管理や会計処理との連動もスムーズになります。
クラウドアプリであれば、インターネット接続があればどこからでもアクセスでき、メンバーが入力した最新の実績情報をほぼリアルタイムで確認できます。ダッシュボード機能を持つツールもあり、プロジェクト別や期間別にグラフ表示で可視化されるため、差異分析の第一歩として効果的です。
プロジェクトマネージャーや経営層が常に最新情報を把握できる環境が整うことで、問題発生時の意思決定が速まり、「今どこでコストがかかっているのか」「工数が膨らんでいる工程はどこか」といった判断が容易になります。
どの方法(Excel、ERP、クラウドアプリ)を選んでも、入力ルールを徹底し、メンバーが共通の認識で作業することが不可欠です。例えば、工数の記録タイミング(毎日、週1回、プロジェクト完了時など)や、記録フォーマット(作業内容、プロジェクトコードの記入方法など)を明確にしておかないと、データの抜け漏れや表記ゆれが起こりやすくなります。
実績データの質を保つために、ガイドラインやチェックリストを用意するのがおすすめです。例えば、工数の入力単位を「15分刻み」か「30分刻み」かに統一する、外注費やツール利用料を計上するときの費目分類を定義するなど、細かいルールを明文化しておくとミスを減らせます。
さらに、月末やプロジェクトのマイルストーンごとに、リーダーが入力状況を確認し、抜け漏れや不整合がないかチェックする体制を作りましょう。
予実管理を効果的に運用するには、「予算を立てる」→「実績データを正しく取得する」→「差異分析を行う」という流れがスムーズに機能する必要があります。今回の第3回では、実績データの収集・記録方法として「手動(Excel)」「社内システム(ERP)」「クラウドアプリ・SaaS」の三つを比較し、それぞれの長所と課題を整理しました。
いずれの方法を選んでも、入力ルールやガイドラインの整備、定期的なチェック体制が欠かせないことを忘れないでください。実績データの精度が高まれば高まるほど、差異分析を行った際の信頼性も上がり、的確な意思決定につながります。
次回(第4回)は、予算と実績とのギャップ(差異)を具体的にどう分析するかにフォーカスします。差異分析の基本指標や進め方、ありがちな失敗事例などを取り上げながら、プロジェクトの赤字を早期に発見・対処するための方法を詳述していきます。予実管理の要ともいえる「差異分析」のノウハウを身につけ、さらに一歩踏み込んだ経営改善を目指しましょう。どうぞお楽しみに。
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