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第2回 予算の立て方とポイントを解説! 正しい目標設定が予実管理のカギ
予実管理の基礎知識を踏まえつつ、正しい目標設定(予算策定)を行うための考え方とポイントを解説します。
目次
はじめに
企業の成長を安定的に実現するうえで、「予算策定」は極めて重要なステップです。予算策定を適切に行わないままプロジェクトを進めると、想定外の工数増大やコスト超過に気付くタイミングが遅れ、結果として利益を圧迫するリスクが高まります。そこで本記事では、前回(第1回)で取り上げた“予実管理”の基礎知識を踏まえつつ、正しい目標設定(予算策定)を行うための考え方とポイントを解説します。システム開発、コンサルティングといったプロジェクト型ビジネスの事例も織り交ぜながら、具体的な手法や注意点をご紹介していきましょう。
1.予算策定の基本プロセス
1-1.目標設定 → 必要コストの見積り → リソース計画 → モニタリング計画
まずは、予算策定における大まかなプロセスを整理してみましょう。
1.目標設定(ゴールの明確化)
- 企業全体の経営戦略や事業計画を基に、各プロジェクトや部門で達成すべき売上・利益率などを定量的に設定する
- プロジェクト単位であれば、納期や成果物の品質、売上目標・利益目標などが具体的な指標になる
2.必要コストの見積り(予算の根拠づくり)
- 目標を達成するために必要な工数や外注費、開発ツール費用、その他経費を洗い出す
- 人件費を算出する際は、プロジェクト参画メンバーのスキルレベルや報酬体系、稼働率を考慮しながら概算コストを計算する
3.リソース計画(人的・物的資源の最適配置)
- 同時並行で進んでいる複数プロジェクトがあれば、どのメンバーをどの期間にどれだけアサインするのかを明確にする
- 必要な開発環境やソフトウェアライセンスなど、物的リソースも過不足なく手配可能か検証する
4.モニタリング計画(定期的なレビュー体制)
- プロジェクトの進捗(しんちょく)状況やコスト消化率を定期的に確認する仕組みを整える
- レビューやミーティングの開催頻度、差異分析の方法、意思決定の承認フローなどをあらかじめ定義しておくとスムーズ
この一連の流れをしっかり押さえておくことで、予算策定とその後の運用がブレにくくなります。特にプロジェクト型ビジネスでは、受注前の見積りと受注後の実績確認が密接に関連し、予実管理の精度を左右する大きなポイントとなります。
1-2.プロジェクトごとの予算の立て方
企業全体での年度予算とは別に、プロジェクト単位での予算をどう立てるかは予実管理の成否を大きく左右します。プロジェクト予算を策定する際は、以下のような要点を意識しましょう。
目的・成果物の定義
プロジェクトの目的や最終成果物を明確に言語化します。あいまいな要件定義だと、進行中に追加要望や変更指示が頻発し、結果的に予算超過を招きやすくなります。
見積り根拠の整理
過去の類似プロジェクトでの実績や標準工数、外注費の相場など、客観的な数値を基に計算することが大切です。勘や経験だけに頼る「ざっくり見積り」ではリスクが高まります。
リスク要因の洗い出し
予定外の追加開発やクレーム対応、自然災害など、どんなリスクが考えられるかを事前に検討し、リスクバッファとして一定のコストを予算に盛り込むことをおすすめします。
2.プロジェクトごとに異なる予算の考え方
2-1.受託開発(システム開発)とコンサルティング案件の比較
プロジェクト型ビジネスと一口にいっても、その特性はさまざまです。ここでは、典型的な例として「システム開発プロジェクト」と「コンサルティング案件」の特徴を比較してみましょう。
システム開発プロジェクト
- 仕様や要件定義が詳細に決まっている場合が多いものの、開発途中で要件追加や仕様変更が入りやすいというリスクが常につきまとう
- 開発工数やテスト工数など、細かいタスク単位での工数見積りが必要
- 要件が複雑になるほど、コスト超過のリスクが高まる
コンサルティング案件
- 顧客企業の課題分析や戦略立案、研修・ワークショップの実施などが中心。成果物としてはレポートや提言書が主になる
- コミュニケーションコストが大きく、顧客対応に割く時間(工数)を正確に予測しづらい
- プロジェクト期間中に新たな論点が次々と発生しやすく、追加費用の交渉や範囲管理が課題になることが多い
2-2.見積り工数とコスト、利益率の算出方法
システム開発にしてもコンサルティングにしても、基本となるのは「工数×人件費レート」という考え方です。案件を遂行するために必要な工数を洗い出し、プロジェクトにアサインされるメンバーごとの時間単価を積み上げることで、必須コストの大枠が見えてきます。そこに外注費や経費(交通費、会場費、ツール利用料など)を加算し、さらに適正なマージン(利益)を上乗せして顧客に提示する見積り額を算出します。利益率をシミュレーションする際には、「予定していないタスクが増えた場合の追加コスト」「納期延長などによる固定費の増加」などのシナリオも考慮することで、より正確に収益性を評価できます。
3.「ざっくり予算」からの脱却
3-1.顧客情報、過去事例、標準工数表などの活用
予算策定が甘くなる最大の理由の一つは、「ざっくり見積り」によるリスク認識の不足です。現場感覚を大切にするのはもちろんですが、顧客プロフィール(業界・組織規模・担当者の意思決定スピードなど)や過去のプロジェクト事例、標準工数表などの客観的な資料を積極的に活用することで、見積りの精度は飛躍的に向上します。
顧客情報
- 大企業ほど承認プロセスが複雑で、追加の打ち合わせや調整が増える傾向がある
過去事例
- 過去の開発期間と工数を比較し、今回の案件との共通点・相違点を明確にする
標準工数表
- 作業タスクごとに一般的にかかる時間をリスト化しておく。新人/中堅/ベテランなど、スキル別に標準時間を定める企業もある
3-2.Excelやツールを使った精緻な予算策定
「ざっくり予算」から脱却するうえでは、Excelや専門ツールを使って工数を詳細に積み上げる作業が有効です。例えば、要件定義フェーズ、開発フェーズ、テストフェーズといったプロセスごとに必要な人員の稼働時間と人数とを掛け合わせ、工数×人件費を計算します。外注費やその他経費を加えたら、最終的な利益率をシミュレーションして、目標を満たしているかを確認しましょう。
システムや専用ツールを導入している企業であれば、過去プロジェクトの実績データが蓄積されている場合があります。そこから類似案件の工数や費用を参照することで、より高精度な予算策定が可能です。
4.管理会計の視点を取り入れる
4-1.部門別、プロジェクト別に予算を管理するメリット
企業規模が大きくなるほど、「部署・部門の壁」が存在しがちです。しかし、管理会計の視点を導入し、部門別やプロジェクト別に予算を詳細に組み立てておくと、どの部門やプロジェクトが収益を稼ぎ、どこがコストを増やしているかを正確に把握できます。
部門別管理
- 営業部・開発部・サポート部といった部門ごとに、売上・コスト・利益を一覧で確認できる
プロジェクト別管理
- プロジェクトごとの実績データを集めて比較分析し、改善策を講じる
このように、視点を切り分けた予算と実績との比較ができれば、差異分析がより客観的になり、具体的な対処プランを立てやすくなります。
4-2.管理会計のフレームワークと差異分析への応用
管理会計の基本的なフレームワークとしては、「財務会計の数値を基に、内部管理目的で必要な指標を切り出して活用する」という考え方があります。例えば、売上総利益(粗利)、営業利益、人件費率などの指標を部門・プロジェクト単位で算出して比較することで、問題や改善点を洗い出せるわけです。
差異分析のポイント
- 1.数量差異
- 受注数や販売数量が想定とどれだけ違ったか
- 2.価格差異
- 単価や外注費用が予算時と比較してどう変化したか
- 3.構成差異
- プロジェクトの要件や売上構成が当初計画とどれくらい異なるか
複数の差異要因を総合的に分析することで、「どのタイミングで」「どの部分が」利益率に影響しているのかを特定し、次の施策を打ち出せます。
4-3.プロジェクト実績報告書、予算と実績の比較、業務フローに反省と今後の対策(PDCA)を盛り込む
予算策定を行った後は、PDCAサイクルを回しながら常に改善を図る姿勢が重要です。例えば、プロジェクト終了後に「プロジェクト実績報告書」を作成し、予算との比較結果や差異要因、成功・失敗事例を整理します。そこから得られた知見を、次のプロジェクトの予算策定フェーズ(Plan)にフィードバックすることで、より精度の高い見積りやリスク管理が実現します。
具体的なポイントとしては、以下のような内容を報告書や会議で共有するのがおすすめです。
- 予想工数と実績工数との差
- 発生した追加費用の内訳と原因
- 納期やスケジュールへの影響度
- 顧客とのコミュニケーションにおける課題
- 社内体制・リソース配分の課題(休暇・異動・スキル不足など)
まとめ
予算策定は、予実管理のスタートラインです。いかに適切な目標設定を行い、その裏付けとして必要なコストや工数を算出するかは、企業の収益性やプロジェクトの成功確度を左右する大きなファクターとなります。
- 基本プロセス
- 目標設定 → 必要コストの見積り → リソース計画 → モニタリング計画
- プロジェクトごとに異なる予算の考え方
- システム開発とコンサルティング案件など、ビジネス特性を踏まえた工数見積りが大切
- 「ざっくり予算」からの脱却
- 客観的データ(過去事例、標準工数表など)を基にExcelやツールで精緻に積み上げる
- 管理会計の視点
- 部門別・プロジェクト別に予算を組み、差異分析のフレームワークと連動させる
次回予告
次回(第3回)は、予算を立てた後に欠かせない「実績の把握と記録方法」について取り上げます。せっかく作り込んだ予算も、実績データを正確かつタイムリーに取得できなければ意味がありません。Excelによる手動管理、ERP・会計ソフトによる社内システム活用、さらにはクラウドアプリ・SaaSの利用といった手法を比較しながら、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
より実践的なノウハウに踏み込みながら、差異分析で得られた知見を経営に活かすための基礎固めを行う予定です。どうぞ次回もお楽しみにご覧ください。
著者紹介