塩塚丁二郎(株式会社ETVOX)
早稲田大学卒業後、株式会社野村総合研究所でSEとしてキャリアをスタート。
2015年に独立し、IoTスタートアップ、音声アプリ開発を経て、PM支援・SI事業を軌道に乗せる。電子契約サービス「CloudContract」の実装、運用を手掛け、2020年からはプロジェクト会計・フォーキャストに特化した「LEEAD」を運営。
現在はDX・AI領域、カフェ店舗運営など、複数の事業を展開している。
製品、サービスに関するご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
2025年 2月10日公開
予実管理の基礎知識を踏まえつつ、正しい目標設定(予算策定)を行うための考え方とポイントを解説します。
目次
企業の成長を安定的に実現するうえで、「予算策定」は極めて重要なステップです。予算策定を適切に行わないままプロジェクトを進めると、想定外の工数増大やコスト超過に気付くタイミングが遅れ、結果として利益を圧迫するリスクが高まります。そこで本記事では、前回(第1回)で取り上げた“予実管理”の基礎知識を踏まえつつ、正しい目標設定(予算策定)を行うための考え方とポイントを解説します。システム開発、コンサルティングといったプロジェクト型ビジネスの事例も織り交ぜながら、具体的な手法や注意点をご紹介していきましょう。
まずは、予算策定における大まかなプロセスを整理してみましょう。
この一連の流れをしっかり押さえておくことで、予算策定とその後の運用がブレにくくなります。特にプロジェクト型ビジネスでは、受注前の見積りと受注後の実績確認が密接に関連し、予実管理の精度を左右する大きなポイントとなります。
企業全体での年度予算とは別に、プロジェクト単位での予算をどう立てるかは予実管理の成否を大きく左右します。プロジェクト予算を策定する際は、以下のような要点を意識しましょう。
プロジェクトの目的や最終成果物を明確に言語化します。あいまいな要件定義だと、進行中に追加要望や変更指示が頻発し、結果的に予算超過を招きやすくなります。
過去の類似プロジェクトでの実績や標準工数、外注費の相場など、客観的な数値を基に計算することが大切です。勘や経験だけに頼る「ざっくり見積り」ではリスクが高まります。
予定外の追加開発やクレーム対応、自然災害など、どんなリスクが考えられるかを事前に検討し、リスクバッファとして一定のコストを予算に盛り込むことをおすすめします。
プロジェクト型ビジネスと一口にいっても、その特性はさまざまです。ここでは、典型的な例として「システム開発プロジェクト」と「コンサルティング案件」の特徴を比較してみましょう。
システム開発にしてもコンサルティングにしても、基本となるのは「工数×人件費レート」という考え方です。案件を遂行するために必要な工数を洗い出し、プロジェクトにアサインされるメンバーごとの時間単価を積み上げることで、必須コストの大枠が見えてきます。そこに外注費や経費(交通費、会場費、ツール利用料など)を加算し、さらに適正なマージン(利益)を上乗せして顧客に提示する見積り額を算出します。利益率をシミュレーションする際には、「予定していないタスクが増えた場合の追加コスト」「納期延長などによる固定費の増加」などのシナリオも考慮することで、より正確に収益性を評価できます。
予算策定が甘くなる最大の理由の一つは、「ざっくり見積り」によるリスク認識の不足です。現場感覚を大切にするのはもちろんですが、顧客プロフィール(業界・組織規模・担当者の意思決定スピードなど)や過去のプロジェクト事例、標準工数表などの客観的な資料を積極的に活用することで、見積りの精度は飛躍的に向上します。
「ざっくり予算」から脱却するうえでは、Excelや専門ツールを使って工数を詳細に積み上げる作業が有効です。例えば、要件定義フェーズ、開発フェーズ、テストフェーズといったプロセスごとに必要な人員の稼働時間と人数とを掛け合わせ、工数×人件費を計算します。外注費やその他経費を加えたら、最終的な利益率をシミュレーションして、目標を満たしているかを確認しましょう。
システムや専用ツールを導入している企業であれば、過去プロジェクトの実績データが蓄積されている場合があります。そこから類似案件の工数や費用を参照することで、より高精度な予算策定が可能です。
企業規模が大きくなるほど、「部署・部門の壁」が存在しがちです。しかし、管理会計の視点を導入し、部門別やプロジェクト別に予算を詳細に組み立てておくと、どの部門やプロジェクトが収益を稼ぎ、どこがコストを増やしているかを正確に把握できます。
このように、視点を切り分けた予算と実績との比較ができれば、差異分析がより客観的になり、具体的な対処プランを立てやすくなります。
管理会計の基本的なフレームワークとしては、「財務会計の数値を基に、内部管理目的で必要な指標を切り出して活用する」という考え方があります。例えば、売上総利益(粗利)、営業利益、人件費率などの指標を部門・プロジェクト単位で算出して比較することで、問題や改善点を洗い出せるわけです。
複数の差異要因を総合的に分析することで、「どのタイミングで」「どの部分が」利益率に影響しているのかを特定し、次の施策を打ち出せます。
予算策定を行った後は、PDCAサイクルを回しながら常に改善を図る姿勢が重要です。例えば、プロジェクト終了後に「プロジェクト実績報告書」を作成し、予算との比較結果や差異要因、成功・失敗事例を整理します。そこから得られた知見を、次のプロジェクトの予算策定フェーズ(Plan)にフィードバックすることで、より精度の高い見積りやリスク管理が実現します。
具体的なポイントとしては、以下のような内容を報告書や会議で共有するのがおすすめです。
予算策定は、予実管理のスタートラインです。いかに適切な目標設定を行い、その裏付けとして必要なコストや工数を算出するかは、企業の収益性やプロジェクトの成功確度を左右する大きなファクターとなります。
次回(第3回)は、予算を立てた後に欠かせない「実績の把握と記録方法」について取り上げます。せっかく作り込んだ予算も、実績データを正確かつタイムリーに取得できなければ意味がありません。Excelによる手動管理、ERP・会計ソフトによる社内システム活用、さらにはクラウドアプリ・SaaSの利用といった手法を比較しながら、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
より実践的なノウハウに踏み込みながら、差異分析で得られた知見を経営に活かすための基礎固めを行う予定です。どうぞ次回もお楽しみにご覧ください。
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