第46回 「設計者を育てる」ということ その4

-流用化・標準化設計プラットフォームを考える-

ようやく秋の気配です。酷暑の夏であっただけに涼しさがひとしお感じられます。焼酎お湯割りの湯気が邪魔にならなくなりました。

前回は、設計者の羊さんや設計部長の羊飼いさんにも登場願って設計プラットフォームのイメージの共有を図りました。
設計者の羊さんたちが柵で囲われている設計プラットフォームのうえで設計ノウハウを共有しながら、設計成果物を生み出して行く様を理解していただけたでしょうか?そして、そこにはこれから育とうとしている若い設計者が蛸壺設計に陥らないための大切な設計環境でもあるとしました。

今回は、流用化・標準化設計が図られ進んでいく設計プラットフォームをいかに構築できるかを考えてみましょう。まずは、何度も述べていることですが、いきなり標準化設計を狙っても成就しないことは理解していただけると思います。過去の設計成果物を再利用して設計効率を上げるという流用化設計が可能となって、初めて標準化設計へのスタートラインに立てるのです。

「過去の設計成果物を流用するだけですよね?」「そう言うことです」との安易な問答では済まないのも事実。流用設計の設計者の思考プロセスは、以下のようになるでしょう。

【1】設計者自身が求めている設計成果物を属性(設計基準)検索して見つける。
【2】見つけた設計成果物が仕様を満足させる物か否かの設計判断。
【3】否の場合は再度【1】に戻って再検索

設計経験の長短によって意見が大きく分かれるのもここです。

特に設計経験の長い人々は「検索するぐらいだったら、書いちゃった方が早い」という話になりがち。「設計効率本当に上がるのかなー?」との疑問が頭をかすめるわけです。ただし、ここで重要な意識改革が存在します。

一つの設計成果物を新たに生み出す責任を設計者がどのくらい考えているのか? 新たな部品が自分の設計成果物によって生み出され、維持管理されるまでの生産部門や保守部門も含めた会社全体に及ぼす負担(経費)を設計者一人一人が意識できているのかが、流用化設計の定着への分かれ道です。この意識の醸成は、設計部長のとても大切な要件です。特に若い設計者にこそ、早くこの意識への目覚めを与える必要があるのです。
従って、「探して、検討している間にピュッと書けちゃうよ」というような安易な話ではないことだけは理解ください。

でも、いくら意識を高めても、「こんなに探しづらくちゃ無理」という結果にしてしまっては設計プラットフォームの最も大切な要件を欠いていることになります。
意識の醸成と共に、その意識を維持できるプラットフォームの構築こそが、まずは目指すべきグランドデザインです。

そしてこのグランドデザインを支える具体的な行為こそが、設計成果物の2S(整理・整頓)なのです。この行為の重要性や考え方、方法論は過去の当コラム(第33、34、35回)で述べていますので、復習も兼ねてぜひ再読してみてください。

■ 第33回 設計成果物の2Sを考える ~その1~
■ 第34回 設計成果物の2Sを考える ~その2~
■ 第35回 設計成果物の2Sを考える ~その3~

この2Sと本当に必要な新規設計か否かの妥当性の検討の継続こそが流用化設計を可能とする設計プラットフォームの構築なのです。

流用化設計が定着しさえすれば、標準化設計はその延長線上に位置します。流用化率が高い部品、ユニット(メカ系、エレキ系、ソフト系問わず)は自ずと標準化されていくことは過去のコラムでも述べています。

設計者を育てるという今回のテーマに再度当てはめてみましょう。
私は、経験値の低い若い設計者に、この設計成果物の2S現場で経験値の高い設計者と共に臨むことを強く勧めています。正に「学びの宝庫」です。過去の設計成果物から似て非なる設計成果物を分類整理していく過程で起きる「なぜ?」という疑問や「なるほど!」という納得は、貴社の設計部門が積み重ねて来た歴史に対する「温故知新」であると考えています。この体験こそが「蛸壺設計」のもたらす問題点を自ら認識させ、設計部門最適に留まらず全社最適を俯瞰できる設計者を育てると考えています。

2Sの現場での若い設計者とロートル設計者の会話が印象に残っています。
若者「この部品と、この部品同じと思うのですが、何が違うのですか?」
ロートル「あっ、これね。設計者が違うんだよ」(と平然と答える)
若者「……」

皆さん、これってすばらしいOJTだと思いませんか?

次回は10月2日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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