第91回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その26~「製造業は二毛作」保守部品事業を考える Part3

「製造業は二毛作」と何度か述べています。製品で儲ける、そして、保守部品で儲ける。ところが保守部品で儲けることができない企業を多く預かります。Part2では保守部品探しに翻弄されている設計部門の実際を紹介しました。最も多忙な設計部門が部品探しに時間を取られ、大きな負担になっている実際です。ではどのように解決し、これからの儲かる保守とはどのように考えるべきなのか?述べてみます。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その26~「製造業は二毛作」保守部品事業を考える Part3

アッという間に夏到来です。5月に北海道で39度という気温を聞くと、「三冷ホッピーが旨いぜ!」とばかり言っていられない、異常さを感じます。来年のオリンピックは大丈夫なのだろうか……などと余計な心配でしょうか?

「この部品って、どの部品?」の解決はS-BOMで!

本コラムを愛読されている方は既に気づかれていると思いますが、保守ビジネス(保守事業)に関しては50回から53回に分けて、そのコンセプトとビジネスに対する考え方は述べています。ここには私の基本的な考え方としてS-BOM構築を軸に「攻める保守ビジネスとは」を提案したつもりです。

第50回 「保守ビジネスを考える」 その1
第51回 「保守ビジネスを考える」 その2
第52回 「保守ビジネスを考える」 その3
第53回 「保守ビジネスを考える」 その4

なぜ再度取り上げたか?と言いますと、コンサル現場で相変わらず保守ビジネスで儲かっていないどころか、損をしているのではないか?と感じる会社が多いからです。

経営層が相も変わらず保守事業を「オマケ」程度に考えて積極的に儲けを追及しない結果、「待ちの保守ビジネス」の典型を見ることになります。そして、「この部品って、どの部品?」という部品探しのとばっちりを設計部門が食う羽目になります。その結果、貴重な設計工数を失っていくのです。

「設計工数足りません!」と嘆く前に「ここの辺り何とかしませんか?」と言いたくなるのです。「まだそのような事をやらせているのですか?経営者の皆さん!」と少々語気が荒くなるのです。

さらに、これからの保守ビジネスは大きくその形を変えて行くと考えています。従って、一刻も早く「攻めの保守ビジネス体制」に変える必要があると思うのです。その為の再度の問題提起なのです。

IoTが保守ビジネスを大きく変える!

今までの保守ビジネスは「製品の不具合」がその起点でした。「不具合が出た。原因は?部品は?」という順番でしょうか。

よっぽど先進性のあるお客様の保守部門でない限り「予見される不具合を前もってメンテナンスする」などということは無いでしょう。

ところがその「保守予見」をこれからはIoTが可能とすることになるのです。すぐそこまで、その可能性は来ていると感じています。
その証拠に、今年に入って多くの展示会に具体的なIoTを利用した「保守予見」を可能とするツール、アルゴリズム、I/Oインターフェイスを見ることができました。

確かにいまだに開びゃく期でありますが、お客様に売ってしまった製品の稼働実態は今までは闇の中でしたが、もはやIoTがその実態を明るく照らし出すことでしょう。もっともお客様によっては、稼働実態を明らかにしたくないという内実も存在するかもしれませんが、「不具合の予見を取るのか諦めるのか」という選択はお客様側も迫られるわけです。

従って、「予見」のノウハウは一刻も早く開発すべきアイテムですし、その開発をコンサルで預かっている会社には勧めています。

例えば、回転系の保守予見のプロセスとしては……(少し専門的になりますが)
回転系が発生する機械的振動、音響的ノイズ等をセンサーから時間軸電気信号として取り出しA/D変換、FFT(フーリエ変換)を経て周波数軸のスペクトラムを得ます。その情報から保守予見を判断することになりますが、まずは、その情報を御社の「保守ビジネスサーバー」で集約することになります。

課題は大きく三つ

  1. どのスペクトラムがどの程度の強さで立ったら不具合が発生するのか?の判断基準確立。
  2. いかに不要な時間軸信号をフィルタリングしてA/D後の情報量を減らすか?(=)FFTプロセス時間・情報トラフィック量低減に直結
  3. どのように保守ビジネスサーバーに情報転送・集約するのか?

この辺りのテクノロジーは全て製品を設計している会社の大切な「保守予見ノウハウ」となる訳です。
そのノウハウの確立で「そろそろこの回転軸系のメンテ時期だな」という貴重な予見情報を得ることができるのです。

エッジ・コンピューターと攻めの保守予見ビジネス

先の課題解決も含め、エッジ・コンピューターという考え方がIoTを支えます。皆さんが普段使っているスマホはまさにその典型。
一番フロントエンドにあるコンピューターをこう呼びます。先ほどの例で言えば信号をデジタル処理したり情報を転送したりするのがエッジ・コンピューターの役目ということになります。

従って、できるだけ多くの保守予見情報を得るためには安価なセンサーや安価なエッジ・コンピューターが不可欠になります。製品本体価格よりIoT系価格の方が高いなどということになってしまわないようにです。

個人的な嗜好かもしれませんが少し前からラズベリーパイ(愛称ラズパイ)というボードコンピューターが売られています。ちゃんとOSも載っていてアプリも組めます。何と3千円程度で買える優れものです。IoTのフロントエンド用エッジ・コンピューターとしては最適かもしれません。

高価なPLCのモジュールを使っていては価格競争力が厳しくなるでしょう。如何に安価にIoTを実現するかは大切なテーマです。

保守予見情報が的確に把握できれば、正に「攻めの保守ビジネスが」可能になります。製品の不具合を「未然に防ぐ」という最も高付加価値な保守をお客様に提供できるようになると思います。

そうです。この保守予見情報こそが「最も儲かる保守ビジネス」の基本となって行くでしょう。
「年間保守予見情報料」を頂きながら情報と保守部品をタイムリーにお客様に提供・販売するイメージのビジネスです。
ある意味、マッチポンプ型の「おいしい」ビジネスモデルになり得る予感もあります。

兎に角、未だに「この部品って、どの部品?」などと探し回っているのであれば一刻も早くまずはS-BOM構築を始めて、保守予見ビジネスの世界に移行できるような体制に変革していくべきだと考えています。
保守ビジネスの変革はすぐそこまで来ているのです!

3回に渡って「保守ビジネス考」を再度述べてみました。「保守」という受け身のイメージが漂う中で、ここに攻めのビジネススキームが展開されて行く予感がする今日この頃です。

以上

次回は7月5日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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