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第31回 タイムスタンプ発行半期で1億件超え
タイムスタンプの発行数が半期で1億を超えました。どのようなシーンで利用されているのかを紹介します。
タイムスタンプ発行半期で1億件超え
タイムスタンプ、発行1億件 電子文書に打刻、非改ざん証明
これは、2018年9月3日付日本経済新聞に掲載された記事の見出しです。
タイムスタンプ、発行1億件 電子文書に打刻、非改ざん証明(2018年9月3日付日本経済新聞|朝刊)
タイムビジネス信頼・安心認定制度に基づいて認証業務を実施している日本データ通信協会が発表した情報に基づいた記事ですね。
2018年1~6月の発行件数は1億700万件で、前年同期28%増です。
単純平均で、毎日60万発のタイムスタンプが発行されていることになります。
今回は、タイムスタンプ認定事業者としまして
どのようなところで利用されているのかを紹介したいと思います。
図1が、セイコーソリューションズ株式会社(以下、当社)の発行数推移です。
具体的な数は控えさせていただきますが、この図では、発行数の伸びを確認ください。
図2が、当社が提供している主な市場での分類による発行数比率です。
世の中が、デジタル社会になり、その情報の信頼性担保に関して関心が高まってきていることを確認いただければと思います。
タイムスタンプ=e-確定時刻
それでは、あらためましてタイムスタンプについて復習です。
タイムスタンプは、
- 電子データが付された時刻に存在していたこと
- 付された時刻以降において、改ざんされていないこと
を将来確認できるサービスです。
タイムスタンプは、デジタル情報が容易に改ざん・ねつ造ができてしまうことと、そのため情報の否認がされてしまうというリスクを回避するための、デジタル情報の存在を証明できるサービスです。
その特徴として
- 第三者が付与する
- 対象情報を秘匿してタイムスタンプを付与できる
- インターネット接続環境があればいつでもどこからでも取得できる
- 国際標準に準拠しているので、将来にわたって安心して利用できる
- 何度でも検証できる
が挙げられます。
デジタルならではの、紙社会ではできない利便性に富んだサービスですね。
ところで
タイムスタンプというネーミングからか、郵便の消印のように思われたり、ログなどに付されている単なる時刻と勘違いされたりして、説明に苦慮することがよくあります。
さらに、当社のような時計メーカーが提供しているため、
秒単位で競われる世界での精度を示すために使われると思われるかもしれません。
もちろん、タイムスタンプは前後関係の確認や証明で利用できますが
100メートル競走のような時間計測の精度を示すものではありません。
タイムスタンプは、
将来において、対象のデジタル情報が確かに存在していたことを証明するための
「e-確定時刻」であり、物理的には「0、1」のデジタル情報です。
実際に利用されるシーンとして
タイムスタンプだけで利用される場合と、
電子署名と併用して利用される真電子署名(Advanced E-Signature:長期署名)の場合があります。
真電子署名=長期署名は、以前のコラムを参照ください。
それでは、当社の把握している利用シーンを紹介しましょう。
医療情報
電子カルテのような、デジタル医療情報の真正性を担保するために利用されることは、どなたもイメージできると思われますが、実際には、デジタル情報に限らず、紙原本の電子化での利用もされています。
医療現場においては、診療以外に費やす時間の削減や個人情報管理の面から、全部電子化が望ましいのですが、どうしても個人とのやりとりが発生するため、同意書、紹介状などの重要書類は、紙での運用になっています。
患者さんの診療情報は、ほぼデジタルデータなので、これらの情報とひも付けをしたうえで紙情報も超長期の保管に対応することが求められます。
超長期の紙状態での保管は、滅失・紛失を防ぎ、究極の個人情報である医療情報の漏えいリスクのため、管理コストがかさみます。
さらに、単純に電子化しただけでは、改ざん・ねつ造、および、それらに伴う相手否認などのリスクがあります。
これらの重要情報は、いざという時の訴訟対応がとても重要です。
医療を実施した日時より、相当な期間を経てこれらの情報が必要になる可能性があるためほぼ、半永久的に、これらの情報は完全な状態で安全に保管されることが求められるのです。
このため、紙の状態をスキャナで電子化した時点でe-確定時刻を付すことで完全性を担保しシステムに取り込まれて利用されています。
また、医療情報では、病院内に限らず、処方箋や、健康診断における問診票や受診票の電子化などでの利用も始まっています。
電子帳簿保存法スキャナ保存
領収書や請求書など、法人税法や所得税法などで保存が義務づけられている国税関係書類(紙面)を、スキャンして電子データで保存するシーンです。
電子帳簿保存法施行規則の要件に従って実施することで、管理の大変な紙面を廃棄して電子データに替えて保存することができます。
2017年度の承認件数は、1,846件まで増えてきています。
電子取引
電子取引は、電子帳簿保存法第二条で、
「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」
と規定されています。
電子データの授受によって行われる取引は、通信の手段を問わず、すべからく該当します。
このコラムでの分類として
国税関係のエビデンス情報に限らず、電子データによる証書などの重要情報の授受も含みます。
電子データのやりとりでは、必ず一方のシステムから外部へ情報が出力されますので、システムでその完全性を担保することができません。
このため、対象情報の完全性を担保するために、簡単に利用できる「e-確定時刻」が活用されています。
また、契約書の場合は、誰がいつどのような内容で合意したかを将来にわたって担保するため電子署名と併用する長期署名での利用が一般的です。
最近では、高額な住宅ローンの契約などにも電子契約が利用されるようになってきました。
知財保護
「e-確定時刻」は、元データを秘匿して、その情報が存在していたことを証明できることから、サービスが提供されはじめた21世紀初頭から、先使用権の確保などの目的で、知的財産の保護に利用されています。
ただ、サービスの歴史が比較的新しいことから国内での判例が無く、法的な根拠が無いことから、いざ、導入となると躊躇(ちゅうちょ)されるケースもあります。
特に、日本の民間事業者が提供しているタイムスタンプが、海外で通用するか? といった難しい課題もあり、今後、国際的な視野で、日本国の技術保護戦略として検討していくことが望まれます。
例えば、中国では、着実にタイムスタンプの利用が広がっています。
中国裁判文書網の検索では、タイムスタンプは2015年以降増加しており、全部で2,000件を超す状態となっています。
主に、著作権の保護に利用されているようです。
今後、双方の国において、相手国のタイムスタンプを付された証拠が提示される日も近い将来にあることでしょう。
日本のタイムスタンプと中国のタイムスタンプ、それぞれの技術、運用などの基準および法的根拠について相互承認を早期に推進することが望まれます。
建築関連
建築関連での利用は、まだ始まったばかりです。
建築士法やe-文書法が、複雑であったことと、解釈に誤解があったことから、なかなか電子化が進まず、紙による設計図書保管が主流です。
しかし、国土交通省より住宅局通知(国住指)が発出され、建築確認申請における電子化が推進されJIIMAからも建築士法における電子化ガイドラインが発行され、じわじわとご利用が増えてきている状況です。
もともとデジタルで図面作成しているものを、わざわざ紙に印刷して建築士が押印をしているといったワークフローも今後は、デジタルでの一気通貫での管理になることは、働き方改革のうえでも自然の流れと思います。
まとめ
今回は、タイムスタンプの利用数推移からデジタル化の実態を、ご紹介しました。
デジタルデータによる文化の変革が、着実に始まっています。
情報の生い立ちから流通、扱い方が、全く異なるアナログの社会から、デジタル社会への変遷において、ヒトは、どうしても過度に恐れたり、過度に甘く見たりしがちです。
それは、連綿と築きあげられてきたアナログ社会に比べて、急激に立ち上がったデジタル社会において、その信頼=トラストを判断するクライテリア(基準)が不確かだからなのでしょう。
トラストについては、以前に2回、私なりの整理を記載しました。参照いただければと思います。
デジタルデータの信頼性担保は、インターネットの発展とともに早くから技術的に安心して利用するべく国際標準が整備されてきました。
しかしながら、ユーザーはその技術を利用したサービスを利用することになるのですが、その運用基準とか法的な観点では、まだまだ未整備です。
例えば、我が国においては、法律としては、電子署名法や電子帳簿保存法施行規則といった限られたものしか存在せず、補完として各種ガイドラインなどに記載されることで、一定程度の信頼を担保しています。
EUで制定されたeIDAS規則のように、我が国でもユーザーがそのリスクを認知したうえで、安心して選択できるトラストサービスの見える化を実現することが望まれますね。
次回は2月12日(火)更新予定です。
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