第177回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その99~N社全社効率改善改革の社内資料を共有します その2モチベーションプランニング編
中小中堅製造業を取り巻く環境は待ったなし! で生き残りへの改革を迫ってきます。効率改善改革に挑むN社の社内資料公開の許しを得ましたので、共有します。悩める製造業の改革への気づきとなることを望みます。今回は、その2として、「なぜ改革を行うのか?」という働きかけと改革の「やる気の創生」に焦点を当てます。非常に重要な経営層マターです。
設計部門BOM改善コンサルの現場から~その99~N社全社効率改善改革の社内資料を共有します その2モチベーションプランニング編
立山の室堂に久しぶりに訪れてみました。立山黒部アルペンルートで有名ですが、今回の目的は「ホテル立山」が宿泊営業を終了するとのことで見納めです。社会人になったころ、工場が安曇野にあって、何度か泊まった記憶です(約半世紀前!)。
日本を代表する山岳ホテルと認識していましたが、なにより「日本で一番酒が効くホテル」と聞いたことがあります。確かに酸素が薄い室堂(標高2,450m)ですから過飲は禁物です。と申しますか、何度か痛い目を見た思い出があります。
スマドリ派になって、痛い目さえ忘却のかなたです。宿泊営業終了を前に時の流れを感じさせる外観を見ると、何となく自分の写し鏡のようで「お疲れさまでした」とつぶやいてきました。
経営層の改革への覚悟は決まったが改革実行の主体である社員をどのように導くべきか……?
前回で紹介した事例の続きとして「その2」として進めていきましょう。
第176回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その98~N社全社効率改善改革の社内資料を共有します その1アプローチ編
N社の経営層が行った
- 中期経営計画
- 現状否定に向けた自社現状解析
といった改革へのアプローチを行い、それに伴う覚悟が経営層として決断されたとしても、次に待ち構えている壁とは何か? そしてそれをいかに乗り越えていくのか? いきなり難題です。
まずはその壁をしっかり認識しましょう。
その壁とは、改革実行の主体であるPJ(プロジェクト)メンバーや社員に対し、「なぜ改革をするのか?」「改革によって会社がどのように変わり、どのように職場環境が改善されるのか=自分たちのメリットになるのか」を知らしめ、説明することです。そのうえで、これらを理解してもらい、「改革を成就させて全社員の生活を豊かにしていこう!」という動機付けを行うことを意味します。
これを私は「やる気の創生=モチベーションプランニング」と呼んでいます。経営層マターとして大変重要ですし、それ故、難度が高いテーマでもあるわけです。
「通常業務でさえなかなかやる気になってもらえないのに、改革実行のやる気なんて……」とここで弱音を吐いてしまえば経営層失格です。
この辺りを丁寧に対応することなく、例えば「業務命令」的な作法で上意下達にしてしまうと、社員の反応は
「何か会社が改革するんだって、社長意気込んでいたけれど……」
「面倒な仕事が増えそうだな。またPJが増えるのかな?」
「やったふりをしていれば、そのうち、うやむやになるよ。前回もそうだったし……」
となり、結局、改革は水泡に帰しかねません。残念ながら私は、この顛末(てんまつ)をドキュメンタリー映画として何度となく見せられてきました。
改革へのモチベーションプランニングという「やる気の創生」は、改革に必要な社員の負荷増加の存在を認識してもらい、かつ理解してもらうことなのです。
私はよく山登りに例えます。山登りと聞いてまず社員は「登山って、何かきつくないかな?」「登頂すれば何か良いことあるのかな?」と考えるでしょう。
これで負荷の認識まではできます。問題は「どの山に登り、なぜその山を選択したのか?」です。経営層は「富士山」に登るつもりでも、社員は「高尾山」の認識では困ります。登り方も重要なテーマです。直登頂なのか巻き道登頂なのか? この辺りまでの理解が及べば、社員はおおむねの負荷を想定することができるでしょう。
そして、その登頂結果としてのリワードもしっかり経営ビジョンとして説明すべきと考えています。
「こんなに良いことが起きます」
「なんだかなーーという疲弊仕事がなくなります」
「会社がもうかります。給料が上がります! ボーナス出まーす!」
等々、ここは経営手腕の見せ所です。「社員にメリットを感じてもらえる」ことは当然です。しかし、「社員の人生そのものである会社ライフを豊かにしたい。そのための改革です」という経営層の思いはぜひ伝えてほしいと思います。
その意味で、何度も言いますが、上意下達、一方向伝達は避けるべきです。
今まで実行した試行錯誤を共有して反省する=なぜうまくいかなかったのか? 定着しなかったのか?=失敗の研究
N社は現在まで何もチャレンジしなかったわけではありません。世の中の流れとしてのDXというトレンドに無反応に終始することなく、それなりに対応して、少しでも業務効率を高めるために努力をしてきたわけです。全体としての大きな反省点は全社的に対応できたのか? というポイントと、AIなどの流行・トレンドに流されてやみくもに導入してしまわなかったか? ということです。
DXに関わる仕組みの導入についても部門ごとに任せた結果、部門最適には近づきますが、部門間連携も含めた全体最適という全社効率改善に直結する結果に結びついていないことが反省としての骨子でしょう。
「全体最適=全社一気通貫のDX」ということになりますが、その前にN社の経営層は社員に理解できる形で「現状分析」という反省への一石を投じ、経営層自ら「失敗の研究」を恐れず実行したことです。

失敗の研究結果、つまり、なぜうまくいかなかったのか? を端的にまとめて、その主体原因を
- 共通認識は工事番号のみ
- 属人化した業務共通認識は工事番号のみ
- 図面が唯一の情報源
の三つに絞ったことは素晴らしいと思います。なにより社員にも分かりやすく、改革への「予告編」としてのキーワードになると考えるからです。
工事番号という「檻(おり)」から部品・ユニットを解放する
一品一仕様設備製造業にとって工番(工事番号)は便利なコード体系で「必須」になっている会社が多いと思います。その場合、部品購買、仕掛在庫、そして、それにかかる原価、工数等々「なんでも放り込む便利なバケツ」として存在しています。
N社の場合、改革の最終目標は流用化・標準化設計の実現ですから、まずはこの「便利なバケツ」の弊害の認識から始めました。工事番号そのものの存在を否定するものではありません。しかし、流用化・標準化設計という視点から見ると、その存在は大変危ういのです。愛読者各位は既に理解していると思いますが、多くの場合、「工事番号が異なる=別の製品」という扱いになります。
製品Xの工事番号○○○○
製品Yの工事番号△△△△
BOM体系が確立していない場合、製品XとYとの類似性、共通性は唯一の情報源である図面と部品表(買い物リスト)とを比較しない限り判明しません。工事番号が異なることで別の製品と認識されがちなのです。まして、設計者が異なる場合、類似部品やユニットを新規設計したとしてもその存在に気付くことはできません。
類似、たとえ同一部品であっても工事番号が異なり、その傘下の部品・ユニットを新規設計して
工事番号○○○○-01 部品・ユニットA
工事番号△△△△-01 部品・ユニットA
と図番を新規登録された瞬間からこれら二つの部品・ユニットはおのおのの工事番号という「檻(おり)」に閉じ込められてしまうのです。
工事番号××××の設計担当者が上記部品・ユニットの存在に気付くことはなく、もちろん検索するための工数的猶予もないままに類似部品・ユニットの再生産が綿々と繰り返されてしまいます。全ては部品・ユニットが工事番号という「檻」の中に閉じ込められているからなのです……
結果として、出図後に購買部門から「工事番号○○○○と工事番号△△△△に類似部品、ユニットが存在しているのだが……」
と指摘されたり、外注から「類似部品が多くあるけれど大丈夫?」と言われたりするという顛末を招くわけです。
つまり、工事番号は管理するためのバケツとしては便利ですが、部品・ユニットにとっては「檻」そのものといえます。こうして、N社経営層は、この工事番号のみの管理からの脱却を図ることの重要性に気付きました。
N社が社員に分かりやすく説明するために作成した資料

正直言って、私はこの資料を見せてもらった直後、開口一番「この資料使わせてください」でした。
- 工事番号の弊害とはどういうことなのか?
- 品目コードという一意の認識コード体系とBOM構築によって部品やユニットの共有が可能となり、流用化・標準化設計を実現できる
これらを見開き一枚に表現した、密度が高く、かつ理解しやすい素晴らしい資料であると思います。
工事番号に続く第二の全社共通言語は品目コード体系
工事番号がもたらす功罪は述べたとおりです。前項でも説明したとおり、新たなコード体系が必須であるとしました。そのコード体系とは一意の認識を可能とするコード体系であり、その必要性を説明する資料を経営層自ら作成しました。

シンプルながらも「なぜ品目コードなのか?」を的確に説明しています。
もう一つ重要なのは「図面主義からBOM主義への変革」を図るわけです。従って、図番という図面を指し示すコードはあくまで「モノを指し示す一意の品目コードの従属情報なのだ」との理解が重要なのです。図面主義という環境に長年漬かっていると、案外この辺りの意識改革に時間を要します。そのため、この辺りをこの資料は手厚く説明しているといえるでしょう。
社員やPJメンバーに対し改革の目的を上手に咀嚼(そしゃく)しながら理解させていくプロセスで最も効果的な手法は経営層自ら行うことであり、それが理想です。
私が言うのもはばかられますが、私が行う「地ならしコンサルタント」は経営層に代わってそれらを実行するものです。この場合、典型的な流れとして経営層から「改革したいから社員やPJメンバーに対して、やる気になるように、うまく説得してください。よろしく!」という思惑が漂います。ビジネスですから私も喜んで(?)引き受けますが「違和感」は拭えないというのが本音です。
これとN社の事例とを比べると大きな違いを感じてもらえると思います。
自社を一番知っている経営層自らの理解と導きが改革に最も有効な要素です。私の役割は、それらの導きに対し一般論の第三者としての視点をもって、支援すること。それにより改革をうまく進捗(しんちょく)させることができるのではないかと考えています。
次回もモチベーションプランニングの続きとして「このようなプロセスで行いたい。そして、その理由は……」
「今後の全社的な展開」等々、少し長い視点での経営層的展望について述べたいと思います。
次回は10月2日(金)の更新予定です。
書籍ご案内
当コラムをまとめた書籍『中小企業だからこそできる BOMで会社の利益体質を改善しよう!』とその第二弾としての新刊『BOMで実践!設計部門改革バイブル 中小中堅製造業の生き残る道』を日刊工業新聞社から出版しています。
BOM構築によって中小企業が強い企業に生まれ変わる具体策とコツをご提案しています。
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