第170回 円安が止まらない! 中小中堅製造業はどう考えるべきか?

因果関係としての説明はさておき、円安が止まりません。特定通貨安ではなく全面安です。この円安トレンドの中、中小中堅製造業は大きな経営判断を迫られることになります。どのように考えるべきでしょうか?

円安が止まらない! 中小中堅製造業はどう考えるべきか?

2月にアップするコラム原稿をしたためている時の景色は、決まってお正月ということになります。
もう十数回同じような景色を眺めながらの筆運びです。しかし、今年はスマドリ派になって二度目の正月となり、スマドリ派にも馴染(なじ)んできたように思います。アルコールという解毒が必要な物質を摂取しなくなっているからでしょうか、いろいろな体内数値が改善されています。これも、お年玉でしょうか?

価値が半分になるなんて!

私は$(US)=¥80という時代を製造業の一員として経験しました。当時のテレビで放映していた栄養ドリンクのCMに「24時間戦えますか?」という、今時では考えられないようなキャッチコピーが流れていたことを覚えています。今思えば「そりゃー24時間働きづめだったらGDPも稼げるよな~~~」とつぶやいてしまいますが、とにもかくにも、その当時と比べて円の価値が対US$で半分になってしまったわけです。

今までも時々述べているように、「$=¥80時代」「Japan as No.1」との評価に製造業ニッポンとしての存在を謳歌(おうか)していました。世界競争力もトップ3を常に争い、製造業全体が自信に満ち溢(あふ)れていたと思います。

円が高いわけですから、製造業ニッポンが生み出す製品の価格は「高価」でした。
しかし、「Made in Japanは高価だが品質が良い」という評判が先立ち、まさに理想的な付加価値のあり方でした。当時の他のアジア圏製品を製造業ニッポンは「安かろう悪かろうです」と見下していたのも事実です。
これ以上のボヤキ? は老人の懐古趣味と言われそうですが、一体どうしてこのような現状になってしまったのでしょうか?

円安の因果関係の解説は経済評論家に任せるとしても、一介の中小中堅製造業がコントロールできる範疇(はんちゅう)ではないことは、みなさん同意されるところだと思います。そして、この円安トレンドは構造的要因もあってしばらく継続すると私は考えています。
従って、この現実の中で生き残るための経営方針を策定する必要が早急に求められているわけです。それも生半可な方針転換では価値が半分になった円安には対応できないと思います。

円安環境を味方につけることができるのか? その1

製造業の視点から現状を考えて、あえて私見を述べてみます。

論点は二つ。

まずは1点目……
非常にシンプルに考えて、円安なのですから「輸出=外貨を稼ぐ」方針を考えるべきでしょう。

「インバウンド産業」も外貨を稼ぐという意味では同等ですが、ビジネス形態として製造業の延長線上には考えられません。一方で、全方位経営として「観光産業」にチャレンジすること自体は意義があります。ただし、本コラムはあくまで製造業目線で貫きたいため、ここでは論じません。
加えて、少しロングタームな視点ですが、明らかな人口減少による国内市場縮小が想定されることも併せて、海外に市場を求める(=輸出)という方針転換への考察は経営者マターと断言できます。

かつて「Made in Japanは高価だが品質が良い」と言われていたものが、相対的に「安価で品質が良い」という状況になったわけですから、これは商機と捉えるべきです。しかし、物事はそんなに安易ではなく、難題が横たわっています。
それは、他のアジア圏の製品も「安価で品質が良い」ということです。

そればかりではなく、よくこのような比較をされます。

  • Made in Japan:「100点の品質だが納期が長い」
  • アジア圏製品:「80点の品質だが納期が短い」

この比較表現は製造業ニッポンの最弱点を突いていると思います。
まず、前提として80点の品質ということは大多数が満足するということです。もちろん、100点を求める需要は存在すると思いますが、差としての20点と納期の長短とを比較され、アジア圏製品を選択されてしまう場合が多いのです。加えて、100点を必要とする需要も80点のアジア圏製品との比較によって、価格にも下げ圧力が高まることになります。

特に納期、つまり時間という付加価値が「スピード感という評価軸で試されている」という気づきは重要です。
その意味からしてもQCD(品質・価格・納期)改善はまさに三位一体であり、製造業ニッポンの生き残り策の肝として存在します。しかし、残念ながらD(納期=スピード)が設計から生産までの全社効率の悪さが主因となって、アジア圏から大きく後れを取っているのが現状です。

再述しますが、「納期が長い」という評価の根本原因は「効率の悪さ」です。
製造業ニッポンの非効率は海外取材を重ねながら本コラムで何度も述べているとおり、世界標準から比べて周回遅れのテーマです。
円安にせかされて、ようやく「ECM(エンジニアリングチェーンマネジメント)+SCM(サプライチェーンマネジメント)をDXに支援してもらって実行しよう」という機運は感じられますが、周回遅れのテーマがそんなに早く挽回できるわけではありません。

さらに頭の痛い問題は「海外対応要員不足」です。
黙っていても海外で売れていた時代の記憶から脱却ができず、「攻めの海外展開」という発想をしてこなかった中小中堅製造業が急に輸出に方向転換を図っても実際がついていきません。AIの活用もあって資料・書類の用意はできたとしても、需要諸外国とのコミュニケーションや信頼関係構築はやはり人間業の部類でしょう。

一方、中小中堅製造業であっても海外工場(現法)を既に稼働させている事例も存在します。
当初のもくろみはコストダウンであったと考えます。しかし、このもくろみも円安という現実によって崩壊しているわけです。しかし、生産部門の人材確保という視点では国内工場の人材不足を補うことができますので、結果として日本の人口減へのリスクヘッジにはなっています。その意味では当初の経営判断が報われていると考えます。

いずれにしても「これから人材を育てて」などと悠長なことは言っていられないわけで、対応するマーケット(国)に応じた現地人材(外国人)の採用も真剣に考えていくべきでしょう。日本の人口が毎年約100万人の自然減が想定される中、この問題に即効性をもって対応できる手段は限られているということです。
地道に「全方位ジョブローテーションや海外展開」を重ねて人材を磨いてきた中小中堅製造業も存在する中で、ここは経営者としての先見性とマネジメント力が試されるステージです。

円安環境を味方につけることができるのか? その2

2点目は……
結論から述べれば、それは製品値上げです。
円安の影響を受けて「絶賛インフレニッポン」です。そして、製造業として必須の原材料の値上げも同様に起こって購入価格を押し上げています。さらに労務費も「インフレに負けない賃上げを」という圧力を無視できず、頑張るしかありません。

おのずとこれらによって製造総原価は間接費用も併せて上昇していき、放置すれば「もうからない製造業」への転落です。従って、躊躇(ちゅうちょ)なく製品売価の値上げを行うべきなのです。しかし、「アジア圏の競合製品との価格競合の範囲内で」という条件と、「アジア圏の競合製品の(開発・生産)納期のスピードに負けない」という条件がつきます。
いずれの条件も容易ではありませんが、特に、後者の「スピード(=全社効率)との戦い」に関しては相当の苦戦を強いられると考えています。

これら二つの論点の行きつく問題点の主体は「中小中堅製造業ニッポンの非効率」ということになります。その意味においても「ECM+SCMのDX支援による改善」を一刻も早く始めて、周回遅れを取り戻すことです。
全社効率の究極の形である「少数精鋭」を目指す必要性をこの辺りからも捉えるべきです。そして、その具体策である「わが社としてのECM+SCMの実行とそれを支援するDXのあり方」を経営計画として一刻も早く策定してください。

以上

次回は3月6日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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