第172回 実践ソリューションフェア2026報告~その2~

当社大塚商会最大の催事である実践ソリューションフェアにて、セミナー講師および個別相談に対応しました。中小中堅製造業の設計部門改革への機運の高まりは感じることができましたが、その一方で、改革前の意識や考え方の統一を図ることが急務と感じました。前回の~その1~に続いて「技術基準のすり合わせ」について深掘りします。

実践ソリューションフェア2026報告~その2~

花粉の猛威を感じる季節です。スギからヒノキへと波状攻撃で襲ってきます。とはいえ朗報もあって、今年は花粉症の症状が例年になく軽めなのです。主治医に「薬が良くなったせいですか?」と質問したら、「(あなたは)酒をやめたおかげです」とのこと。「アルコールによる毛細血管の異常拡張がなくなって、炎症が軽く済むのです」との説明でした。
ウーム! スマドリ派転向へのご褒美がこんなところにあったとは……

設計部門の内部意思疎通の具体的な例を考える

まずは前回の「実践ソリューションフェア2026報告~その1~」を再読して問題提起としての意味合いを理解していただければと思います。

第171回 実践ソリューションフェア2026報告~その1~

蛸壺(たこつぼ)設計のまま現状まで来てしまった設計部門に、いきなり「内部意思疎通をしてください」と願っても、「それってどういうこと?」「何をどうやってやるの?」という基本的な疑問噴出で、出鼻をくじかれることになるでしょう。
「誰も助けてあげられない、誰も助けられない」という孤立無援の蛸壺設計という世界に生存していた設計者にとって、設計者同士での意思疎通や、まして技術情報の共有に割く時間は「余計な仕事」と感じられてしまいます。

私の口癖である「設計者は自分のメリットにならないことは絶対にやらない」のとおり、「余計な仕事」は続かないのです。そもそも始まらないと思います。その余計な仕事に対して、どのようにメリットを感じてもらえる仕事にしていくのか?
この辺りが肝なのだと考えています。

まずは遠い目標として、「流用化・標準化設計環境にして類似設計や使い捨て図面をなくせば、設計が楽になります」というスローガンを掲げることはもちろん重要かつ必須なのですが、「まぁー言っていることは分かるけど……」という反応になりがちでしょう。遠くの目標に至るための過程を考えて、もう少し近くに現実的な目標と段階的な行動の計画を立案していく必要があります。

同じ会社の同じ設計部門の設計者同士になるために=流用化・標準化設計への始めの一歩

お預かりした製造業の皆さんはもれなく同じ作業服を着用しています。もちろん、設計部門の皆さんも同様です。しかし、その同じ作業着をまとっている設計者同士の技術基準はバラバラで認識も異なっています。
作業着によって外見は同様に見えるのですが、中身(技術基準は)バラバラで同じ会社の同じ設計部門の設計者同士とは思えない状態です。なぜバラバラなのかといえば、「蛸壺設計」の結果、壺ごと(=設計者ごと)の技術基準が定着してしまうからです。

では、そもそも技術基準とは何でしょうか?
一例を挙げます。
「ピン・コロ・シャフトの分別基準は何か?」という命題を与えて討議してもらうと、そのバラバラ感があらわになります。

A氏:直径と長さで決めている。でもその分別基準はなんとなく……
B氏:用途で決めている。その用途の識別基準はなんとなく……
C氏:全部「丸棒」としている。何か問題でも?……

等々、設計者の数だけ個別な技術基準が表明されます。基礎部品の典型であるピン・コロ・シャフトでこの状態ですから、複雑な機能部品や技術部品に至っては想像に難くありません。

さらに悩みの種は、その技術基準を同一にする必要性をなかなか認めてもらえないことです。B氏いわく「A氏の基準を認めることは私の技術的見識が負けたことになる!」と強硬な姿勢を崩しません。「これって勝ち負けの問題でしょうか?」ということから私の説得は始まります。しかし、思いのほか苦労するのです。
設計者同士の技量の競い合いは健全な動向ですし、設計部門全体の技量アップの原動力につながることは認めますが、基本的な土台となる技術基準が存在することが条件です。

まして、この例のような基礎部品に関わる技術基準の競い合いは意味があるとは思いません。同じ作業着を着て外見は同じだが、技術基準がバラバラの設計者たち……
蛸壺設計の罪深い一面をあらためて感じます。

まずは基礎部品の技術的な認識を合わせる

それでも、喧々囂々(けんけんごうごう)多くの討議時間を経て設計者自身が徐々に蛸壺設計の弊害に気づきを持ちはじめます。そして、設計が楽になる流用化・標準化設計へのプロセスなのだという理解にまで至ると、少しずつですが基準のすり合わせが進捗(しんちょく)します。これは技術的コミュニケーションスキルが身についてきたという証しでもあります。

ある会社の基礎部品の技術基準に対する検討結果を挙げます。大変参考になると思います。この会社はプロジェクトリーダーが強いリーダーシップを発揮して、このような好例を作ってくれました。もちろん、技術基準は同社に適合したものであって、その基準は製品、モノつくり過程がそれぞれ異なる各社各様であるべきです。しかし、考え方として大変参考になると思います。
図を見てもらえれば意味合いは理解できると思いますが、簡単に説明します。

シャフトとピンの分類基準

  • L(長さ)とD(直径)の比=L/Dで分類

パイプ、カラー、ワッシャー、シムの分類基準

  • パイプ、カラーとワッシャーとシムの3群をLによって大分類
  • パイプとカラーはL/Dによって中分類
  • ワッシャーとシムは公差の有無で中分類

この会社でも、始めたころは蛸壺設計由来の「個人的関わり」が前面に出て、けんか腰とは言わないいまでも、まさに喧々囂々(けんけんごうごう)状態で私が何度もレフェリーストップをかけた記憶があります(笑)
しかし、「同じ会社の同じ設計部門の設計者がこんなに基礎部品への認識が異なるのか?」ということ実に驚き、同時に疑問を持ちはじめ、技術基準のすり合わせの重要性を徐々に理解してもらえるようになりました。そうなると、技術基準としてのすり合わせ作業は大きく進捗していきました。
予期せぬ相乗効果として、その結果を見て、下流側(生産側)のスタッフが「これからは部品名で混乱することがなくなりそうだ」と喜んでくれたことは大きな励みになりました。

しかし、この実例を見て「幾つあるのか分からない部品の技術基準を全てすり合わせていくことは作業的に厳しい」と感じるかもしれません。確かにそうでしょう。
従って、基礎部品に限定して実行するだけでも効果は十分あると思います。

蛸壺設計からの脱却の必要性や、流用化・標準化設計への移行に関わる設計者としての意識改革の具体的な訓練として、技術的コミュニケーションスキルの向上となるからです。「同じ会社の同じ設計部門の設計者同士」になるための過程という気づきです。これが大切なのです。
設計者同士の意思疎通なしに流用化・標準化設計は成就しないと何度も述べていますが、「どうやったら意思疎通が図れるのか?」という疑問に対し、この技術基準のすり合わせ過程が解答をもたらしてくれると考えています。

前回・今回と、当社大塚商会最大の催事で行ったセミナーに対する感想や事後のご相談から特に感じた事柄をまとめてみました。
「蛸壺設計」という中小中堅製造業の設計部門の現状を再認識せざるを得ないというのが本音ではありましたが、それでも「何とかしたい」という現状否定を多く感じる機会でもありました。「もう一押し」という感触です。
あらためて「もう少し頑張ってみよう!」と老体にむち打つのでした。

以上

次回は5月1日(金)の更新予定です。

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