第174回 生産部門側から設計部門側への改革提案は、なぜ難しいのか?

セミナー講演後に聴講者各位からいまだに寄せられる相談があります。「講演内容はわが社の実態そのものです。何度も設計部門に問題提起するのですが、のれんに腕押しです。何か策はないでしょうか?」by生産部長。この相談内容は、中小中堅製造業の設計部門改革の難しさを物語っています。その原因を考えてみましょう。

生産部門側から設計部門側への改革提案は、なぜ難しいのか?

今夏も猛暑が予想されているようです。「いよいよ三冷ホッピーの出番です!」という季語(?)から足を洗って二度目の季節到来です。
「時代はスマドリ派だ!」などと言えば、「どの口が言っているのか?」とヒンシュクを買いそうですが、スマドリ・ラインアップの充実ぶりは、やはりトレンドとしての存在を感じます。

旧友が言っていた「このトレンドの主因は若者のはけ口がアルコールからゲームになってきたからだ」との見方には、「そうかもしれない」と思わせるものがあります。それでも、はるか昔の学生時代、安酒を明け方まであおってベロベロになっていた自身の記憶とは大きく異なるのではありますが……

セミナー講演直後の「お決まり相談ごと」なのですが、故にその根深さを感じさせられるのです

久しぶりに東名阪以外の中核都市で「BOMによる流用化・標準化設計改革に関わる内容のセミナー」を実施しました。当都市は自動車産業の城下町という特質もあって、聴講者各位はホルムズ・ネックの影響をまともに受ける業態環境に置かれていると想像できます。

セミナー講師も数知れずこなしているのですが、Webセミナーという「間接セミナー」が増える中、やはり同じ空気を吸い、雰囲気を共有しながらの「リアルな対面セミナー」は共感を直接得られるという意味で、セミナー講師としての糧である聴講者からのフィードバックを直接得ることができます。

最も大きなメリットとしているのは、セミナーの直後に他の聴講者を気にせず「相談しても良いですか?」「はい、ぜひどうぞ!」という運びが可能なことです。「そっと聞ける」というシチュエーションは大事ですね(笑)
ただ、問題はその内容なのです……

「お決まりごと」と書いたように寸分違わずとは言わないまでも、その相談内容は同じ根っこを持ったものなのです。
私のセミナー講演内容に共感して「わが社の出来事だ」とまで感じ、「設計部門改革なしには現状改善はできない」と確信を持っていただけます。しかし、そこから先がどうもうまく運ばないという内容です。

「何度も設計部門や経営層に問題提起をしていて、理解はされているようなのですが、なかなか改革に結びつかない、実行されないのです」というお悩み相談です。

下流側、つまり生産部門は設計部門がアウトプットする設計成果物に対しては「あらがうこと」はできませんから、「いろいろな言い分があっても」尻拭い生産を強要され、実行しています。加えて、直近のホルムズ・ネックを主因とするモノ不足が招く部品納期遅れは生産部門にしわ寄せが来ることとなり、従って尻拭いプレッシャーは増すばかりです。

設計部門改革が行われない理由はしっかり存在するということです

「理解されているようだが改革に結びつかない」ということは、どこかにできない理由が存在するからです。それらは今までお預かりした多くの製造業に共通した理由といっても良いでしょう。
大雑把にですが、あえて分類してみます。

1.経営層(者)に本気の改革モチベーションが存在しない

経営層(者)ですから「昔はもうかっていたのに最近利益が出ない」という現状は理解していても、生き残りの可否に直結するような危機意識が希薄なままの状態では、改革は1mmも進展しません。会社の将来をかけて改革に今、臨む必要があるという全社のモチベーション・プランニングを中・長期経営計画と共に策定できない・しない状態です。

その意味で、中小中堅製造業の改革には、この経営層(者)のリーダーシップが必要十分条件なのです。
結果として、経営層(者)の改革へのモチベーション・プランニングが存在しない場合は、会社の存続も危ぶまれることになるでしょう。

2.設計部門が繁忙を極めている

下流側の尻拭い生産とはいっても、設計部門が時間的な余剰を持て余しているという状況は見たことがありません。ここに、いわば悲劇ともいえる「できない理由」の根本が存在しています。設計部門責任者の立場からこの改革を考えると「改革が必要なことは分かっているが、現状の繁忙の解消なしに、現実的な対応はできない」ということでしょう。

繁忙⇒改革不能⇒さらに繁忙を極めるという負のスパイラルに陥っている状態です。この負のスパイラルから設計部門を救う決断は、経営者(あえてトップ)しかできないのです。

前項(1項)に述べた経営層(者)のモチベーション・プランニング形成(=改革へのやる気の創生)ができた後に、設計部門スタッフへのモチベーション・プランニングを実施すべきです。この辺りは本コラムでも繰り返し述べています。下記リンクもご覧いただき、あらためてご一考ください。

10年以上前に述べたコラムですが、その当時と比較しても設計者としての思いは何も変わっていません。
逆に10年以上もたっているのに、いまだこの状態か……ため息交じりというのが本音です。

第5回 設計部門のモチベーション・プランニング

3.設計部門責任者が抵抗勢力

この場合は大変厄介なのですが、中小・中堅製造業で特にオーナー会社の場合、案外遭遇する機会が多いのも事実です。
オーナー社長(経営者)と設計責任者とが二人三脚で苦楽を共にしながら、四畳半サイズからここまで会社を大きくして来たという自負のようなものが存在して、なかなか現状否定ができない、しないという状態です。

今までの功績は認めるとしても、「次世代の設計者に見合った設計環境を構築しよう」という発想がないとすれば、将来に禍根を残すことになると思います。

例えば、最近は人材の流動性も手伝って、外界を知っている中途採用幹部を迎えられるケースがあります。その際、経営者から「大いに外界の空気を入れてほしい」と叱咤(しった)激励されるものの、その気になって「今の旧態依然とした設計部門を改革しない限り生き残れません」などと改革を促した途端に、設計部門責任者から抵抗されてしまうのです。
さらに設計部門責任者は旧知の関係を利用してオーナー社長に対して「そんな改革を実行したら設計部門が止まる」と脅迫(?)めいた進言をするのです。

悲しいかな、結果、社長がビビッて改革は頓挫、せっかく採用した中途採用幹部は退職してしまうという最悪の展開となってしまいます。残念ながら、このような見たくない景色を何度となく見てきました。
社長には、苦楽を共にした人材に対しても「泣いて馬謖(ばしょく)を切る」という行動を経営者マターとして促すことが私に残された最後の支援策です。さもないと預かる私自身も同社を去る結果となります。

この辺りは、いくら紙面があっても語りつくせない、表現しきれない部分ではあります。しかし、セミナーを実施する度に相談される内容にあまり変化がないということは、いまだ多くの中小・中堅製造業が同じ問題を抱えていると実感するのです。
「訴求の継続が必要」とあらためて実感させられるセミナー開催でした。

以上

次回は7月3日(金)の更新予定です。

書籍ご案内

当コラムをまとめた書籍『中小企業だからこそできる BOMで会社の利益体質を改善しよう!』とその第二弾としての新刊『BOMで実践!設計部門改革バイブル 中小中堅製造業の生き残る道』を日刊工業新聞社から出版しています。
BOM構築によって中小企業が強い企業に生まれ変わる具体策とコツをご提案しています。
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