第175回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その97~国内複数工場・海外工場と保守目線の本社との関係とは
中小中堅製造業であっても、国内複数工場や海外複数工場が生産拠点である場合、本社側で起きる最初の問題は「どれが正しい製品? 保守部品?」です。まして、品目コード体系が不完全な場合は混乱を極めます。具体的事例から、この問題を考えてみましょう。
設計部門BOM改善コンサルの現場から~その97~国内複数工場・海外工場と保守目線の本社との関係とは
暑い6月との予想でしたが、思いのほか、まっとうな(?)長雨の季節です。パラパラッ、パラパラッと断続的に降る五月雨を、ホッピーだけ(「外」だけ)を飲みながら眺めています。
「この五月雨出図が下流側を悩ませるんだよねー……」とブツブツ独り言です。
中小中堅製造業でも想像以上に多い複数工場。しかし管理不足による混乱とは……
円安やホルムズ・ネックと呼ばれるイラン情勢に関わる苦境が、中小中堅製造業のオペレーションを難しくしています。おのずと相談事も増えてきて、今更ながらに製造業としての管理の大切さを思い知らされます。特に難度の高い状況は、生産拠点(工場)が複数存在するケースです。
中小中堅製造業の場合、多数派としては単独生産工場であることは間違いではないのですが、思いのほか、複数工場を持っている場合が多く、その理由にはいろいろな経緯を聞きます。それらの理由は現在に至る歴史ですから、否定しても何も始まりませんが、紆余(うよ)曲折、さまざまな経緯を経て、結果として複数工場で生産することになったわけです。
その意味で、現状肯定から話を始めることになります。つまり、「将来に向かってどのように管理していくのか」という視点です。まして、工場が海外にある場合、ことはより深刻です。
相談のあった代表的な事例を国内・国外で分けて述べましょう。
国内
問題の核心は「モノのひっ迫と人材のひっ迫」です。
国内に複数工場を設けた理由の筆頭は「主顧客の近くに設けた」というものです。中小中堅製造業の生い立ちとして「お膝元生産=大企業の外注」という歴史を経ている場合が多く、製造業ニッポンを支えた代表的な構図です。
もう一つの理由は「安い労働力=時給が安く人材が豊富」を求めて、特に東北・北海道・九州などの地域に工場を設けた歴史です。しかし、時は流れて主顧客はその地を離れ(消滅も含めて)、東北・北海道・九州などの地域には半導体生産事業が展開し、当時の目論見(もくろみ)は大きく外れてしまいました。経営層に「何とかしなくては」という思いはあっても、「いろいろな未練」が決断を鈍らせ、結果として現状を招いているわけです。
国内の場合、ロジ・スピードが期待できますから工場との距離はあまり感じませんが、逆にこのロジ・スピードの速さが決断を鈍らせたという皮肉な結果を招いているとも感じています。しかし、モノ不足、人材不足となれば混乱が顕著となり、待ったなしの決断を迫られます。ようやくモノ不足、人材不足という課題に対する弱点としての「複数工場の存在」に気付くのです。
「まずは複数工場を集約したいが、先述した未練や方法論の相談」となるわけです。
海外
外注としての企業の生い立ちではなく、「自社ブランド」「自社技術」を保持した中小中堅製造業の場合、オンリーワンという高付加価値=高利益という背景をうまく利用し、加えて主要市場国での生産という目論見が海外工場を選択させます。この場合「だったはず」と表現すべきでしょうか?
つまり、市場の近くにという視点は国内と同様としても、加えてグローバルに「安い労働力と人材の豊富さ」を求めた結果、東南アジアに工場を持つことになったわけで、国内の複数工場とは次元が異なる状況といえるでしょう。それ故、問題も根深いものです。オンリーワンであっても、このご時世、なかなか長続きはしてくれません。「昔はもうかっていたのだけれども……」という経営層の嘆きは何度となく聞かされています。
海外現法工場とはいえ、本社とは別人格をもって成長します。従って、連結決算という数字でのつながりはあっても、管理・コントロールという「へその緒」は放置した場合、年々細くなっていきます。
海外工場の政治的リスクは言うまでもありませんが、特に経験上一番の問題は「現法の在庫」という「暗部」の増殖です。この問題の詳細は別の機会に述べたいと思っていますが、放置は企業にとって致命的な問題をはらむ危険性があることだけは言っておきます。
従って、この辺りの気づきが将来の結果を左右するわけです。どうやって管理・コントロールするのか、の決断そのものと言ってよいでしょう。経営者マターそのものです。
加えて、製品に対する保証・保守に混乱の結果が顕著に表れます。本社は日本に存在しますが、主市場が日本とは限りません。当然、製品を販売した後の保証・保守業務に必要な部品群の需要はあるわけで、大切なユーザーの信頼を維持するためのCSに直結する重要なテーマです。
しかし、海外工場という距離(=分散)が災いし、ロジ納期も含めてリードタイムが長くなります。海外のどの工場に部品を依頼すれば良いのか? ユーザーが求めている「正しい保守部品」はどれなのか? 在庫の有無は? ロジも含めた顧客への納期回答は? 等々「へその緒」が細くなっている弊害が顕著に表れます。
この辺りで困窮した経営層から相談が舞い込むということになります。
シングルE-BOM・マルチM-BOMの視点を大切にする(管理粒度決定の重要性)
上記の国内外事例で共通していることは、BOMが構築されていないということです。
国内・海外の事例に関わらず「一意の共通言語たる品目コード体系」さえ存在せず、「DXによる管理体系を構築したい」という希望があっても、「その前に地ならしが必要です」となります。DX(AIも含め)の支援を受けて全社効率を高めたいという気づきは良いことですが、その前に「踏むべきプロセスがあります」ということです。
品目コード体系の構築という「はじめの一歩」から始めて、E-BOMの構築、その後に単独工場のシングルM-BOM構築、その後ようやく複数工場のマルチM-BOMの構築という順番です。
複数工場のM-BOMによる管理に対する考え方は、直近では第166~168回に述べましたので再読ください。
第166回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その94~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(1/3)
第167回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その95~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(2/3)
第168回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その96~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(3/3)
シングルE-BOM・マルチM-BOMという考え方に対しては、「くどい」と言われるほど何度も繰り返し述べていますが、私自身、大変重要でかつ難度の高い、ある意味、際限のない管理手法だと考えているためです。どこまで求めても「管理粒度次第」という、まさに経営層の能力と決断が試されるテーマだと思います。「管理粒度が細かければ良い」というものではありません。「管理」=「コスト」だからです。
哲学的な表現になってしまいますが、「どこまで経営を深めていくのか?」という命題に直結するテーマであると考えています。
以上
次回は8月7日(金)の更新予定です。
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