第168回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その96~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(3/3)
今更「E-BOMとは」「M-BOMとは」と述べるつもりはありませんが、コンサルティングの現場では「いまだしっかり理解が及んでいないな」と感じる機会が少なくありません。あらためて一つのE-BOMから複数のM-BOMが生み出されることの理由の深掘りをして理解を促進しましょう。3回に分けたコラムの最終回です。起承転結、初回から通しで読んで、理解を深めてください。
設計部門BOM改善コンサルの現場から~その96~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(3/3)
ノンアルビールの進化が止まりません! 「最初の一口は本物ビール!?」と思わせる飲みごたえです。旨いですね!
ノンアルビールの元祖はホッピーですが、半世紀以上前に生まれたホッピーは今のノンアルビールのニーズとは異なったものでした。当時ホッピーは代用ビールと呼ばれ、ビールが高価で飲めなかった人々がホッピーに安価な焼酎(のようなモノ)を混ぜて愛飲していました。今時のニーズはスマドリというトレンド市場向け脱アルコール飲料ですから、その当時のニーズとは大きく異なります。
ノンアルビールの進化を支える技術的革新はビールから風味(のど越し)を失うことなく、アルコール成分を完全に分離する技術の確立です。であれば、そうです、当初から製造プロセスを変えていない(はず)のホッピーには清涼飲料水としてのカテゴリーで許される範囲で微量のアルコールと「何か」が残っているのです。だから旨いのだと私は勝手に解釈しています。
本年最後のコラムもホッピーネタで締めることができました(笑)
来年も引き続き、製造業のコンサル現場の景色をお届けしたいと思っています。スマドリも継続します(つもり……)。
皆様、良い年をお迎えください。
それでは今年最後のコラム本文と参りましょう。
シングルE-BOM・マルチM-BOMが存在する理由の確認と理解
一つのE-BOMから複数のM-BOMが生み出される理由(可能性)を前々回、前回のコラムから確認・理解できたと思います。
第166回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その94~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(1/3)
第167回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その95~シングルE-BOM・マルチM-BOMを深掘りする(2/3)
逆説的に述べればE-BOMで生産プロセスを全て表現できるのであれば、M-BOMの存在は不要のはずです。
M-BOMという考え方が生まれた理由の底辺には「モノつくりの暗黙知⇒ノウハウの顕在化」と「モノつくり環境の変化への対応」というニーズが製造業には存在することを意味します。
M-BOMが増加すること自体ポジティブに考えるべきで、企業成長に伴い、内製化移行や工場の新設、ましてや海外工場進出となれば、マルチM-BOMは待ったなしです。その意味で、会社成長への展望と合わせて10年以上のスパンで考えてください。つまり、現状最適のBOM管理では御社の成長に伴い、将来のBOM構築に差し障りが出てしまうということです。
大切なことは、会社の将来像(成長カーブ)をしっかり捉えて、「マイグレーションチャート=中期経営計画」にしたがって段階的にM-BOM構築の拡充を図っていくことです。「現行は外注多用でE-BOM≒M-BOMであっても、将来わが社の成長に応じたマルチM-BOMを構築していく必要がある」という認識と理解、そして着実な実行が重要なのです。
「管理粒度の決定」という難しい課題
この管理粒度の決定という難題に関して、最初に述べておきたいことは「決定に対する正解はありません」ということです。「そんな無責任な!」と言わないでください。なぜなら……
つまり、管理粒度=管理レベルというマネジメントの閾値(しきいち)に対する正解はないのです。従って、各社各様の粒度決定が大変重要であり、それ故、社内各部門間のコンセンサスが問われることになります。
もう少し説明しますと、E-BOMの粒度はBOMを構成するユニット群、さらにそれらを構成する部品群以上の粒度細分化はできません。
しかし、M-BOMはどうでしょうか?
粒度の検討事項を具体的に列挙してみましょう。
- 一括外注か渡り外注(複数の外注を渡って調達)か、もしくは双方か?
- 外注か内製か、もしくは双方か?
- 仕掛在庫管理をどの程度の精度にするのか? 設備製造業に多い長期生産L/T(半年、年度またぎなどの長期生産工程)の場合は特に考慮が必要
- 製造工程をどの程度分割、細分化するのか? 内製化の進んだ製造業ほど各工程への指示と対応した着(着手)・完(完了)が重要になる
- 原価捕捉精度をどの程度(精度)にするのか? 生産現場 vs. 管理会計
- 部品レベルの厳密な在庫管理の必要性の有無(完全互換品、代替品、上位互換品 など)
ざっと挙げても、このような検討事項が待っています。「M-BOMは底なし沼」という人がいますが、あながち誤りとはいえません。それ故、沼にハマることがないようにしっかり捉えておきましょう。
私がこの管理粒度にこだわる理由は……
- 粒度の細分化⇒管理コストの上昇
- 粒度の細分化⇒IoTなどのDXを駆使しても現場の負担は増加し、DXに関わるマスター情報管理は煩雑になる
- 類似M-BOMの増加(どこまでを類似と呼ぶのか? の定義はあるが……)
もちろん、この管理を行うプラットフォームは生産管理システムということになりますが、そのシステムの幹となるマスター情報はこの管理粒度の決定によって構成されたM-BOMがベースとなります。
粒度を際限なく細分化し、それをM-BOMの構成に反映することは物理的には可能ですが、同時に管理コストも際限なく上昇していくわけです。もちろん、管理コストは利益を費やしていくだけです(沼にハマってしまった状態)。
管理粒度の決定と管理コストとは常に一対です。従って、経営的視点で最終的にそのバランスを鑑みて粒度を決定することが大変重要なのです。経営層が「全て可視化したい。数字の捕捉をリアルタイム化したい」という気持ちが優先するあまり、管理粒度の細分化に走ることは避けるべきです。
あくまで、各社の事情に合致した経営判断材料として必要不可欠な項目と粒度・精度レベルにとどめるべきと考えます。
この辺りの考え方への提案として「管理粒度の細分化の得失を知ったうえで、あえて荒い粒度で管理する」という感覚の「さじ加減」をお勧めます。このさじ加減を基本に試行錯誤を繰り返していくと、どうしても必要な細分化すべき項目が見えてくると思います。
最初から思いつくままの細分化は管理コスト上昇や生産現場が実行への負荷に耐え切れず、システム全体が実稼働しないという悲しい結末を招いてしまうと思っています。
管理粒度が決定した先には、その粒度を識別する品目コードが必要
シングルE-BOMから管理粒度ごとにマルチM-BOMが生み出されることになります。当然ですが、E-BOMが同じなのですから、それらM-BOMから生み出されるユニット・製品は仕様・機能的に同一(完全仕様互換)です。
では何が異なるのでしょうか?
理解しやすい比較として……
E-BOM(A)から日本工場向けM-BOM(J)と海外工場向けM-BOM(G)とが構築された場合を考えましょう。もちろん、使用される通貨の単位から始まってモノつくり環境は大きく異なるはずです。
先述したように完成したユニット・製品は相互に完全仕様互換ですが……
- 原価(通貨・為替変動も含む)
- 納期(L/T)+輸出入期間
- 外注やベンダーの相違
- 生産工程(内製化レベルや外注化率 など)
- 日本からの支給部品の有無(在庫管理)
等々
まさに管理粒度をどの程度にするのか? によりますが、M-BOM(J)とM-BOM(G)とが同一になる可能性は考えられません。
従って、M-BOM(J)・M-BOM(G)の親品目コードは、おのおの異なることが必然となります。さらにモノつくりの工程、外注・ベンダーへの発注価格・納期、末端部品においてはローカルコンテント(現地調達)による価格・納期・在庫管理に必要な一意の品目コードが別途必要になります。それらの集積によって原価も異なる条件で積算されていきます。
結果、M-BOM(J)とM-BOM(G)とは、生み出すものは同じでもBOM構成は大きく異なり、それを構成する部品群の品目コードも管理粒度に応じて異なることになります。
少し極端な例かもしれませんが、各社の成長に伴い海外工場も将来像として視野に入ってくると考えれば、現在はE-BOM≒M-BOMの状態であっても、それらを絵空事と捉えてしまうことは拙速だと考えます。
生産管理システムが管理を担うという前提で、この例から理解し、考えてもらいたいことは……
- 管理する=識別する⇒品目コードが異なる=M-BOM用品目コード体系や発番機能をどうするのか?
- M-BOMを構成するためのプラットフォームや実際にそれを構築する職務の担当部門をどのようにするのか?
- 日本市場向けにM-BOM(G)を使用したい=M-BOM(J)との識別管理はどのようにするのか?
代替品管理機能などの生産管理システム側の機能も問われてきます。
外見・仕様は同じでも原価やモノつくり工程・L/Tも異なる「同一E-BOMだがM-BOM相違のユニット・製品群に対する考え方や取り扱い方」をしっかり理解したうえで、現時点で必要な管理粒度を決定することの重要性を併せて理解してもらえたと思います。
まとめ
十数年前から訴求を続けているシングルE-BOM・マルチM-BOMですが、BOMの重要性の認識が高まった現在、あらためてその内容を深掘りしました。誤解を避けるために申し添えると、決して一つのE-BOMに対し、たくさんのM-BOMを構築すべきと述べているわけではありません。
最初の図(注)にもあるようにE-BOM≒M-BOMから始まり、この管理粒度でモノつくりプロセスや管理会計的に満足できるのであれば、それで良いわけです。しかし、企業の成長や製造業ニッポンの置かれている環境からマルチM-BOMを考えざるを得ない機会が増えると私は予想しています。その時、慌てるのではなく、常に管理粒度と相談しながらモノつくりとしての将来動向を捉えてください。
しつこく再述しますが「管理=コスト」です。従って、管理粒度を細分化することのメリットが費やすコストを上回ることが必須条件です。BOMというDXに対するモノつくり情報の形態を上手に利用し、DXの能力をうまく味方につけて、会社全体の効率を高めてほしいと思います。そのDXの延長線上にはAI活用というステージが目前に迫っていると感じています。
以上
- (注)図「一つのE-BOMからモノつくり環境に応じた複数のM-BOM」参照
次回は1月9日(金)の更新予定です。
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